厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集
臨床試験のためのPatient-Reported Outcome(PRO)使用ガイダンス
厚生労働研究20AC1003「関連学会の取組と連携したPRO ガイドラインの作成」班 編
序 文
このたび「臨床試験のためのPRO使用ガイダンス」を発行できることを大変嬉しく存じます。
本ガイダンスは、厚生労働省の研究事業(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業)を構成する3つの研究班の一つである「関連学会の取組と連携したPRO ガイドラインの作成」班の支援で完成されました。本研究班の設立にご尽力いただいた、山口拓洋先生(東北大学)、中島貴子先生(京都大学)、厚生労働省の担当の方々、そして、実際に本ガイダンスの編集に多大なご貢献をいただいた川口崇先生(東京薬科大学)、兼安貴子先生(立命館大学)にまず厚く御礼を申し上げます。さらに、ガイダンス(案)に貴重なご意見を頂戴した内外のステークホルダーの方々にもこの場をお借りして感謝申し上げます。
日本における本格的な健康アウトカム評価研究の歴史を紐解くと、1980年代まで遡ることができます。まずエポックメーキングであったのは、厚生省栗原班(1989-93)(班長:昭和大学 栗原稔教授)による日本初のがん患者用QOL調査票「がん薬物療法におけるQOL調査票(QOL-ACD)」の開発が挙げられます。栗原班では班員は手探りで計量心理学を学びつつ、信頼性・妥当性が高い尺度を完成するために最初の2年間はパイロットテストに充てられました。また初期にはFunctional Living Index-Cancer (FLIC)を開発したカナダのSchipper医師を招いて指導を仰いだり、江口研二先生(当時、国立がんセンター)などが中心となってその日本語版を開発したりされたことが思い出されます。QOL-ACDが完成した1993年は、現在もがん臨床試験で世界的に汎用されているEORTC-QLQ C30とFACT-Gも開発されたのと同じ年であり、当時の日本は決して世界に後れをとっていなかったと思われますが、その後日本においては、上記2尺度の日本語版開発と臨床試験における応用が一部の研究者により精力的に行われたものの、多くの関係者には健康アウトカム評価研究の重要性がなかなか理解されない時期が続きました。しかし近年、人権意識の向上と、国際共同臨床試験の標準化などが進み、ようやく日本でも本分野に関心が集まるようになり、このたびのガイダンス開発に結び付きました。
本ガイダンスの各項目は、現時点で当該分野に最も詳しい方々により執筆が行われていることもあり、臨床試験の立案や解釈、また評価結果の臨床現場や社会への積極的な応用を考えている研究者や実務者の方々にとっては、必ずや貴重な道しるべとなることを期待しております。
文責:共同編集者 下妻 晃二郎(立命館大学)
- 著者一覧
- 査読評価担当者一覧
- 略語一覧
- 1. 総論 背景と目的
- 1.1. 本ガイダンス発行の背景
- 1.2. PROとは?―HRQLとの位置づけ(類似点と相違点)
- 1.3. 本ガイダンスの使用が想定される対象
- 1.4. 本ガイダンス発行の目的
- 1.5. 本ガイダンス作成の資金源
- 2. 各論
- 2.1. PROの概念が作られた経緯
- 2.1.1. HRQL評価の標準化を求める規制当局や各団体の動き
- 2.1.2. HRQLからPROへ
- 2.1.3. HRQL / PROガイダンスの発出
- 2.2. 各国規制当局によるPRO、HRQLの定義
- 2.3. 目的に沿った尺度の選択(Fit-for-purpose)の考え方
- 2.4. 計量心理学的特性
- 2.4.1. 尺度が備えるべき計量心理学的特性
- 2.4.2. 信頼性(Reliability)
- 2.4.3. 妥当性(Validity)
- 2.4.4. 反応性(Responsiveness)
- 2.5. 新たな尺度の開発
- 2.5.1. 尺度開発の流れ
- 2.5.2. 質的研究
- 2.6. 使用許諾と日本語版開発
- 2.6.1. 尺度の著作権の確認
- 2.6.2. 海外で開発された尺度の日本語版開発
- 2.6.3. 日本語版利用時の注意点
- 2.6.4. ePROでの使用許諾
- 2.7. 代表的な尺度と測定方法
- 2.7.1. PRO
- 2.7.2. HRQL
- 2.7.3. 選好に基づく尺度(Preference-based measure: PBM)の例
- 2.7.4. 小児・代理人による評価
- 2.7.5. ePRO
- 2.7.6. Computer adaptive testing(CAT)
- 2.7.7. PROMIS®
- 2.8. 臨床研究のデザイン
- 2.8.1. PROのエンドポイントにおける位置づけ
- 2.8.2. PROの臨床的重要性と付加価値
- 2.9. データ解析
- 2.9.1. 統計解析に関する一般的留意点
- 2.9.2. 複数のエンドポイントを用いる場合の統計解析留意点
- 2.9.3. 複合エンドポイントを用いる場合の統計解析留意点
- 2.9.4. 患者レベルの欠測データに関する統計解析留意点
- 2.9.5. Estimandについて
- 2.10. MIDと奏効例の定義を用いた結果の解釈
- 2.10.1. MIDと奏効例の定義
- 2.10.2. MIDと奏効例の定義を用いて結果を解釈する方法
- 2.11. 患者参画とPRO
- 2.12. 倫理的配慮および臨床研究の指針
- 2.12.1. 研究倫理指針の遵守
- 2.12.2. PROと倫理
- 3. 参考文献・参考書籍
- 4. 主な査読評価のご意見とそれに対する対応