厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集
臨床試験のためのPatient-Reported Outcome(PRO)使用ガイダンス
[ 目次 ]
2. 各論
2.1. PROの概念が作られた経緯
2.1.1. HRQL評価の標準化を求める規制当局や各団体の動き
1997年11月、オーストリアのウィーンにて、欧州(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、イギリス)とFDAの関係者とアカデミアが集まり、臨床試験におけるHRQL評価に対する規制当局の懸念、つまり承認プロセスにおけるHRQL評価法の問題点を明らかにすることを目的とした会議が開催された 1。この会議では、HRQL研究を合理化することと、そのためには医療機関、HRQL研究者、製薬企業といった主要な関係者が協力して解決する必要があると結論づけられた。これを受け、規制プロセスにHRQLアウトカムを組み込むための原則およびプラクティスを確立することを目的としたEuropean Regulatory Issues on Quality of life Assessment(ERIQA)グループが設立された 2。この当時、規制当局からのHRQL測定に関する明確なガイドラインはなく、1999年にスペインで開催された国際QOL研究学会(International Society of Quality of Life Research: ISOQOL)では、ERIQA、ISOQOL、国際医薬経済・アウトカム研究学会(International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research: ISPOR)、米国研究製薬工業協会・健康アウトカム委員会(Health Outcomes Committee of the Pharmaceutical Research and Manufacturers of America: PhRMA HOC)の4団体から発出されていたdocument、guidance、recommendationの比較が行われた 3。この報告で用語の定義、尺度に関する諸問題に関して内容のバラつきがあり、内容の統一(Harmonization)が必要であると結論づけられたことをきっかけに、上述した4団体に加えMapi Research institute、FDAがサポートする形でHRQL Harmonization groupが形成された。
2.1.2. HRQLからPROへ
HRQL Harmonization groupは2000年3月から3回の会議を行い、第2回の会議において概念的枠組をHRQLからPROに拡大することが決定された後、2001年にはPRO Harmonization groupと名称が変更された 4。同年10月のDIA(Drug Information Association)にて、FDA(当時)のLaurie Burke氏は、HRQLはPROの構成要素の1つであり、HRQL以外にも治療満足度やウェルビーイングを包含する用語であると定義づけた。PROという用語はそれよりも前から散見されたが、明確にPROが定義されたのは、この発表が起点となったと言える。その後、FDAにはStudy Endpoints and Labeling Development(SEALD)が設置されるなど、PROガイダンス作成へと進んでいったのである。(SEALDは現在のDivision of Clinical Outcome Assessment: DCOAに該当する部門のことである。)
2.1.3. HRQL / PROガイダンスの発出
2005年前までに欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)とFDAはドラフトガイダンスについて協議し、HRQLとPROの定義やガイダンスのスコープについて調整を行っており、その後にEMAからは2005年にHRQLに関するガイダンスが、FDAからは2009年にPROのガイダンスが発出されるに至った。このように、承認プロセスにおけるHRQL測定の課題の整理から始まり、アカデミア、規制当局、製薬企業などが協力して醸成されてきたのが現在のPRO概念形成の経緯である。
- Quality of life and regulatory issues. Report of a meeting held in Vienna, Austria. November 4, 5. 1997. Qual Life Newsletter 1998 Mar 12-13 special issues.
- Apolone G, De Carli G, Brunetti M, et al. Health-related quality of life (HRQL) and regulatory issues. An assessment of the European Agency for the Evaluation of Medicinal Products (EMEA) recommendations on the use of HRQL measures in drug approval. Pharmacoeconomics. 2001; 19(2): 187-95.
- Adnesia K, Marquis P. HRQL and regulatory issues: Status comparison of US and European initiatives: similarities and difference. ISOQOL, Spain. December 3 1999. [http://www.eriqa-project.com/_upload/conferences_80.pdf] (アクセス最終日2022年8月21日)
- Acquadro C, Berzon R, Dubois D, et al. Incorporating the patient's perspective into drug development and communication: an ad hoc task force report of the patient-reported outcomes (PRO) harmonization group meeting at the Food and Drug Administration, February 16, 2001. Value Health. 2003; 6(5): 522-31.
参考文献
(川口 崇)