患者報告アウトカム
(Patient-Reported Outcome:PRO
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厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集

臨床試験のためのPatient-Reported Outcome(PRO)使用ガイダンス

1. 総論 背景と目的

1.1. 本ガイダンス発行の背景

近年の医療技術の進歩は目覚ましく、新規の、あるいは従来の標準治療よりも有効かつ安全な医療用製品(医薬品、医療機器、医療材料など)の開発と普及の促進が望まれている。一方、医療用製品の有効性や安全性の適切な評価には、臨床試験や優れた臨床研究の計画・実施が必須である。有効性や安全性を評価する際の具体的なアウトカム指標として、最も重視されるのは、「生存アウトカム」(生存期間など)と「健康アウトカム」(健康度や健康関連QOL(Health-Related Quality of Life: HRQL)など)の2つとされる。

生存アウトカムと異なり、健康アウトカムについての信頼性・妥当性が高い評価は必ずしも容易ではない。その理由の一つ目は、第三者による客観的評価だけでは把握しにくい領域があることが知られており 1-4、そのような領域に関しては患者の主観的な評価が必要であるが、測定に関する様々なバイアスを排除しつつ評価する必要があること、二つ目は、健康アウトカムに含まれる健康度、Quality of Life(QOL)、HRQLなどの概念は幅広く複雑であり、医療用製品の評価において含めるべき領域についての合意が得られにくいこと、などがあげられる。そのような背景から、医療における主観的な健康アウトカム評価の適切な指標として、誰にでもよりわかりやすい「患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome: PRO)」という言葉が生まれた。

本ガイダンスは、臨床試験においてPROを使用する際に押さえておくべきルールを簡潔に示すものである。

1.2. PROとは?―HRQLとの位置づけ(類似点と相違点)

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)から発出されている、医療用製品の申請においてPROを用いる際のガイダンス 5,6 では、「PROとは、臨床家その他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られた、患者の健康状態に関するあらゆる報告である」という定義づけがなされている。シンプルでわかりやすい定義であるが、PROとHRQLとの位置づけ(類似点と相違点)については様々な議論や解釈がある。

医療の領域だけに限るとPROの方がHRQLよりも広い概念に見えるが、QOLやHRQLはそもそも、患者以外の一般人が対象だったり、福祉、介護、教育、哲学、倫理、宗教など多岐にわたる分野で扱われたりするため、そういう意味ではPROはHRQLよりも狭い概念ともいえる。(詳細は2.2を参照

1.3. 本ガイダンスの使用が想定される対象

わが国の規制当局に医療用製品の市販の許認可、もしくは上市後の臨床試験において、PROを使用する臨床試験を計画・実施する製造販売業者や、それに関連する研究者が主な想定対象である。さらに、費用対効果評価制度において、PROに関する情報の分析や解釈を取り扱う、もしくは診療ガイドライン、適正使用ガイドラインの開発に携わる研究者や医療専門職も想定対象に含まれる。

1.4. 本ガイダンス発行の目的

本ガイダンスの発行により、医療用製品の当局による許認可、費用対効果評価制度における追加的有用性評価、臨床現場における適正使用ガイドライン開発などの場において、PROを用いた臨床試験を取り扱う実務者が、押さえておくべきルールを理解でき、そのことによって臨床現場や社会において、PROの情報が適切に役立つようになることが目的である。

1.5. 本ガイダンス作成の資金源

本ガイダンスの作成は、厚生労働省科学研究費補助金(政策科学総合研究事業(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業))(厚生労働省発科0224第1号)の支援を受けて行った。作成にあたり厚生労働省の助言を一部受けているが、資金源との独立性は保たれている。

    参考文献

  1. Sonn GA, Sadetsky N, Presti JC, et al. Differing perception of quality of life in patients with prostate cancer and their doctors. J Urol. 2013; 189: 59-65.
  2. Shimozuma K, Ohashi Y, Takeuchi A, et al. Feasibility and validity of the Patient Neurotoxicity Questionnaire during taxane chemotherapy in a phase III randomized trial in patients with breast cancer: N-SAS BC 02. Support Care Cancer. 2009; 17: 1483-91.
  3. Petersen MA, Larsen H, Pedersen L, et al. Assessing health-related quality of life in palliative care: Comparing patient and physician assessments. Eur J Cancer. 2006; 42: 1159-66.
  4. Basch E. The missing voice of patients in drug-safely reporting. N Eng J Med. 2010; 362(1): 865-9.
  5. US Food and Drug Administration. Guidance for industry. patient-reported outcome measures: Use in medical product development to support labeling claims. US Food and Drug Administration, 2009.
    https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/patient-reported-outcome-measures-use-medical-product-development-support-labeling-claims(アクセス最終日2022年8月21日)
  6. 業界向け指針. 患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome: PRO)の測定法:医薬品/医療機器における適応申請のための方法. 米国連邦保健福祉省, 食品医薬品庁, 医薬品評価研究センター(CDER), 生物製剤評価研究センター(CBER), 医療機器・放射線製品センター(CDRH). 2009年12月.
    https://ispor-jp.org/wp-content/uploads/2022/10/patient-reported-outcome-pro.pdf(アクセス最終日2022年8月21日)

(下妻 晃二郎、宮崎 貴久子)