厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集
臨床現場のためのPatient-Reported Outcome (PRO) 使用ガイダンス
- 臨床におけるPRO評価のためのユーザーガイド ダイジェスト版 -
著者・協力者一覧(50音順)
執筆者 | 鈴鴨 よしみ | 東北大学 医学系研究科 障害科学専攻 肢体不自由学分野 |
協力者 | 兼安 貴子 | 立命館大学 生命科学部 生命医科学 立命館大学 総合科学技術研究機構 医療経済評価・意思決定支援ユニット |
星野 絵里 | 立命館大学 総合科学技術研究機構 医療経済評価・意思決定支援ユニット | |
堺 琴美 | 立命館大学 総合科学技術研究機構 医療経済評価・意思決定支援ユニット | |
下妻 晃二郎 | 立命館大学 生命科学部 立命館大学 総合科学技術研究機構医療経済評価・意思決定支援ユニット |
前書き
本ガイダンスは、厚生労働省の研究事業(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業を構成する3つの研究班の一つである「関連学会の取組と連携したPRO ガイドラインの作成」班(研究代表者:立命館大学 下妻晃二郎)の支援で完成されました。研究班の設立、運営、本ガイダンスの編集にお力添えくださった皆様に御礼申し上げます。
この研究班では、まず「臨床試験のためのPRO使用ガイダンス」の作成が着手されました。臨床試験のためのPRO使用ガイダンスに盛り込む内容について協議を重ねるうち、臨床現場のためのガイダンスの必要性についても議論されました。臨床現場でのPRO評価のためのガイダンスは、国際QOL研究学会(ISOQOL)が作成したユーザーガイドがあり、日本語に訳された版が利用可能となっています。そこで、本研究班が示すガイダンスは、このユーザーガイドのダイジェストを紹介することとし、さらに詳細を紐解きたい方はユーザーガイドを読んでいただけるように組み立てることといたしました。
そのような経緯から、本ガイダンスには、考慮すべき必要事項のエッセンスのみが記載されています。臨床現場でPRO評価を実施しようとする際に、プランを立てる手がかりとして、皆様のお役に立つ資料となることを祈念いたしております。
文責:共同編集者 鈴鴨 よしみ(東北大学)
1.臨床でPROを評価する目的を特定する
2.評価する対象者、環境、タイミングを選択する
3.使用する尺度(質問票)を決める
4.実施方法とスコア化の方法を選択する
5.PROの結果を報告する
6.スコアを解釈する
7.PROによってあきらかになった問題に対応する
8.臨床でPRO評価を行うことの影響を評価する
<ユーザーガイドの「手引き」について>
このダイジェストは、臨床におけるPRO評価についての以下の国際的ガイドラインの骨子をわかりやすく要約した資料である。詳細は、以下の参考文献を参照していただきたい。
- 臨床における患者報告アウトカム(PRO)評価のためのユーザーガイド(第2版).国際QOL研究学会(原題: User’s Guide to Implementing Patient-Reported Outcomes Assessment in Clinical Practice. Ver. 2)
- 上記の解説論文「臨床における患者報告アウトカム評価 - 選択肢と検討事項のレビュー」(Implementing patient-reported outcomes assessment in clinical practice: a review of the options and considerations).Snyder CF, et al. Qual Life Res. 2012; 21: 1305-14.
- 臨床における患者報告アウトカム(PRO)尺度の実施:ISOQOLユーザーガイドの手引き(国際QOL研究学会)(原題:Implementing Patient-Reported Outcome Measures in Clinical Practice: A Companion Guide to the ISOQOL User’s Guide)
- 上記の解説論文(Implementing patient-reported outcome measures in clinical practice: a companion guide to the ISOQOL user’s guide.)Chan EKH, et al. Qual Life Res. 2019; 28: 621-7.
また、“PRO”や“健康関連QOL”についての情報は、「臨床試験のためのPRO使用ガイダンス」に掲載されているのでそちらを参照していただきたい。
臨床ケアは患者が「良くなる」ことを目指しているが、患者による日常生活機能やウェルビーイングの報告(患者報告アウトカム(PRO))を日常臨床で収集することは、ほとんど行われていない。国際QOL研究学会(ISOQOL)が2011年に作成し2015年に改訂した「ユーザーガイド」は、PRO活用に関心を持つ臨床家を支援することを目的としている。ユーザーは、このガイドに記されている検討事項について、その選択肢、必要な資源や利点・欠点を考慮しながら実用的な意思決定を行うことができる。
1.臨床でPROを評価する目的を特定する
PROは、患者の問題のスクリーニング、経時的なモニタリング、患者中心ケアの促進の目的で使用することができる。スクリーニングでは1回の評価によって、他の方法では見逃されがちな問題を知るのに役立つ。モニタリングでは複数回の評価によって、患者の健康状態の変化を追跡し必要に応じて治療の変更を考慮することができる。また、患者へのフィードバックによって患者中心ケアを促進することができる。
2.評価する対象者、環境、タイミングを選択する
外来患者か入院患者か、急性期かリハビリテーションの状況か、などにより評価の環境や可能なタイミングが異なる。受診時以外のタイミングでの評価は、ウェブサイトや電話などの仕組みが必要である。それぞれ、必要な資源(人やシステム)を事前に考慮しなければならない。
3.使用する尺度(質問票)を決める
尺度を決定する際には、目的や状況を鑑みて以下のことを考慮することが必要である。① 包括的(より一般的な内容)か疾患特異的(ある疾患に特異的な症状を中心とした内容)か、② プロファイル型(広範囲のPRO領域の複数のスコアを提供)か選好に基づく尺度(複数領域を集約した単一スコアを提供)か、③ 単一項目(簡単だが信頼性低い)か複数項目(時間がかかるが精度や妥当性が高い)か、④ 静的質問票(一般的な質問票)か動的質問票(コンピュータ上で回答者の回答によって次に提示される質問が異なる)か、などである。必要に応じて、使用許諾申請や利用料支払いを行う。
4.実施方法とスコア化の方法を選択する
自己記入式、面接式、コンピュータ式などの方法がある。自記式や面接式はその後のデータ入力が必要となる。コンピュータ式は自動的にデータ入力やスコア化することが可能だが事前のシステム開発が必要である。
5.PROの結果を報告する
臨床パスに取り込むかどうか、報告する相手は誰か(医師や医療チーム、患者)、結果への対応をいつ行うか(評価のタイミングや実施方法によって異なる)、報告様式をどうするか(数値の表示、グラフ化、比較データの提示)、などを検討する必要がある。
6.スコアを解釈する
まずはスコアの高低が表す意味を確認する必要がある。重症度等によるカットオフ値、類似患者集団の調査研究結果、一般集団の基準値などがスコアの解釈に役立つ。患者個人の経時的な変化も解釈を助ける。
7.PROによってあきらかになった問題に対応する
PROの結果は、臨床において対応する必要のある問題に優先順位をつけ、治療・ケアの効率を高めるために用いることができる。PRO結果と他の臨床指標データと統合して行動方針を決定することが必要である。
8.臨床でPRO評価を行うことの影響を評価する
準実験的質改善のデザインでは、計画-実行-評価-改善のサイクルを回しながら少しずつ変更を加えていく。対照群を持たないためバイアスのリスクが高いが、さまざまなケースにおいて介入がどのように機能するかを知るために貴重な情報が得られる。実験的デザイン(ランダム化比較試験など)は費用や人員など多くの資源を消費するが、バイアスを小さくし比較的妥当性の高い結果を得ることができる。
<ユーザーガイドの「手引き」について>
「手引き」は、実際に臨床でPRO尺度を使用した10名の経験を集め、具体例や課題をまとめたものである。機関にPRO評価を導入するにあたり、特に以下の5点の重要性を強調している。(1)PRO評価を臨床ワークフローと治療の意思決定に統合すること、(2)すべての主要なステークホルダーを可能な限り関与させること、(3)実施するために必要なリソースが何かを見極めること、(4)電子的PROデータ収集の活用、(5)実施に最適なタイミングをみつけること。