厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集
臨床試験のためのPatient-Reported Outcome(PRO)使用ガイダンス
2.8. 臨床研究のデザイン
2.8.1. PROのエンドポイントにおける位置づけ
研究者は、PROに特化した研究仮説とPRO評価の科学的背景と理論的根拠、および、特定のPROの目的または仮説を記述し(関連するPRO概念/ドメインを含む)、PROのエンドポイントが臨床試験で果たすべき役割(すなわち、主要エンドポイント、重要な副次エンドポイント、探索的エンドポイント)を定義し、当該試験環境におけるPROの選択、収集方法を検討し、適切な統計手法を計画し適用できるよう考慮する必要がある。エンドポイントモデル 1 と呼ばれる方法で計画することが重要な意味を持つかもしれない。
2.8.2. PROの臨床的重要性と付加価値
研究および日常臨床における PROの評価は、個々の患者のケア、および、臨床家、規制当局、医療管理チーム、委託者、政策立案者にとって、様々なメリットをもたらす可能性がある 2,3。臨床研究、特に、臨床試験や観察研究におけるPROの利用は確立されつつあり、患者の視点から見た疾患の負担や介入の効果、有効性、費用対効果に関する貴重なエビデンスを提供することができる。
規制当局が許認可や効能・効果に関する情報を得るために身体的な症状や機能を重視するのに対し、患者や医療政策立案者は、社会的活動への参加や感情的な幸福など、HRQLの他の領域に関心を持つかもしれない 3。ステークホルダーが関心をもつPRO尺度は、患者参画、質的研究、あるいは、コアアウトカムセット(Core outcome set: COS)を通して特定することができ、日常診療や有効性(effectiveness) 試験で評価するための標準化されたアウトカムのセットが提供される。これらのセットには、総死亡率などの従来の臨床転帰に加えて、症状負担、機能、疾病管理などの指標が含まれることが多く、これらはPRO尺度を利用して測定することができる。International Consortium for Health Outcomes Measurement(ICHOM)やCore Outcome Measures in Effectiveness Trials initiative(COMET Initiative)から、いくつかのCOSが提供されている 3。
原疾患自体と治療の両方が患者に与える潜在的な影響をよりよく理解することで、PROの情報により意思決定を強化することができる 2。PROの尺度や評価は、臨床的に意味のある影響を検出できるものでなければならず、試験結果の解釈の助けとなり、臨床的な推奨に影響を与えると期待される実用的なものであれば、付加価値を提供できる。また、患者や臨床家が、患者の副作用の認識や疾患関連症状に対する治療法の予想される影響について、より完全な情報を得ることができれば、意思決定を助けるという付加価値も得られるであろう。
治療の有用性は、有効性または安全性のいずれかの優位性(あるいは、満足度やQOL、医療経済性など)によって示される 2。例えば、治療効果は、症状の改善や発症の遅延として、あるいは副作用の軽減や遅延として測定されることがある。反応性と変化は、患者集団と背景に依存するため、PRO 尺度に関連する変化の値は一定ではない。しかし、治療効果やリスク、変化の関連性の大きさは、主に関連する患者の臨床的なアンカーに基づくべきである。イベント発生までの時間以外のアウトカム指標については、統計的検定のために平均値の差を利用してもよいが、個々の患者における「改善」と「悪化」を正当に定義し事前に定義された指標との関連性を検討することで、PROデータの解釈を容易にする必要があるかもしれない(2.9参照)。
HRQLを含む PRO 測定が、製造販売承認申請におけるベネフィット・リスク評価に影響を与えるという意味で、付加価値を持つ可能性がある状況は以下の通りである 2。後期緩和ケア、維持療法、有効性が類似しているが安全性プロファイルが異なる薬剤の比較試験など。ある種の疾患環境、すなわち、例えばベースライン時に腫瘍関連症状を有する患者において、抗腫瘍効果に関連する症状反応または症状進行の遅延は、治療活性の有効な指標であり、開発後期の治療研究において貴重なエンドポイントとして役立つ可能性がある。さらに、症状のある腫瘍の進行までの時間(または関連する悪化までの時間)も、患者の利益の適切な指標となりうるため、ORR(Overall Response Rate)や PFS(Progression Free Survival)による裏付けが必要である。
PROデータの潜在的な付加価値(他のデータ(エンドポイント)に加えてPROデータを測定する価値があるかどうか)を評価するために使用される基準には以下が含まれる 2。
- 試験で使用される尺度・評価の適切性、信頼性、妥当性、反応性。
- 患者集団、疾患のセッティング、治療レジメンを考慮したデータ収集の頻度と期間、分析方法の適切さ。
- 統計解析における複数アウトカムおよび欠測データの適切な取り扱いに関する仮説および方法、並びに PRO データの適切な報告基準を含む試験デザインの適切性。
- 臨床的に関連する指標に基づく効果の大きさの根拠 - 関連する治療効果の大きさの提案は、統計解析計画の中で事前に確認されるべきである。
- 統計的有意性だけでは臨床的に意義のある治療効果を証明することなく、統計的有意性だけで特定の主張を行うには不十分である。
- 観察された変化や変化がないことを説明しうる別の理由の検討。
最後になるが、PROの付加価値はステークホルダーによって変わりうることに十分留意すべきである 3。
- U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration. Guidance for industry: patient-reported outcomes measures: use in medical product development to support labeling claims. Issued December 2009. Available from: https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/patient-reported-outcome-measures-use-medical-product-development-support-labeling-claims(アクセス最終日2022年8月21日)
- European Medicines Agency. Appendix 2 to the guideline on the evaluation of anticancer medicinal products in man. The use of patient-reported outcome (PRO) measures in oncology studies. Issued April 2016. Available from: https://www.ema.europa.eu/en/documents/other/appendix-2-guideline-evaluation-anticancer-medicinal-products-man_en.pdf(アクセス最終日2022年8月21日)
- Calvert M, Kyte D, Price G, et al. Maximising the impact of patient reported outcome assessment for patients and society. BMJ. 2019 Jan 24; 364: k5267.
参考文献
(山口 拓洋)