患者報告アウトカム
(Patient-Reported Outcome:PRO
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厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集

臨床試験のためのPatient-Reported Outcome(PRO)使用ガイダンス

2.5. 新たな尺度の開発

2.5.1. 尺度開発の流れ

測定したい概念を評価できる尺度が存在しない場合、新たな尺度の作成が必要となる。2.4.で説明した特性を備えた尺度を作成するための開発手順の概要を示す 1

まず、関心のある概念についての適切な概念モデルを開発する。理論的なモデルに基づき、必要な要素、その要素を表す質問項目、および質問と要素間の関連を特定することによって行われる。関連する文献のレビュー、関心のある概念に関する専門家(例えばがん疼痛を測定したいのであれば腫瘍内科医や緩和ケア医)や、その概念の測定対象となる患者集団の意見の入手を通して、関心のある概念の要素(ドメイン)を表す項目を作成し、モデルを構築する。これらの質的手法を通して、既述の内容的妥当性が担保される。

尺度案ができたら患者を対象に認知デブリーフィングを行う。この作業を通して、尺度の項目の理解が作成者たちの理解と同じであるかどうかを検討し、リテラシーや専門用語の問題などを評価し、必要な改定訂を行う。

その後、量的評価のための調査を実施する。項目の性質(床効果や天井効果と呼ばれる偏りがないか、欠損が多く生じないか、など)を確認した後、信頼性や妥当性の検証を行う。また、仮説検証に必要な他尺度や群を分類する指標などを調査に加える必要がある。さらに、再テスト信頼性や反応性の検証のためには、1時点だけでなく適切な期間を設定した2時点でデータを取得することが必要である。対象の選択方法、サンプルサイズ、結果を解釈する基準等は、COSMIN 2 を参照されたい。

2.5.2. 質的研究

質的研究は、現実社会の中で人々の「What is X ?」「How?」「Why?」をその人々の言葉を用いて説明を試みる研究方法である 3。ヘルスサイエンス研究では、主にサービスにおけるプロセスや、量的データを収集しにくい希少疾患患者の経験などに用いられる。

FDAのガイダンスでは、尺度開発の一連の手続きとして、質的研究が尺度の概念モデルや項目作成および内容的妥当性の検証にも用いられている。申請時に必要なのは、プロトコルや半構造化インタビューガイド、フォーカスグループ(集団面接で、その集団内の参加者同士の相互作用を活用する)、オープンエンド(選択肢がきめられておらず、回答者が自由に幅広く答えることができる質問)のインタビュー、尺度の認識に関するインタビューなどの記録である。データ収集のためのインタビュー実施者の訓練が必要であることにも言及している。また、PROを「臨床家や他者による修正や解釈なしに、患者の健康状態について、患者から直接得られる測定結果である。PRO は、患者の自己申告またはインタビューによって測定することができ、インタビュー実施者は患者の回答のみを記録する」 4 と定義しており、PROはインタビューによっても測定できることが記述されている。

一般的な質的研究の報告では、SRQR(Standards for Reporting Qualitative Research) 5 やCOREQ(Consolidated criteria for reporting qualitative research) 6 を参照のこと。

    参考文献

  1. Rothrock NE, Kaiser KA, and Cella D. Developing a valid patient-reported outcome measure. Clin Pharmacol Ther. 2011; 90(5): 737-42.
  2. COSMIN. Available from https://www.cosmin.nl/(アクセス最終日2022年8月21日)
  3. Pope C & Mays N (eds.) Qualitative research in health care 3rd edition. BMJ Books, Blackwell Publishing, 2006.
  4. US Food and Drug Administration. Guidance for industry patient-reported outcome measures: Use in medical product development to support labeling claims. Silver Spring: US Food and Drug Administration. 2009.
  5. O'Brien BC, Harris IB, Beckman TJ, et al. Standards for reporting qualitative research: a synthesis of recommendations. Acad Med. 2014; 89(9): 1245-51.
  6. Tong A, Sainsbury P, and Craig J. Consolidated criteria for reporting qualitative research (COREQ): a 32-item checklist for interviews and focus groups. Int J Qual Health Care. 2007; 19(6): 349-57.

(鈴鴨 よしみ、宮崎 貴久子)