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インフォーミング・ジャッジメント
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VI VI. 南アフリカ共和国におけるHIV母子感染の抑止
 Reducing Mother-to-Child Transmission of HIV Infection in South Africa
Jimmy Volmink,Patrice Matchaba,Merrick Zwarenstein
川上 純一   富山医科薬科大学附属病院 薬剤部
エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
序 論(Introduction)
政治的背景(Political Context)
ポリシーの論拠(Rationale for the Policy)
われわれからの報告書(Our Report)
反映と一般化(Reflection and Generalization)
文 献
用語集(Glossary)

われわれからの報告書(Our Report)
 政府に提出したわれわれの報告書の目的は,HIVのMTCTを防ぐための抗レトロウィルス治療の効果に関して,最も信頼性のある情報を要約することである。費用対効果,実施可能性(feasibility),受容性(acceptability)に関する問題はわれわれの権限とされていない。下記はわれわれの知見を短くまとめたものである。
■□■  ジドブジン(zidovudine)  ■□■
 最も広く研究が行われている抗レトロウィルス薬zidovudine(azido-deoxythymidine,AZT)は,自然界に存在するヌクレオシドであるthymidineの合成誘導体である。zidovudineはHIV-1ウィルスがRNAを鋳型として二重螺旋のDNAを合成するために必要な逆転写酵素(reverse transcriptase)を抑制することで作用する。zidovudineによる治療は血漿におけるウィルス量を減少させるが,リンパ球や組織におけるウィルス量は減少させない。zidovudineは胎�'を透過して臍帯血中で治療濃度に達し,また母乳中にも分泌される。
有効性(Efficacy)
 1994年に公表されたThe AIDS Clinical Trials Group (ACTG 076)のレポートは,zidovudineがHIV のMTCTの抑止に有効であることを報告した最初の信頼性のあるエビデンスである10)

 ACTG 076の治療方法は複雑でコストも要したため,妊娠後期と分娩時に投与する短期コースでのzidovudineが,タイのバンコク11),コートディヴォアール12),コートディヴォアールとブルキナファソ13)においてプラセボ対照のランダム化比較試験により評価された。これら3つの「短期コース」での治験において報告された感染リスクの減少率は,それぞれ50,37,38%であった。

 上記の4つの治験結果にもとづいたメタアナリシスは,ジドブジン単独での治療がHIV感染リスクを半減(相対リスク減少率RRR 0.47,95%信頼区間0.32-0.59)させ,HIVのMTCTの抑止に極めて有効な手段であると報告した14)
妊娠への安全性 (Safety in Pregnancy)
 ACTG076での被験者であった子供達のフォローアップにより,感染のなかった子供において4歳までの期間中に重大な有害作用(adverse effect)はなかったことが再確認された15)。さらに,製薬業界のサポートを受けているAntiretroviral Pregnancy Registryは,妊娠中にzidovudineを投与された子供300人において先天性障害の割合は増加しなかったと報告しており,この中には妊娠初期の3ヵ月間に投薬を受けた89人の子供も含まれている。
妊娠期間におけるジドブジン使用の効果のまとめ
(Summary of Effects of Zidovudine Use in Pregnancy)
 これまでのエビデンスから,zidovudineはHIVのMTCTの抑止に有効な薬剤であることが示唆された。現在までに報告されている最も重大な副作用は貧血であるが,これは一時的な症状であり,生後12週までに回復する。得られたランダム化試験において評価された感染率にもとづくわれわれの算出では,ACTG 076の方法によって治療を受けた1,000症例において乳児のHIV感染の抑止が167名,貧血を発症する乳児が91名であり,そのベネフィット-リスク比(benefit-risk ratio)は1.8である。それと比較して,短期コースでのジドブジン治療による1,000症例では感染の抑止が100名,貧血の発症が11名であり,そのベネフィット-リスク比は9である。
■□■  ネビラピン(nevirapine)  ■□■
 nevirapineは,非ヌクレオシド型で強力な抗ウィルス活性を有する逆転写酵素阻害剤である。経口投与によりすみやかに吸収され,胎�'透過性も高い。これらの特性に加えて妊婦や乳幼児において消失半減期が長いことにより,分娩時における本剤の投与は有効性が高い。
有効性(Efficacy)
 短期コースでのnevirapineの有効性と安全性は,HIVNET 012試験においてzidovudineを対照として分娩時の女性と生後1週間までの乳児への投与によりに評価された16)。本試験は,ウガンダにおいて授乳婦を主な対象として行われたオープンラベル(非盲検)ランダム化比較試験である。zidovudineと比較して,nevirapineは生後14週から16週の乳児へのHIV感染率を48%(95%信頼区間17-60%)減少させた。これらの結果は有望と思われるが,採用されたzidovudineでの治療法については以前の臨床試験でテストされておらず,またzidovudine投与群における感染率が高かったことは留意すべきである。したがって,nevirapineの有効性を,すでに確立されている短期コースでのzidovudineと比較することは不可能である。
安全性(Safety)
 nevirapineの安全性に関するデータはほとんど得られなかった。慢性投与時の主な副作用は,服用した人々の0.3%にみられるスティーブンズ・ジョンソン症候群である。その他の副作用は,発疹,顆粒球減少症および肝機能障害である。HIVNET 012試験では,nevirapineとzidovudineとの間で,母子における血液学的毒性,新生児死亡率および母親死亡率に差は認められなかった。1999年12月までに全世界で700人以上の女性にMTCTの抑止のためにnevirapineが投与されたが,安全性に関する問題は報告されていない。
■□■  抗レトロウィルス治療の併用療法  
  (Combination Antiretroviral Therapy)  ■□■
 2種のヌクレオシド型逆転写酵素阻害剤であるzidovudineとlamivudine(3TC)の定量併用療法の効果は1つの臨床試験(Clinical Studies on Prevention of Perinatal HIV ,PETRAとして知られている)により評価されている14)。本報告を作成した時点において,生後6週までの感染リスクに関する予備的な知見のみが得られている。
有効性(Efficacy)
 PETRA試験における予備的な結果として,zidovudineとlamivudineを妊娠36週から出産まで投与した場合(リスクは半減,RRR=0.48, 95%信頼区間:0.24-0.65)と,分娩時から産後1週間まで母親と乳児に投与した場合(リスクは1/3に減少,RRR=0.34, 95%信頼区間:0.06-0.54)に,感染リスクが減少することがプラセボを対照とした比較試験により示された。分娩時のみにこれら薬剤の併用療法を行った場合には,感染リスクが減少するエビデンスはない(効果はプラセボと同等,RRR=1.01, 95%信頼区間:0.74-1.38)。併用療法とzidovudine単独との比較が行われていないため,lamivudine(3TC)の追加によるベネフィットを評価することはできない。
安全性(Safety)
 WHOの最近の未発表報告書は,zidovudineと3TCが投与されていた女性が出産した非感染の子供2名が神経学的疾患に至るまれなミトコンドリア障害が原因で死亡したことに関するフランスの研究に言及している17)。その後,米国の疾病管理・予防センター (Centers for Disease Control and Prevention: CDC)と NIHは,非感染の子供14,000名を対象に各症例のレビューを行った。33名の死亡例において,ミトコンドリアが原因とされるケースはなかった。PETRA試験のオーガナイザーが確認した内容として,ミトコンドリア障害が原因である可能性のある神経学的症状やその徴候が5名においてみられ,1名はプラセボ群であった。
■□■  費用対効果(Cost-effectiveness)  ■□■
 本報告書では費用対効果について記述していないが,MTCTの抑止を目的とした抗レトロウィルス薬使用に関する経済評価は多数報告されている。これらの研究は,薬剤のコストだけではなく,出生前のサービス,カウンセリング,検査およびトレーニングなどのコストも計算に入れている。本報告書を作成した時点において,南アフリカのデータを用いた研究では,zidovudineは年間数千名の命を救うとともに医療サービス全体のコストを減少させるとしている18)。これは主に,zidovudineを投与しなければHIV陽性で出生してその後のケアに大きく依存する子供達が利用することになる医療サービスを減少することができることによる。医療コストは,より安価で有効性が高く,特に製薬企業が無償提供の意向を打ち出している観点から,nevirapineの使用によりさらに削減できるであろう。
■□■  実施に関する問題点(Implementation Issues)  ■□■
 南アフリカ全体でHIV感染のある妊婦に対してひとつの抗レトロウィルス治療法を用いるというポリシーの変更には,政治的な決断が要求される。実現の可能性に関するいくつかの問題点についても注意を払う必要があろう。出生前サービスへのアクセスも均一ではなく,この問題にも着手しなければならない。また,カウンセリング施設や検査キットが不足することもしばしば見受けられ,これらの提供も不足している。多くの場合,女性達は羞恥心や不安からHIV検査を受けることを拒んでおり,そのために妊婦にとって必要な社会的・医療サービスを受けていない。検査を受けた女性がその結果を受け取りに来ない場合もしばしばある。したがって,最適条件で実行するためには,薬剤コストとは別にさまざまな要因を考慮する必要がある。
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