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インフォーミング・ジャッジメント
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VI VI. 南アフリカ共和国におけるHIV母子感染の抑止
 Reducing Mother-to-Child Transmission of HIV Infection in South Africa
Jimmy Volmink,Patrice Matchaba,Merrick Zwarenstein
川上 純一   富山医科薬科大学附属病院 薬剤部
エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
序 論(Introduction)
政治的背景(Political Context)
ポリシーの論拠(Rationale for the Policy)
われわれからの報告書(Our Report)
反映と一般化(Reflection and Generalization)
文 献
用語集(Glossary)

ポリシーの論拠(Rationale for the Policy)
■□■  利害関係者のプロセスへの関与  
  (Stakeholders and Their Involvement in the Process)  ■□■
 1999年11月21日,保健省長官 (director-general for health: DG)との電話での予備的な打ち合わせの後に,われわれのメンバーの一人(J.V.)は保健相から,HIVのMTCT抑止のための介入に関する「リスクと利益のプロファイル」(risk-benefit profile)についての「徹底した評価と分析」を提出するように要請された(南アフリカは連邦制ではなく単一国家であり,国全体のためのヘルスケアポリシーを決定する保健省がある。しかし,これらの決定は各州の保健省により実行され,貧困者のために税収入で賄われている医療ケアを提供している。それぞれの州ごとに保健大臣がおり,国家の決定に関係する彼らの自治権の制限に関してはまだ試験段階である)。DGは,政府が抗レトロウィルス薬に関するポリシーの導入に失敗した場合には裁判に持ち込まれる危険があるため,この情報は緊急に必要であることを強調した。

 研究者(J.V. とP.M.)らは,レビューを完了して報告書を作成し,保健相とDGへ1999年12月24日にファックスで送付し,2000年1月4日には郵送した。その報告書に添付されたカバーレターで,エビデンスの内容について保健相とDGおよび彼らが参加させたいと希望する他の人々と討論会を行うように要請した。この要請には返事がなかった。

 しかし,報告書の提出の後に,研究者らは2回にわたり連絡を受けた。電話と2000年2月8日付のDGからの手紙で「nevirapineに関する他の研究」の情報提出を要請された。すでに報告書にも記述したウガンダで行われた治験と現在進行中のSouth African Intrapartum Nevirapine Trial (SAINT)以外の情報は見出せなかった。われわれが報告をDGに送付した時点以降では,ウガンダでのnevirapineの治験における耐性パターンの予備分析が入手可能になっていた。その後,研究者の一人(J.V.)は2000年2月29日に保健相から「zidovudine(イタリック付き)に関する報告について感謝したい。われわれは現在審査を進めているところである。あなたには通常のコースに戻ってもらいたい」との手紙を受け取った。保健相は現在までにそうしたことを行っていない。
■□■  なぜポリシーが開始されたか(Why the Policy Has Initiated)  ■□■
 南アフリカ政府は,当初からHIV感染のための抗レトロウィルス薬に関する詳細なポリシーを作成しないと決めており,また一般的にMTCT予防には抗レトロウィルス薬を用いないポリシーをもっていた。この背景にある理由は明らかではなく,またさまざまな理論にもとづいている。薬剤の安全性とコストに対して関心が払われたようであるが,正式な費用対効果研究が実施されず,また保健省からの照会もなかった。

 批判者はエイズ流行に対するマネジメントが非常に困難であるために政府は否定的な立場にあるのだと結論付けた。一部の人々は,これは政府のエイズに対する異論者(dissidents)と偽科学(pseudo-science)に対する気まぐれによるものかもしれないと考えた9)

 政府への批判者は,エイズによって死亡する成人の急激な増加がもたらす孤児の数を考慮する必要があることからポリシーが開始されたと述べた。また,エイズ遺児のケアは国家の経済的負担となるため,HIVのMTCTを防ぐことが最善であるとする政治家の意見も紹介された(http://www.hivnet.ch:8000/africa/af-aids)。

 政府はマンパワー,社会基�'の建設,検査業務,カウンセリング,社会サービスの支援などの間接的な経費については述べていないが,これらは現在の難局の大部分を占めている可能性がある。他のアフリカ諸国と同様に,南アフリカは世界銀行(World Bank: WB)と国際通貨基金(International Monetary Fund: IMF)から奨励された経済政策を進めている。その政策は,コスト削減の手段として,保健や教育部門の求人を凍結する結果となった。エイズ問題に正面から取り組むということは,保健や社会サービスに関わるより多くのスタッフを雇用することを意味している。残念ながら政府はこの問題に対して公に説明していないが,それは現在の政権の支持者に歓迎されないであろうと考えられる。

 政府の立場についてのもう一つの理由は,強制実施権,ジェネリック医薬品の製造,特許医薬品の輸入を認める新しい法案の可決を妨げることになった製薬企業との論争である。この法律はHIVの治療と予防に関する医薬品だけではなく,すべての薬剤に影響を及ぼすと考えられる。現在,製薬企業は告訴を取り下げたため,この法案は立法化される予定である。

 論争はNkosazana Zuma氏が保健相に就任した頃に始まり,彼女が1998年に周産期に使用するzidovudineのための国家予算はないことを言明(とその後に大統領も同様に発言)したことの背景的理由であろう。グラクソ・ウェルカム社からの南アフリカでのzidovudine価格を世界平均価格の30%に引き下げる申し出や,ベーリンガー・インゲルハイム社からのnevirapineを期間限定で無料にする申し出は,政府に対して抗レトロウィルス薬に関するポリシーを変更するように説得するには十分ではなかった。この理由は,政府がHIV治療の問題を,すべての医薬品費用を削減させるための多くの課題の最初の一つにすぎないと,たんに考えたためと,最初の問題解決の失敗によりキャンペーン全体を危うくすることを望まなかったのかもしれない。
■□■  ポリシーへの反対意見(Opposition to the Policy)  ■□■
 政府は,妊娠期間における抗レトロウィルス薬の使用に関するポリシーについて反対派から激しい抗議を受けた。保健相Manto Tshabalala-Msimang氏がHIV陽性の女性にzidovudineを提供しないと決定したことに対して,汎アフリカ人会議政党(Pan Africanist Congress Party)のスポークスマンCosta Gazi氏は,南アフリカ人権委員会(South Africa's Human Rights Commission)に人権侵害罪であると告訴した。これに対して,政府はGazi氏(東ケープ州保健省の首席保健官でもあった)が公に政府を非難したことは公職法(Public Service Act)に違反しており,保健省の名誉を棄損したとして5つの不正行為を告訴した。

 その他の反対意見は,HIV感染の妊婦に無料の抗レトロウィルス薬を配布しないと決定した政府に抗議するために,2000年の議会開始時期から監視を行っていたエイズ活動家たちから起きた。その一グループである治療活動キャンペーン(Treatment Action Campaign)は,これ以上準備を遅延させることは「不道徳,不経済,法律違反」(immoral,uneconomical and unlawful)であるとし,政府にこの問題に対して行動を求める裁判を起こした。

 抗レトロウィルス治療の有効性に関するエビデンスが蓄積すると,医療専門家や製薬産業界なども含めたさまざまな関係者からの批判も増加した。政府は,政策支持者を科学分野から探すことで批判に対処しようと試みた。

 最初に,政府は医薬品規制当局であるMCCに頼り,zidovudineに関するエビデンスを要請した。1999年10月に提出されたMCCの報告書ではzidovudineの使用が支持されたが,レビュープロセスの厳格さに欠けているとの理由で保健省に否認された。つぎに,南アフリカ・コクランセンター(SACC)に助力を求めた。この内容は本報告書で証明されている(SACCは,ヘルスケアの介入に関する既存のエビデンスに対するシステマティックレビューを行う個人と団体のグローバルネットワークの一部門であり,MRCによって資金提供を受けて管理されている)。最後に,大統領によるエイズ委員会が召集され,他の問題とともに,抗レトロウィルス治療の役割に関して助言を与えるよう要求された。
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