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インフォーミング・ジャッジメント
インフォーミング・ジャッジメント
0 I I' II III IV V VI
III III. カイザー保険の全国統合糖尿病ケア:管理プログラム
   ブリティッシュコロンビア州におけるエビデンスにもとづく医薬品ポリシーの実行と評価
 (Kaiser Permanente's National Integrated Diabetes Care Management Program)

Matt Stiefel,Kendra Rothert,Robert Crane ,William Caplan,Helen Pettay
内田 英二   昭和大学医学部 第二薬理学
エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
序 論(Introduction)
カイザー保険におけるクリニカルリサーチ,ポリシー,実施の統合
 (Integration of Clinical Research, Policy, and Implementation at Kaiser Permanente)
ケーススタディ:カイザー保険の糖尿病ケアマネジメントプログラム
 (Case Study: Kaiser Permanete's Integrated Diabetes Care Management Program)
エピローグ(Epilogue)
文 献
用語集(Glossary)
付 録(Appendices)

ケーススタディ:カイザー保険の糖尿病ケアマネジメントプログラム
(Case Study: Kaiser Permanete's Integrated Diabetes
Care Management Program)
■□■  ケアマネジメント研究所の背景  
  (Background Information about the Care Management Institute)  ■□■
 一般的に「病気のマネジメント」を意味するケアマネジメントは,コストに焦点を当てた“マネジドケア”の改革に勝る次世代の大きな進化的なステップであると,革新的なヘルスケアのエキスパートらから評価されている。ケアマネジメントがもたらす人々の将来の健康状態とケア実行システム自身への影響は,米国の医療費のほぼ60%を占める慢性疾患の管理を向上させる可能性があるならば,深い意義があると予測されている。

 50年以上前に住民を基本とした予防ケアの変革に着手したカイザー保険は,住民基本の健康管理を改革の次のレベルと考えている。1997年のHealth PlanとPermanente Federationの提携協定により,われわれの健康管理組織全体のケアマネジメント活動を運営,出資,促進する権利をもつケアマネジメント研究所(Care Management Institute: CMI)が設立された。

 CMIのケアマネジメントは,メンバーの適切な分類のためにコーディネートされたヘルスケアであり,将来を見越してメンバーの機能的な状態を発展,維持し,また低下を阻止することを意図している。用語の定義は次のとおりである。
コーディネートされたケア:多方面の学術知識をもつヘルスケアチームにより実施されるケア。通常,“ケアマネージャー”はケアが完璧にコーディネートされていることを確実にするために処置を監督している。
適正な分類:糖尿病,喘息,うつ病,また虚弱体質の老人や妊婦など,身体のコンディションを特定した,メンバーの健康状態による分類。
推奨された眼科検査を行った総合の割合は,1999年には75%であった。これはHealth Plan Employer Data and Information Set(HEDIS)90回目の57%の規準を上回り,Healthy People 2000の目標の70%を超えた。
将来を見越した積極的な予防と健康維持:個人にあったケアプランをもとにした,各患者のための対策は積極的に遂行され,また健康状態は長期にわたって観察されるため,いかなる健康状態の悪化にも早期に対処できる。
 患者の慢性的な症状を改善し,また彼ら自身のケアに従事させることにより,組織的なコーディネート,メンバーの分類,予防を通じてケアマネジメントは,何百万人もの人々の健康状態と機能的な状態を改善することができる。それに加え,将来を見越した予防的なケアマネジメントは,慢性疾患患者の急性期ケアに対する増大する費用の要求を著しく減少させることが可能である。サンフランシスコのカリフォルニア大学Institute for Health and Agingの1995年の研究によると,慢性疾患患者のための治療は,救急治療の55%と入院診療の80%を含み,国家の医療費の半分を占めている。もしも将来を見越したケアマネジメントにより,それら急性期ケアの大部分を減少させることができるならば,節約された額をすべての人のために,より優れたより多くのケアに移すことができる。

 マネジメントケアから恩恵を受けることができる人々は,特定の特徴を共有する者である:それらは,高額な治療費がかかるもの,一般的に有病率が高い疾患,効果的でエビデンスにもとづいた治療の可能性が高いものなどである。したがって,糖尿病,喘息,うつ病,心疾患,冠状動脈疾患(Coronary artery disease)などはケアマネジメントの代表的候補である。CMIは,これらの疾患をもつ患者のための包括的で統合されたマネジメントプログラムと年ごとの結果研究(outcome study)を開発した。

 これら5つの優先的な分野は,約100万人のカイザー保険のメンバーに影響を及ぼし,また年間30億ドルの増加額(これらの疾患をもたないメンバーのためのコストを超える金額)に値する6,7)。これらの疾患に対する最新の医学研究にもとづいたプログラムの実施は,メンバーの大多数の生活の向上,従業員の生産性の改善,すべてのメンバーにとって入手しやすいヘルスケア,専門的技術の向上を生み出す結果となる。

 Kaiser Permanente's Program Offices(法人組織)の一つの部署であるCMIは,Health Plan's Regionsによって資金調達されている。CMIは,オークランド,カリフォルニアにおける小規模な国によるスタッフや,実行に携わる医師,プロジェクトマネージャーおよび各プログラム地域のアナリスト(またはプログラマー)の広域ネットワークによって運営されている。現在の1,230万ドルのCMIの予算は,カイザー保険全体の170億ドルという予算のごく一部分である。CMIの予算の半分以上が,実施や分析のサポートのために地域へ返還される。CMI予算収支の差額はマネジメントプログラムの開発と,カイザー保険の医学に関する国家規模のウェブサイト(Permanente Knowledge Connection: PKC)などの下部組織のサポートに使用される。

 CMIは優先的な人々のために医学的な効果と効率を上げるよう地域における実施と分析のサポートに資金提供をしている。資金提供との交換に,地域はMemoranda of Understanding agreement(MOUs)を形式化し,投資よりも作業価値を向上させることに焦点を当てている。各地域はMOUの目標とする作業に対する進展報告を1年に4回作成している。そのプロセスは下記の内容を遂行する。
  • CMIの投資のための責務を構築する。
  • 投資と,結果としての利益についての簡潔な文書を作成する。
  • 最大限の可能性を持って作業の着手に焦点を当てる。
  • プロセスの日常的なレビューの枠組みを作成する。
  • 管理者にとって簡単で明確なものにする。
■□■  市場(The Market)  ■□■
購入者(Purchasers)
 購入者の関心事は依然費用であるが,より広範囲の国家規模の購入者のために,低コストよりもヘルスプランの価値をより広く定義するようになった。これらの購入者は,利用者の満足度,医学的な効果,生産性向上のエビデンスを要求している。
消費者(Consumers)
 他のヘルスケアの消費者と同じように,カイザー保険のメンバーは,彼らの健康管理に関する内容の決定に参加することにますます関心をもち,また助力としてインターネットを活用するようになった。
ライバル企業 (Competitors and Other Players)
 これらは,他の国家レベルのマネジドケア団体,営利目的の疾患マネジメント企業,製薬会社を含んでいる。彼らは消費者が彼らのヘルスケアに参加できるシステムを開発してヘルスケアへの増大する勢力に対処している。しかし完全に統合した実施と経済システムが欠けるため,彼らが消費者と共同でケアを管理できる能力には限度がある。
認定者と政府 (Accreditors and Government)
 National Committee for Quality Assurance(NCQA)は,国のマネジドケア組織のクオリティを評価し報告する独立した非営利組織である。NCQAは下記の内容を通じてヘルスプランを評価する。
認定:医学または管理に関する重要なシステムや,ケアとサービスの重要項目におけるヘルスプラン実行に関する厳格なレビュー。
Health Plan Employer Data and Information Set
(HEDIS):標準化された実施対策。
Consumer Assessment of Health Plans Survey
(CAHPS):メンバーの満足度についての包括的な調査。
 認定プログラムは自発的なものでありかつ厳格であるが,国のHMOの半分以上が参加している。HEDISのスコアは現在,マネジドケア組織の内容を評価するために消費者グループ,政府機関,雇用主などに広く利用されている。HEDISのスコアは購入者や消費者にとって非常に重要なものである一方,それらは国のマネジドケアプランの報告の共通要素としての解釈に限られている。カイザー保険は,ヘルスケアの成果に密接に関連しているCMIの対策を利用して,HEDISの医学的作業の測定を補助している。

 Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS=前Health Care Financing AdministrationまたはHCFA)と州政府は双方ともケアを購入し,どのような内容が補填の対象になるかを含めたベネフィットに関する規制的な枠組みを設定する。
■□■  糖尿病プログラムの概要(Diabetes Program Overview)  ■□■
 Integrated Diabetes Care(IDC) ProgramはCMIによって開発された優先的なケアマネジメントプログラムの最初の項目であった。IDCプログラムの企画,開発,実行は4年に及んだ。プロジェクト計画の段階は,Permanente Medical Group と Health Planのリーダーらからの国家資金支援の設立とともに,1996年の春に開始された。1996年の秋は,プログラム開発における地域間の共同作業の開始時期とされた。19997年には,初期のCMIの中心となる構成要素を作成するためにワークグループが設立され,最初の結果報告(1996年のデータ)を作成し,患者の調査を実施しながら測定と評価のシステムが開始された。

 IDCの全プログラムは,1998年の1月に組織全体に分配された。プログラムの開始に続き,焦点は継続的な測定と評価と同時に,普及と実施に向けられた。2回目の報告書は1999年1月(1997年のデータ)に出版された。また1999年初頭にはIDCプログラムを改定するために,地域間のワークグループが再び召集され,医療行為の推奨例のエビデンス方式による評価,ガイドライン,ケアモデルの拡張(医学的ケアとその効果を最大限にするためにどのように実施システムを構成するか),およびマネジメント対策の変更などに焦点を当てた。改訂されたプログラムは1999年夏に審議され,最終の改訂版は1999年12月に配布された。継続的な測定と評価作業により,1999年12月(1998年のデータ)に3回目の結果報告書を,2000年8月(1999年のデータ)に4回目の報告書を発行する結果となった。2000年の全体的な焦点は,Permanente Medical GroupsとHealth Plan全体でIDCプログラムを実施することであった。

 カイザー保険のリーダーらからの資金援助を得るために、CMIを進めまたケアマネジメントに対する国の着手をどのように最善の方法で開発するかを最初に調査した部署によって,業務事例が作成された。地域間のアプローチの利点は,下記のものであるとされている。
多数の地域における疾患マネジメントプログラムを開発するための重複した作業の除去。
各地域が代替となるアプローチや測定法を採用した後で,他の地域と構成の再調整が必要となるような追加作業の予防。
市場へのスピードを早めるために,各地域への早急な改革の伝達と普及の実行。
比較可能な目的のために,異なる作業環境からの類似した結果データの入手。
カイザー保険におけるクリニカルケアのより優れた統一性。
カイザー保険に対する国民的な定評。
主な慢性疾患のための統合的なプログラムに対する購入者の要望に得心のいく説明ができる。
HEDISや他の測定法の,改善された結果を助長する。
国に影響力のある糖尿病グループ(American Diabetes Associationなど)との協力関係を可能にする。
 IDCの最優先目標は,糖尿病のメンバーの健康状態を向上させ,疾患の進行をコントロールし,身体の障害を予防することである。その他の目標は下記のものを含む。
医療行為において,最新の医学的エビデンスと国の標準の適用を促進する。
証明された糖尿病ケアのアプローチの要因をIDCプログラムとの統合により普及させる。
糖尿病患者であるメンバーが,彼らのヘルスケアチームと協力のうえで,健康状態とケアについて効果的な自己管理者となるよう指導する。
医師による糖尿病に対する介入を効果的に実施するために,立証された戦略を推奨する。
重要な測定結果に対する評価を通じて,ケアの向上を明確に証明する。
 IDCプログラムは,各階級の経済と知的資本を利用し全人口を基本としている。プログラムは,統一性がありかつ高品質なケアの供給へ挑戦することをカイザー保険の糖尿病のメンバーに公言している。IDCプログラムは,糖尿病の治療のための医学的エビデンスに強くもとづいている。プログラムはエビデンスに焦点を当て,下記の内容を含むわれわれの包括的なケアマネジメントプログラムの多数の方面に通じている。
エビデンスにもとづいた国の診療ガイドライン
ケアのモデル:患者登録,層別(化)方法論(stratification methodology),チームのアプローチに対する傾倒,ケアの評価を含む
医師の情報に関する資料
患者の情報に関する資料
測定システム
テクノロジーの手段を含む実施のためのサポート
 われわれの糖尿病ケアマネジメントプログラムの詳細は付録Aに記述する。
■□■  管理者のかかわりとコミュニケーション  
   (Stakeholder Involvement and Communication)  ■□■
内部(Internal)
 CMIは,全体的なプロセスの促進を行っているが,カイザー保険の医学や運営に関する多数の専門家にプログラムの要旨を伝達するために,彼らの多くとかかわっている。特に,入手可能な医学文献の評価を行う際など,開発はエビデンスにもとづいたアプローチに従って行われる。ポリシーは下記の内容により開発される。
医学の指導役としてカイザー保険の有能な医師を任命する。
地域のリーダーにより定められた,開発のためのワークグループで作業する医師や運営マネージャーを招集する。
内容を発展させる際にはエビデンスに厳格にもとづくこと。
最終決定の前には幅広い「レビューとコメント」のプロセスを活用すること。
新規のプログラムを始めるのではなく,まず既存のプログラムを新しい原案に取り入れることなど,方針については融通性を促進する。
実施に導くためにわれわれの「運営ネットワーク」 を活用する。
 われわれの糖尿病ケアマネジメントプログラムの利点は,カイザー保険全体の人々やグループが広くかかわっていることが大きな要素であり,下記の内容を含んでいる。
National Health Pan と Federation のリーダーシップ:CMIのための承認と資金援助。
CMI Board:糖尿病プログラムと国民の結果報告の選択,レビュー,承認,支持。
CMIナショナルスタッフ:プログラムと結果報告の作成と更新,また地域における作業改善の対象となる内容の取り決め。
糖尿病プログラムの医学的指導:専門家の知識を提供し,プログラムと結果報告に対する信頼性を与える。
糖尿病プログラムナショナルワークグループ:診療ガイドラインに対する意見の一致を築き,医師の承認と指示を得る。
糖尿病プログラムの結果についての諮問グループ:国の統一性のある測定の明細を作成また認可し,結果報告を批評する。
CMI実施ネットワーク:地域での実施のためのサポート。
CMIの分析ネットワーク:登録簿と分類を作成,維持し,国民の結果報告書のために意見や地域のデータを作成させる。
地域のリーダーシップ:ケアマネジメントプログラムの資金援助と承認を行い,CMIの作業改善の対象となる内容を協定する。
ナショナルユーザーグループ:ケアマネジメントプログラムを実施している医師や運営マネージャーは,成功例や新しい医学情報について意見交換するために,定期的に会合を行う。
ケアマネージャー:登録メンテナンス,内外部活動,健康管理指導,グループ訪問を通じて,糖尿病のメンバーを管理する医師をサポートする。
医師:メンバーに糖尿病のケアを行う。
メンバー:医師,ケアマネージャー,自己管理資料,ウェブサイト(KPオンライン)健康管理のクラス,助言看護師などを含む,カイザー保険の資力にもとづき,彼ら自身のケアの大半を行う。
 糖尿病ケアプログラムとその作業は,下記のさまざまなメカニズムにより内部で情報が交換されている。
  • Integrated Diabetes Care Programファイル
  • 国の年次結果報告
  • ウェブサイト(Permanente Knowledge Connection)
  • Online Continuing Medical Education
  • 目的とする作業の進展に対する地域の季刊報告書
  • CMI Implementation Networkの会議
  • ナショナルユーザーズグループ の年4回の学会
  • 隔月のニュースレター(CMIdeas)とCMIの年次報告
外部(External)
 直接的な外部の管理者は,主な購入者,NCQA,CMS,American Diabetes Association (ADA),Foundation for Accountability(FACCT),Diabetes Quality Improvement Project(DQIP)を含んでいる。
主な購入者:CMIは,われわれのケアマネジメントプログラムとプロセスについての概要を含むパンフレットと,結果についての情報など糖尿病を含めたそれぞれのプログラムの折り込み広告を全国の雇用主のために作成した。彼らは,われわれのケアマネジメントプログラムと従業員への効果についてますます関心をもつようになった。たとえばPitney Bowesは,われわれの糖尿病プログラム患者情報資料を従業員に配布している。
NCQA:マネージドケア組織を認定するNCQAの一部は,Health Plan Employer Data Information Set(HEDIS)スコアによって決定される。HEDIS2000にあるケアの有用性の中には,総合的な糖尿病ケアとして血糖,脂質,網膜症および腎症が記載されている。
CMS:連邦の高齢者向けメディケア(Medicare)の資金について監督するCMS(前HCFA)は,購入者および規制者として,糖尿病ケアマネジメントに関心を寄せている。HCFAは資金を提供し,Diabetes Quality Improvement Projectを開始した(下記参照)。
ADA:ADAは,診療ガイドラインを作成し,糖尿病患者へのケアを査定する作業と結果測定を含む医師のためのProvider Recognition Programに資金提供している。
FACCT:この非営利組織は,消費者や患者のケアに対する意識を高めることと,消費者またはヘルスケアサービスの購入者がより簡単に利用できる情報を作成することに焦点を当てている。
DQIP:これはHCFA,ADA,NCQA,FACCT,American Academy of Physicians,American College of Physicians,Veterans Administrationの共同作業である。DQIPの目的は,さまざまな規制組織の異なる基準に対処しなければならないヘルスプランの負担を軽減するために,一つのまとまった基準を開発することであった。彼らが開発した基準は,HEDISとADAの基準の発端であった
■□■  エビデンス(Evidence)  ■□■
糖尿病選択のエビデンス(Evidence for Choosing Diabetes)
 糖尿病は,高い有病率,合併症や死亡の危険性,治療費,またケアマネジメントによる健康状態の向上の可能性などさまざまな要素にもとづき,最初のCMIケアマネージメントプログラムに選ばれた。

 糖尿病は,カイザー保険の多数のメンバーに影響を及ぼしている。1999年には,33万人すなわち6.1%の成人のメンバーが糖尿病であるとされた。これらの割合は,米国における糖尿病の有病率と一致しており,American Diabetes Associationは約1,600万人(5.9%)が糖尿病であると推計している8)

 多数のメンバーに重要な影響を及ぼしていることに加え,糖尿病の苦痛は多大なものである。糖尿病は,深刻な健康被害や合併症のほかに体内のすべての臓器に影響を及ぼすことがある。糖尿病の合併症には,失明など微小血管の障害,腎臓病,下肢下部の切断などがある。米国では,糖尿病は成人の失明の新しいケースの主な原因である9)。また腎臓病末期症状の主要な原因でもあり,新しいケースの40%を占めている9)。糖尿病患者はアメリカ人のわずか6%であるが,米国における下肢切断の半分以上が糖尿病患者である9)。また糖尿病は心臓病や脳卒中など大血管(macrovascular)障害を引き起こす危険性が高いとされている10)。最後に,糖尿病は死亡の危険性が高い疾患であり,米国では,糖尿病は主な死亡原因の7位に位置している9)

 糖尿病が原因となる健康状態の低下と生活にかかる負担に加え,糖尿病は大きな経済的な負担を与える。米国では糖尿病のコスト(直接または間接的なコスト)の概算は年間合計980億ドルである。カイザー保険内の,糖尿病を患うメンバーの1人あたりの治療費の概算は年間4,150ドルであり7),糖尿病をもたないメンバーより3,500ドル超過している11)。糖尿病の患者のための治療費は,糖尿病ではない患者の治療費の約2.4倍高かった11)

 糖尿病の効果的な治療は,関連する合併症を予防または遅延することである12)。治療に広い多様性と人々の階層やケアチームのコーディネートなど全人口へのアプローチへの要素があるため,糖尿病はケアマネジメントの重要な機会を代表している。ケアマネジメントは,糖尿病患者のアウトカムの改善とコスト削減に寄与している。
糖尿病の診療ガイドラインのエビデンス(Evidence for Diabetes Clinical Guidelines)
 CMIのガイドラインは,エビデンスにもとづくガイドライン(Group Health Cooperative of Puget Sound,カイザー保険南カリフォルニア,カイザー保険北カリフォルニア)または標準化された文献のレビュー(Cochrane Collaboration)のどちらかの正式なエビデンスにもとづいている。エビデンスが関連のある最新の文献を含まないときは,CMIはそのギャップを埋めるためにエビデンスのレビューを行った。

 われわれの推奨するエビデンスの階級は,「強い」(A),「良い」(B),「弱い」(C),と専門家の意見である。多数の研究が異なる結果を支持する際には,エビデンスの評価は最も強力な研究にもとづいている(規模が大きく,よくデザインされたランダム化比較試験)。
  • 「強い」(A):関連する集団を対象にした,少なくとも2つのよくデザインされたランダム化比較試験(RCT)によるサポートが必要。
  • 「良い」(B):1つのランダム化比較試験,またはよくデザインされた非ランダム化比較試験,またはよくデザインされたケースコントロール試験のサポートが必要。
  • 「弱い」(C):1つの非ランダム化比較試験または類似した実験的なデザイン(quasi-experimental design)を用いた多数の小規模な試験によるサポートが必要。
  • 専門家の意見:ガイドラインの中のその他すべての推奨は,このカテゴリーに属し,不十分なエビデンスであることを意味している。推奨は糖尿病専門家により指導される。
 カイザー保険の糖尿病の診療ガイドラインとそのサポートに関するエビデンスは付録Bに示されている。
エビデンスの継続的な効果(Continuing Impact of Evidence)
 最新のエビデンスにもとづく方式を維持するために,われわれのプログラムは定期的に見直され,改訂されている。診療ガイドラインを含むプログラムは,最低2年に1度は見直されている。初版は1997年に作成され,第2版は1999年に発行された。それに加え,近年発行された臨床試験の新しいエビデンスにもとづき,医療行為に関する新しい2つの推奨が,2000年版に加えられた。前述のように,アウトカムの測定は毎年見直され,改訂されている。アウトカムのデータは,効果的な作業を証明するためのエビデンスとして,また向上への作業を必要としている分野として活用される。
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