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インフォーミング・ジャッジメント
インフォーミング・ジャッジメント
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III III. カイザー保険の全国統合糖尿病ケア:管理プログラム
   ブリティッシュコロンビア州におけるエビデンスにもとづく医薬品ポリシーの実行と評価
 (Kaiser Permanente's National Integrated Diabetes Care Management Program)

Matt Stiefel,Kendra Rothert,Robert Crane ,William Caplan,Helen Pettay
内田 英二   昭和大学医学部 第二薬理学
エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
序 論(Introduction)
カイザー保険におけるクリニカルリサーチ,ポリシー,実施の統合
 (Integration of Clinical Research, Policy, and Implementation at Kaiser Permanente)
ケーススタディ:カイザー保険の糖尿病ケアマネジメントプログラム
 (Case Study: Kaiser Permanete's Integrated Diabetes Care Management Program)
エピローグ(Epilogue)
文 献
用語集(Glossary)
付 録(Appendices)

付 録(Appendices)
■□■  付録A:  
   KP-CMIの糖尿病ケアプログラムの概要  
  (Appendix A. Overview of KP-CMI's Integrated Diabetes Care Program)  ■□■
エビデンスにもとづく医療ガイドライン(Evidence-Based Clinical Guidelines)
 成人糖尿病ケアのためのクリニカルプラクティスガイドラインは,IDCプログラムの中枢であり,状況に応じてスクリーニング,治療,患者の照合などの補助となる,エビデンスにもとづいたアルゴリズムと議定書により成り立っている。ガイドラインは,ケアを行う医師らがIDCの資料を簡単に使用できるよう簡潔で指導的な書式で記述されている。また国家のガイドラインも組織におけるケアの統一性を強化し,地域におけるガイドライン作成の作業を減少させている。重要項目は,血糖スクリーニングとコントロール,腎臓スクリーニング,また網膜症のスクリーニングとそのガイドライン照会の推奨である。

 最新化のために,新しいエビデンスのレビューとわれわれのガイドラインの見直しと改訂が2年に1度行われている。これらのエビデンスにもとづく医学的な推奨を実践に移すわれわれの医師らの能力を促進するために,ガイドラインは書類やコンピュータにより広く配布される。またガイドラインの推奨は,サービスの確認,組織内外の資料,ケア登録,われわれの医療情報システムを含む医療情報の材料に統合されている。
ケアのモデル(Model of Care)
 ケアのモデルは,下部組織と患者ケアの管理と実践のためのプロセスである。ケアのモデルは4つの重要な要素をもっており,それらは,登録による患者の識別,患者の階層構造,チームによるアプローチ,ケアの評価である。重要項目に加え,ケアのモデルのための推奨内容は,カイザー保険内で使用されているモデルのサンプルを含んでいる。さまざまなモデルを加えることは,われわれのプログラムマネージャーがモデルを選択したり,地域で最善の策がとれるようモデルの要素を組み合わせたりすることを可能にする。
  登録による患者の識別(Population Identification through a Registry)
 糖尿病登録の主な目的は,糖尿病のグループを認識,分類し,サービスの履歴,ケアの調整が必要な患者の選択,また処置の結果についての評価を行うことである。登録は,対象となる医療フィードバック報告の作成や,他の品質向上のために利用される。また報告書は雇用者に,病気を患う従業員がカイザー保険から受けるケアを示すために作成されることもある。
  患者の満足度(Stratification of Patients)
 満足度は,共通の情報や内容を必要とするメンバーのサブグループを選定し,異なるレベルの介入からベネフィットを受けるグループを分割するために利用される。決められたグループに使用される成層方法論は,グループの規模,地域リーダーのプログラムの目的,スタッフの予測,またより多くの患者のために使用される技術の範囲などにより決定される。

 成層方法論は患者に直接的なサービスを提供するIDCプログラムの他の要素(患者への指導,グループ訪問,慢性疾患の自己管理のためのプログラム等)と組み合わされることが望ましいとされる。成層方法論は,糖尿病患者の3つの層を作成する。最も軽度の疾患をもつ患者は適切にコントロールされ,通常,臓器ダメージの末期とされるエビデンスをもたない。これらの患者は,主治医やヘルスケアの専門家から通常の方法でほとんどのサービスを受ける。最も重篤な疾患をもつ患者は,危険で多数の合併症をもち,しばしばsubspecialtyのサービスを必要とし,これらの患者は「ケースマネジメント」となる可能性がある。大部分の患者がこれら2つの中間であり,医学的に重要な糖尿病ケアを必要とするが,同時にケアコーディネーションシステムにより適切に管理されうるものである。
  チームによるアプローチ(Commitment to a Team Approach)
 ケアのモデルは,特定の役割が異なる臨床家ら(ケアコーディネーター,糖尿病指導者,主治医,眼科専門医など)に任せられるチームアプローチである。中でもケアコーディネーターの役割は,糖尿病のメンバーの管理の中心であるため特に重要である。

 ケアコーディネーターは,治療のアルゴリズムと,患者の管理を行うための医師からのフィードバックを重視している。特にケアコーディネーターは,1000人の患者をフォローするが,主に100人から150人のケアの管理を行う。管理期間には,患者は自己管理への妨げとなる内容に関する問診,生活態度の改善の適切なゴールの設定とフォローに対する指導,管理が必要な主な要因の設定を受け,明確なフォローアップの指導とともに従来のケア提供者へ戻ることになっている。

 ケアコーディネーションは,管理を必要としている患者に対し,その重要性を伝えることにより本来のケアを強化することを目的としている。また,深刻で高額な医療費のかかる合併症にかかりやすい患者への注意に焦点を当て,最も効果のあるケアの要因を明確にしているため,ケアコーディネーションは糖尿病の管理には費用対効果のあるものといえる。
  ケアの評価(Evaluation of Care)
 どのようなものが作業し,何が違いを生むかを明確にするために,すべての実施内容は評価されなければならない。それぞれの領域の評価は次のものに焦点を当てている。
  • 患者の成層化のために優先順位を決定すること。
  • 患者の成層化に関する報告の解釈と使用のために医師と他のヘルスケア専門化の評価を行うこと。
  • 高度なレベルのケアマネジメントを行うコーディネーターのために,危険を伴う患者における成層方法論の成果の査定を行う。
  • 患者の健康状態への成果,自身の疾患の管理に関する患者の自信,ケアへの満足度に対する測定を行う。
  • 成層化することがプロセスの効率を改善するか否かの解釈(医師の訪問や入院の必要性を減少させることができるか)。
医師の資料(Clinician Resources)
 医師の資料はポケットカード,スクリーニングの手段,リスク計算機,コンピュータによる確認などを含んでいる。また,医師が糖尿病ケアの第一線に存在することが可能であるよう,われわれは糖尿病ケアのためのオンラインの医療教育モジュール(CME)を作成した。

 これはわれわれのエビデンスにもとづく医療ガイドラインのうえに成り立ち,医師がCMEの単位を取得する間に,糖尿病ケアに関する知識を試すことを可能にするものである。またわれわれの糖尿病プログラムは,改善の管理に焦点を当てた重要なセクションも含んでいる。われわれのプログアムのモジュールは態勢変革理論にもとづき,医師と患者にとってポジティブな変革を実行し継続することを目標としている。
患者の資料(Patient Resources)
 IDCにおける患者の資料は,チップシート,糖尿病に関する行動計画,パーソナルケアと検査記録,ウェブサイトにもとづいた自己管理のための資料を含んでいる。患者の自己管理は,糖尿病のあらゆるケアマネジメントプログラムにおいて重要な要素である。糖尿病は複雑で生涯にわたる疾患であるため,患者が自己管理にかかわり,それを可能にすることは,成果と適切なケアを達成し継続させるために極めて重要である。われわれの医療ガイドラインやケアのモデルのような自己管理の手段は,この分野のエビデンスにもとづき,入手可能な手段を代表している。

 IDCプログラムの他の重要な要素は,統合された患者の指導である。IDCにおける患者の指導は,糖尿病をもつ患者がグループ訪問に参加するよう働きかけている。グループはメンバーに,類似した問題に直面している他のメンバーと話したり,カイザー保険における指導をより多く受けたりする機会を提供している。

 糖尿病に関する指導の旧式で教訓的な方法を変革するために,患者は具体的で適切な目標を定め,個人の自己管理方法を作成するよう促される。指導は,より確実なものにするために各患者と医師の変革への準備に対応して行われる。
測定システム(Measurement System)
 IDCの測定システムは,達成された結果の証明や,改善が得られた分野の確認,また地域間の比較と確認や,地域における効果的な作業の情報交換に加え,カイザー保険におけるプログラムの成果の評価を可能にする。

 われわれの測定作業は主に年次報告書に焦点を当てている。これらの国家による研究は,すべての地域の医療プロセスに関するデータと,われわれの33万人の糖尿病をわずらうメンバーの健康状態の成果についてのデータを含んでいる。これらの報告書のための基準は,われわれの医療ガイドラインと,糖尿病ケアの結果に関する文献によるエビデンスと提携される。これらの報告書は,内容の確認と傾向を追跡しながら毎年作成される。

 このプロセスの要素として,報告書に含まれている基準は,糖尿病ケアにおいて医療と測定の専門家である地域間の諮問グループにより毎年審議されている。基準は,エビデンス方式,関連性,実現性,価値,また可能な活動の度合いのために評価される。たとえば,管理データによって把握できない基準は「実現性」の基準に適合しないとされ,測定に含まれない。このように,測定に追加される基準はその分野での進歩,またはわれわれがデータを把握できる可能性の進歩による。

 また,CMIは糖尿病のメンバーに対し,患者からのみ入手可能なデータ(自己認識の健康状態など)や,他のデータ情報から測定できないデータ(医師による下肢検査など)を集めるために定期的に調査を行っている。患者のデータ調査は,医療ケアの介入,セルフケアへの構え,医療ケアへの満足度,健康状態への患者の認識の基準を要約している。
-----実行(Implementation)-----
 IDCの成果のための主な対策は下記のものである。
1. フェードバックレポート
危険を伴う患者(LDL>130)を認識するための医療と管理データの準備。
2. 確認作業
必要とする作業を強化するために医師らに提供する。
3. 患者自身の確認作業
健康管理,カイザー保険の内容に関する手紙,自己管理のための材料。
4. 医師への教育
糖尿病管理にあたる医師のポケットリファレンスガイド,専門家による指導,オンラインCME,専門家チーム。
5. 患者への教育
糖尿病チップシート,糖尿病をもつメンバーのグループでの予約,自己管理を促すための教育カリキュラム。
 実行には技術も必要不可欠である。患者全体の管理のための技術材料は適切な調整のために必要である。これらは問題をもつ患者の迅速な特定を可能にする(たとえば,処方箋の補充を行わない者,また血中のグルコースレベルが危険値に達しようとしている者など)。また技術材料はケアプロバイダーと患者へ情報を提供する際にも使用される。

 技術が不足する際には,他の手段がケアマネジメントを補助する。個人の糖尿病報告は糖尿病をもつ患者の治療履歴と健康状態を監視する手段である。患者は受診記録と検査結果を記録するためのカードを使用することを勧められている。患者は受診の際にカードを持参し,これをケアについてのディスカッションを行う際にも使用する。

 IDCは,医師は他のヘルスケア専門家を補助するとともに,カイザー保険のメンバーの健康状態を向上させる機会と与えている。プログラムは医師のデスクワークを管理するための方法や,治療ではなくケアに従事する機会を与えている。

 4年間において,IDCはカイザー保険ケアマネジメントプログラムに成長し,心臓血管ケア,喘息,うつ病,高齢者のケアなど他のケアマネジメントプログラムのモデルとなった。慢性疾患やがん治療のための他の新しいプログラムは現在作成中である。
■□■  付録B:  
   CMI糖尿病ガイドライン(Appendix B: CMI Diabetes Guidelines)  ■□■
 ガイドラインはPKC,医療情報に関するウェブサイト(http://pkc.kp.org.)を通じてアクセスが可能である。
■□■  付録C:  
   カイザー保険  
  (Appendix C: Kaiser Permanente: A Legacy Born of Challenges)  ■□■
 カイザー保険を構築したアイディアはさまざまなチャレンジから生まれた。何千人もの人々がモハベ砂漠を通る240マイルもの水路を使ってコロラド川からロサンゼルスへ水を運ぶチャレンジを重ねている間に,カイザー保険の創設者は,これらの作業員らにどのように高品質なヘルスケアを提供するかについて取り組んでいた。多数の作業員が世界最大のダムであるグランドクーリーの工事に苦闘している間,やがてカイザー保険となる組織は,これらの作業員とその家族のためのヘルスケア作成に関する作業と苦闘していた。第二次世界大戦でリッチモンド,カリフォルニア,バンクーバー,ワシントンでの造船が必要とされた頃,カイザー保険は作業員のケアのための必要条件と,われわれのグループと批判者に正当性を証明する条件を満たした。

 カイザー保険の創設者であるシドニーガーフィールド医師は医療経済の変革を導くアイディアを提案し,米国のヘルスケアの財政を変化させた。それは包括的な医療保険補償の前納システムである。エンジニアから保険代理店に変わったハロルドハッチ氏はガーフィールド氏に,保険加入の作業員のために,保険会社は医師に毎日5セントを支払うことを同意させることを提案した。給料から1日5セント差し引きの代わりに,作業員は作業に無関係の健康問題に関しても補償を受けることができた。何千人もの作業員が加入し,ガーフィールド氏のヘルスケアのアイディアはすぐに財政的な成功を収めた。

 前納システムはガーフィールド氏に,怪我や病気の治療だけではなく,安全な活動を促す要因となった。彼は建築業者に作業員がダウン釘を打つことを要求し,2つの最も多いケガ(ゴム底ブーツによる爪の破損,落石による頭部のケガ)を防止するためにトンネルを調査した。これらの予防への焦点は,患者の病気の治療ではなく健康状態を維持することに重点をおき,医療経済を変化させた。予防,医療と管理のパートナーシップ,ヘルスケアサービスの要因の統合,包括的な保障の準備,医師の選定は,カイザー保険の方針決定の要因となった。

 カイザー保険は,国のヘルスケア環境が直面しているさまざまな問題点により形成される。CMIの創設は,21世紀の医療ケアに影響を与えている環境の変化と一致している。慢性疾患をもつ人々の数は増え続け,2010年までには米国の人口の40%が1つまたは複数の慢性疾患をもつと予測される。斬新で高額な治療の介入は,カイザー保険が医療行為に関して完全なエビデンス方式を採用することを要している。情報技術の発展は,メンバーの医療情報に対する要望と医療方針の決定の積極的な参加を増大させた。ヘルスケア提供に対するコストの上昇とメンバーの権利の増加は,カイザー保険がより優れた提供者になることと,高品質で費用対効果のあるケアを行うことを要求している。

 1997年の開始以来,CMIはカイザー医療の原則と作業において外部からの要求に応じることに専念している。CMIの主な焦点は,下部組織を構築し,高品質でエビデンスにもとづく医療の提供をサポートするために必要な関係を築くことである。実際にCMIは,カイザー保険の医師やヘルスケア専門家の情報や知識を利用し,組織全体に寄与する手助けを行う。同時にCMIは,医療価値と管理の実態を正すことを確実にするディスカッションの分類を行いながら医療グループとカイザーファンデーションヘルスプランの橋渡しを行っている。

 これらの環境の変化に対応する能力は,カイザー保険の最も古くて規模の大きい非営利ヘルスケアの提供と財政のシステムを構築した。1945年に,グループプラクティス前納プログラムは,本部をカリフォルニア州オークランドに設置した。現在,カイザー保険は,10州とコロンビア特別区における820万人にヘルスケアを提供している。それは,カイザーファンデーションヘルスプラン組織,カイザーファンデーションホスピタルとその関連施設,カイザー保険メディカルグループを包含している。またカイザー保険はシアトル,ワシントンに拠点をおくGHCと提携している。国家規模のカイザー保険は,9万人の技術,管理,事務に携わる従業員と,すべての専門分野に及ぶ約1万1千人の医師を雇用している。
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