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薬剤償還プログラムの概要
(Overview of the Drug Reimbursement Program) |
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最初の薬剤償還プログラムは1953年に開始された。その主な目的は,パブリックヘルスに重要とされる薬剤に対し,ブループリスクリプションとして無料の処方箋を提供することである。他の既存のプログラムとともにブループリスクリプションプログラムは,National Insurance Administrationにより監督されるNational Insurance Schemeの一つとして作成された。1981年に議会は患者の自己負担制度を発表した。自己負担率は現在,各処方箋の36%であり最低自己負担額を年間360NOK($40),上限を1,450NOK($160)としている。
償還は,年間3ヵ月以上の長期の薬物治療が必要な慢性疾患のための薬剤に対してのみ提供される。一般に償還プログラムは短期治療(たとえば肺炎のための抗生物質)には適用されない。プログラムが発展する中で,いくつかの方策を用意して,社会福祉の目的や平等性が達成されることを確実にしている。薬剤費が補填されるための方法は主に4つある(Box 1参照)。アイテムAとCは,薬剤が償還のために承認されていることが必要である。グループAとCに属する薬剤は,承認されれば自動的に償還が行われるが,グループBとDの薬剤は各患者の正式な申込書が必要である。
National Insurance Administrationは2つのリストを調整している。一方は承認された疾患群に対してのものであり,もう一方は承認された薬剤群に相当するコンディションである。薬剤リストのグループはさまざまに定義されている。あるケースでは,化学化合物の詳細記述が指定されているが(例:硝酸塩化合物),他のものは非常に大まかである(例:抗うつ剤など)。一般の償還が承認された薬剤(グループA)は,リストにあげられた疾患群の一つを治療することが認可されなければならず,また認可された薬剤群に属さなければならない。償還経費の90%以上がグループAからのものである。薬剤がリストにあげられた診断名と一致しない場合や,償還対象の薬剤のリストに含まれない場合でも,個人の申請により償還が認められることがある(グループB)。グループCは感染性の疾患(主に性感染)を根絶するために作成されたポリシーの名残りであり,近年改訂された。グループDはプログラムの社会的な目的を満たすものである。このグループでは,疾患の重症度や罹病期間,また薬剤の治療有効性などを,薬剤費償還のために報告することは要求されていない。グループDの償還のための費用は他のグループの薬剤よりもはるかに高額である。
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BOX 1 薬剤が補填されるための方法
A. |
医師が承認リストにある特定の薬剤を処方すること。薬剤は疾患リストに掲載された特定の診断名に対して処方されなければならない。例:骨粗鬆症のためのalendronate (Fosamax),高コレステロール血症のためのスタチン. |
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B. |
専門家による個別の申込書。患者が最初に選択された薬剤により効果が得られない場合や,その他の理由により使用できない場合に,関係する専門医のみが償還の申請をすることができる。また診断リストにないものでも高額の薬剤の場合は,治療のために償還が認められることがある。例:喘息のためのmontelukast (Singulair), 多発性硬化症のためのインターフェロンB(ベータフェロン)。 |
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C. |
特定の性行為感染症のための全額償還。例:梅毒,結核,HIV/AIDSのための薬剤。 |
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D. |
高額費用の際の患者による申請。これはブループリスクリプションで補填されない多額の薬剤費を補填する。 |
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ブループリスクリプションの審査手続き |
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(Procedures for Assessing Blue Prescription Application) |
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Medicines Control Authority が薬剤の承認を行っているが,近年までNational Insurance Administration が償還対象の薬剤の認可を行ってきた。薬剤を販売する認可を得るために,製薬会社は薬剤についての有効性,安全性,品質を文書で証明しなければならない。Medicines Control Authorityはこの文書を審査し,臨床試験によるデータをもとに承認に関する決定を行う。販売の認可を得るためには,その薬剤の有効性が,標準治療薬(標準治療薬が存在しない場合にはプラセボ)と比較して同等,あるいはそれ以上でなければならない。販売が許可された後,製薬会社はドイツ,英国,アイルランド,オランダ,ベルギー,オーストリア,デンマーク,スウェーデン,フィンランドの最も低い3つの販売価格の平均をもとに,上限価格をMedicines Control Authorityに提出しなければならない。この段階では薬剤の費用対効果は審査されない。
製薬会社はこれまでNational Insurance Administrationに対して,償還プログラムへの薬剤の記載を申請してきた。しかし最近,新薬の記載の承認は,Norwegian Medicines Agencyに名称が変更されたMedicines Control Authorityにおいてなされることになった(しかし本書で報告される多くの事例の後に,管理体制と名称が変更されたため,この報告書ではMedicines Control Authorityに呼称を統一する)。ここからは現在までの組織の役割を記述する。
申請時に製薬会社は,通常,関連する出版物と,場合により経済分析を準備しなければならない。最近までNational Insurance Administrationは,薬剤の法的また管理に関する問題とともに,有効性と償還のコストに関する独自の評価を行っていた。有効性の証明は文書でなされるが,どのように行うかの正式な手続きは決められていないし,またエビデンスについてのシステマティックレビューが必要であるかも決められていない。必要とされるときに,当該専門家が助言を求められる。
Medicines Control Authorityは薬剤の承認を主に行うと同時に,その助言を求められることも多く,費用対効果の改善に対応するために,新たに経済分析と償還に関する情報を提供する医薬経済学ユニットを1996年に設立した。新薬の償還が検討される際,このユニットは薬剤の費用と効果に関し,代替品との比較を行う。製薬会社は,経済分析を償還申請書とともに提出するよう勧告されている。これは2002年には必須条件となり,正式なガイドラインに記載される予定である。医療経済学者らは,保健省や製薬業界とともに,主に経済問題に焦点を当てたガイドライン作成に向けて共同作業を行ってきた。ガイドラインでは適正と考えられる場合,新薬の費用対効果は,非薬物治療と比較されることになっている。
これらの比較の目的は,償還費用の適切な概算,償還が行われない場合のコスト,また治療効果についての情報を提供することである。これにより,償還に関するリサーチエビデンスの活用の改善へ向けた一層の努力がなされている。内容が承認されたときに薬剤価格が決定される。つまりMedicine Control Authorityが製造コスト,類似品の価格,他国での価格に応じて価格を決定する。
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償還の決定(Making Decision on Reimbursement) |
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新薬が治療のために承認され,償還グループに属するとされれば,National Insurance Administrationは,新薬を償還の対象と決定する権限を持っている。保健省は,診断リストと承認された薬剤グループのリスト両方の変更を認めなければならない。償還のための予算は,承認された薬剤の維持費に応じて支給される。
新しいクラスの抗うつ剤であるselective serotonin reuptake inhibitors(SSRI)は,「抗うつ剤グループ」として償還が決定された後に,予想外に多額の経費を生じた。この事例は,多額の費用が予想される場合には,疾患群のリストや薬剤グループリストの変更が必要なくても保健省に連絡するべきであるとの変更をもたらした。保健省は,新薬を次回の予算案に添付して議会にはかることもできるし,自ら決定を下すことも可能である。
要約すると,最終決定は異なる3つの段階によって行われる—National Insurance Administration, 保健省そして議会である。後述されるように,新薬のリスト記載は議会によって提案されることもある。このやや不明確なプロセスによって,製薬企業らは議会のメンバーに影響力を行使し,これによりNational Insurance Administrationによりなされる通常の審査を迂回することも可能となる。
Norwegian Medical Associationや患者組織などのグループの意見は,プロセスの中に含まれていない。National Insurance AdministrationからMedicines Control Authorityへ管理責任が移行してもこの方法を変更する予定はない。
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プログラム変更の理論(Rationale for Changes in the Program) |
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ブループリスクリプションプログラムの変更は,薬剤経費の上昇を示したデータを契機に着手されることになった。プログラムの目的を達成する間,別の方法によるコスト削減の効果についてのリサーチエビデンスは考慮されなかった。政府はブループリスクリプションを評価するための委員会を1995年に設置し,その報告書はホワイトペーパーとして発行された3)。委員会はさまざまな組織や団体から構成され,償還プラン全体の目標を詳細に決定したり,関心の高まるヘルスケアに対するアドバイスを行ったりする権限を与えられた。明確に記述はされていないが,上昇し続けるプログラムのコストは評価に際し,重要な要因であることは明確であった。委員会は薬物治療への公平なアクセスだけではなく,補填に関する基本的な優先順位を設定することを要請された。ノルウェーには製薬企業がほとんどないため,新薬の開発に関する業界の問題を取り入れる試みは行われなかった。
委員会は,償還プログラムがノルウェーの福祉システムの基本的な目的の達成に合致するものであるとの結論を下した。国際的な比較からも,プログラムは,患者にとって非常に寛容なものと考えられた。
委員会のプログラム改善に対しての助言は,ヘルスケアの優先事項決定の原則を変更することを含んでおり,政府の以前の文書から取り上げられたものである4)。それは,新薬償還は疾患の重症度と治療の費用対効果を優先して決定されるべきであるとし,薬剤ポリシーには明確に適用されてこなかった原則を示した。疾患の重症度は,慢性疾患をリストに加える際のやや曖昧な基準として使用され,認可された薬剤でその疾患治療のために使用された薬物は償還リストに加えられていた。委員会は新薬のリスト記載に関する審議に経済的評価も行われるべきだとした。
また委員会は,処方行動を監視またはコントロールするために,処方箋の登録を行うべきだとした。さらに,専門家グループとの相談やコンピュータによるガイドラインによって,費用対効果の優れた処方行動の実行を強化することを勧めた。それまでにリストに記載されなかったまれな疾患や,重篤な短期疾患を含めるなどプログラムを拡大するために具体的なアドバイスが加えられた。
さまざまな団体や施設が報告書のレビューに加わった。プログラムの目的に関してはほぼ一致した意見が得られ,ほとんどの報告書はレビューを行った者すべてに支持された。寄せられた意見は主に,どのようにプログラムが組織されるかについての細部についてのものであった。報告書にもとづきその後保健省から提出された法令では,優先事項の設定は完全に定められなかった。議会は償還の方針決定の,より明確なプロセスを求めたが,優先事項の決定についての明確なポリシーは指示しなかった。経済評価は,リスト掲載の際の新薬の審査に加えられるべきだとしたが,一方,これらの経済評価は慎重に用いられるべきであり,思慮深い判断に代わるものではないとも述べられている。この見解は議会で繰り返され,何人かの政治家はこれらの問題に費用対効果を適用することに積極的ではなかった5)。これらの政治家は,方針の決定は必要性のみによるべきだとした。最終的には,費用対効果と疾患の重症度が優先事項の決定基準とされたが,その後の法令や規制には明確に加えられなかった。しかしこれらの基準はNational Insurance Administrationと保健省によって採用され,彼らの助言内容の基礎となっている。 |