■JPT-online■
第6節 新GCP下で実施された試験のGCP調査結果
第2節でGCP違反・逸脱の詳細を示した治験は旧GCP下で実施されたものであった。
旧GCPから新GCPへと規制環境が移行して,新しい環境で治験の質がどのように変化したかについては,
医薬品機構が公表した最近のGCP調査の結果から大雑把に推測することが可能である45)45)永井, 大西純一. GCP調査の現状と問題点. 臨床評価2002;29(2・3):315-32.。
Table 3-8に
最近の調査結果の概要を示す。全体の違反・逸脱指摘件数を調査対象となったプロトコル数で割った数
(Table 3-8の(B)/(A))
を見ると,医薬品機構により指摘された違反件数は2000年度(平成12年度)には,
それ以前の2.0件/プロトコルから4.1件/プロトコルに増加している。2001年度(平成13年度)にはその数は3.3件/プロトコルに減少している。
違反・逸脱の指摘件数が2000年度を境に増えたことが,「新GCPが実施されてから試験の質が低下した」ことを意味するわけではない。
この違反・逸脱件数の増加は,ただ単に,適用される法規制の条文や解釈がより細かい新GCP下で行われた試験が増えてきたため
(Table 3-8の
カッコ内の数参照),あるいは規制の運用がより厳しくなったためと考えられる。
GCPの条文が細かくなり,それにあわせて仕事を行うGCP調査担当者の指摘も細かくなったということである。
さらに調査担当者の調査手腕の向上も指摘件数の増加要因となりうる。GCP調査結果と治験の質については具体的な違反・逸脱の内容の変化を踏まえて議論しなければならない。
Fig.3-3は,Table3-8に総数として示した違反・逸脱の内容が最近どう具体的に変化しているかを医薬品機構の公表資料に基づき示したものである45)45)永井, 大西純一. GCP調査の現状と問題点. 臨床評価2002;29(2・3):315-32.。 2000年度を境とする変化は上述のとおり規制環境の変化そのものによる影響が大きく,治験の質に関する積極的な解釈を行うことは困難だが,興味深いのは2000年度から2001年度にかけての変化である。注目すべきは症例報告書(CRF)に関する指摘(代表例:検査結果等の書き間違え)が大きく減った点である(Fig.3-3では各カラムの下から2番目の部分)。これは直接閲覧によるモニタリング・監査が実施されるようになったこと,および治験実施施設の一部でリサーチコーディネーターが配置され,活動を開始したことを直接に反映する結果と考えられ,その意味で新GCP実施の直接の成果が表れているといえる。一方プロトコルに関する違反・逸脱(Fig.3-3の各カラム一番下の部分)の数については観察された期間では大きな変化は見られていない。
これらはたとえば臨床検査をプロトコルどおりに行わないこと等の逸脱であり,
その発生にかかる治験実施医師の関与が大きい部分である。
医師の診療・行動パターンそのものに根付く違反・逸脱は,治験に関する規制環境が変わってもそう簡単には(短期的には)修正されないことを示唆する結果かもしれない。
Fig. 3-3
Changes in the components of deficiencies detected in the OPSR's audits