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第2章 医療機関の特性と臨床試験の実施状況
第1節 目的と背景
臨床試験が本邦でどのように実施されているかをマクロ的に観察することは,すなわち,治験依頼者たる製薬企業がどのような医療機関に試験の実施を依頼しているかを観察することであり,
同時に,さまざまなタイプの医療機関がどのような試験を引き受けているかを観察することでもある。
こうした構造を理解することは,次の三つの目的に資する。
第一に,臨床試験に注がれた資源resourcesに見合った研究成果outcomeを各医療機関が産出しているかについての一つの手がかりとなる。
臨床試験の成果は,結果がpositiveであれnegativeであれ,総括報告書という最終成果物に集約され,また,実際に収集された症例数といった数的な指標が
,一般的な科学研究成果と比べるとはるかに容易に得られるという特徴がある。
第二に,医療機関ごとの試験の分布を明らかにすることにより,分配distribution(すなわち公平equity)に関する手がかりを提供できる。
たとえば,税金が注入されている公的医療機関の存在意義や被験者の治験実施医療機関へのアクセスの問題は,このような基礎的データなしには議論できない。
臨床試験を実施する医療機関は,医療法上の開設者,および,その主たる目的という二つの観点からTable 2-1のように分類可能である。
まず,医療法上の開設者の観点から,医療機関は,国,都道府県,市町村がその開設者である場合(国公立病院)とそれ以外の場合(私立病院)とに分類できる。
なお,本章では,赤十字病院等のいわゆる公的病院と呼ばれる医療機関は私立病院に便宜上分類している。医師が医療機関の「雇用者」として扱われる本邦の医療制度においては,
この分類に基づく分析は,次の点から興味深い結論を導く可能性がある。一つには,医療機関および治験を行う医師へのインセンティブである。
医療機関の経営の原資が予算制度により賄われているのか,研究の資金が予算により供出されるのか,臨床試験による収入が医師の(臨床試験以外の)研究にどのように充てられるのかが,
国公立病院と私立病院では大きく異なる。また,単年度予算制度の弊害であるが,試験の契約等にかかわる事務的な制約が大きいのも国公立病院の特徴である12)12)臨床試験から承認審査までの新潮流. ミクス Sep.1999:57-8.。
一方,医療機関の目的の観点からは,大学に附属する病院とそれ以外の病院という分類が可能である。もちろん,大学病院以外にも研究施設は多数あるが,
研究・教育・先進的な医療の供給における大学病院の存在意義は,やはり他の病院のそれとは異なるものと考えるべきであろう。
本章では,医療機関をこれら二つの観点から分類し,それぞれのタイプの医療機関で実施されている臨床試験の特徴を探索的に検討した。