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第3節 結果
第1項 選択された多施設試験の特徴
Table 2-2にデータベースに抽出した試験の記述的な特徴を示した。
第2項 各タイプの医療機関において実施された試験の概観
同じくTable 2-2にデータベースの試験を引き受けた各タイプの医療機関の試験への参加数を掲げた。
また,Table 2-3に1995年時点で実際に試験されていた被験薬の種類と数で補正した同様の推計を示した
13)13)新薬・治験薬要覧.東京:テクノミック;1996.。Table 2-3
における推計は,データベース(217試験)の試験について被験薬の薬効分類ごとに各タイプの医療機関の構成比率を計算し,
その比率を実際に行われていた被験薬の薬効分類ごとの数の比率に掛け合わせることにより行った。
試験の引き受け数(契約数)で見ると,国立大学病院が全体の27.8%と最も高く,次いで私立病院26.5%,私立大学病院21.8%であった。
総体として,これらのタイプの施設が本邦の試験実施に中心的な役割を果たしていることがわかる。
国公立病院と私立病院という分け方でみると,それぞれの寄与はTable 2-2ではほぼ半々(51.7% と48.3%)であり,
Table 2-3でもその結果は変わらなかった(51.8% と48.2%)。
この結果は,試験への参加数という指標で見る限り,両タイプの医療機関がほぼ等しく本邦の試験の実施に貢献していることを示す。
一方,大学病院と一般病院という分け方においても,試験参加数でみたときの両者の寄与はほぼ半々であった
(Table 2-2で54.5% と45.5%,Table 2-3で53.5%と46.5%)。
臨床研究に期待される大学病院の役割を考えると,この数値は決して高くない印象を受ける。
しかし,Table 2-1に示したとおり,
日本に存在する大学病院の数は一般病院の数よりはるかに少ないのであり,各タイプの医療機関の「平均的な姿」を見誤ってはならない。
さらに,医師の人事・派遣を介した大学の影響力の大きさは良く知られており,当然臨床試験の実施にもその影響があることは予想される。
大学病院のそのような影響力が背景にあるにせよ,私立病院,一般病院において非常に多くの試験が実施されているのは事実である。
この理由として,国民皆保険,および,地理的な要因(すなわち国土が狭いこと)に由来する将来の販売促進の意図があるのではないかと考える
11)11)Ono S, Kodama Y. Clinical trials and new good clinical practice guideline in Japan.Pharmacoeconomics 2000;18:125-41.。
将来市販されるかもしれない薬剤のプロファイルを,
病院の首脳陣に治験審査委員会(IRB)等の審査を通じて知ってもらうことは,企業にとって非常に大きな潜在的利益である。
特に日本では,従来,IRBと薬剤選択にかかわる委員会(たとえば薬事委員会)のメンバーが重なっている医療機関が多かったため,
なおさらそのような戦略が有効であったと考えられる。
第3項 医療機関の種類と実施された試験の種類
どのタイプの医療機関が具体的にどのような疾患領域の試験を実施しているかについて,次の二つの方法で分析した。
まず,すでに説明したとおり,得られたデータベースの結果を1995年時の本邦の臨床試験の分布で補正した数字が
Table 2-3である。この結果は医療機関の臨床試験への参加の延べ数による推計にあたる。
さらに,本章第2節に記した重回帰分析により,国公立病院の試験参加数と臨床試験の属性変数との関係をみたのがTable
2-4,また,大学病院の試験参加数と臨床試験の属性変数との関係をみたのがTable
2-5である。Table 2-4とTable
2-5については次項以降で説明する。
Table 2-3から,医療機関のタイプにより,参加する試験領域の選択に若干の違いがあることがわかる。
循環器系薬,消化器系薬,代謝系,抗アレルギー薬等の試験では国公立病院の参加比率が高く,
中枢神経系薬,抗感染症薬では私立病院の参加比率が高かった。また,抗悪性腫瘍薬と抗感染症薬を除くほとんどの領域で,一般病院よりも大学病院の参加比率が高かった。
第4項 国公立病院と私立病院の比較
Table 2-4に国公立病院の試験参加数と試験の属性変数との関係を示した。
試験デザイン変数では,総括医師が私的セクターにいること(すなわち公務員でないこと。Table 2-4
の‘type of principal investigator’)と試験参加国公立病院数は負の関係にあった。旧GCP下の治験総括医師が参加医療機関を決定する際に,
自らの大学・立場に近い系列の病院を選択することが多いだろうことは容易に想像できる16)16)池上直巳, キャンベルJC. 日本の医療.東京:中公新書;1996.。
開発の相の進行(‘phase’)の係数も負であった。これは,第3相試験では国公立病院の参加数が減り,私立病院の参加数が増えることを示す。
今回のモデルには試験の規模(医療機関数,被験者数等)を表す変数も含まれていることから,
第3相試験の方が医療機関の参加数が多いことが単純に私立病院の参加数を増やしているとは考えにくい。
この理由としては,大学病院を含む国公立病院の技術的優位性等の可能性,あるいは企業の側のプロモーション目的が考えられる。
また,モデル1,2ともに,総参加医療機関数(‘number of institutions’)の係数は約0.5であり,他の変数の影響を考慮したうえでの偏りは見られなかった。
試験薬剤・診療科を示すダミー変数では,精神科(‘psychiatry’),抗感染症薬(‘anti-infectives’)において負の関係が見られた。
これらの診療科の試験は,私立病院において多く実施されていることが示唆された。逆に,循環器科(‘endocrinology’と‘cardiovascular’),
麻酔科(‘anesthesiology’),小児科(‘pediatrics’),抗腫瘍薬(‘antineoplastics’)は正の係数を示した。これらの理由は次節で検討する。
第5項 大学病院と一般病院の比較
Table 2-5に大学病院の試験参加数と臨床試験の属性変数の関係にかかわる回帰分析の結果を示す。
開発の相の進行(‘phase’)は大学病院数と負の相関にあった。モデル1で1%レベルで有意であった総参加医療機関数(‘number of institutions’)の係数は0.44であった。
モデル2において被験者数(‘number of subjects’)の係数が有意であったが,その大きさは小さかった。
Table 2-4の結果と異なり,総括医師の所属との関係は観察されなかった。
ダミー変数では,モデル1で,神経科(‘neurology’),循環器科(‘endocrinology’と‘cardiology’),
皮膚科(‘dermatology’)が正の係数となり,モデル2で循環器系の薬剤(‘cardiovascular’)がやはり正の係数となった。