ライフサイエンス出版


日本メディカルライター協会(JMCA) 第2回総会講演
メディカルコミュニケーターとは?
−国際化時代における役割と課題−
東京医科大学国際医学情報センター
Raoul Breugelmans


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クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニットの紹介
JMCA代表理事・東京大学大学院生物統計学
大橋 靖雄

クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニットは文部科学省振興調整費による人材養成プログラムである。わが国では遅れているバイオインフォマティクス,バイオスタティスティクス等の教育を通して,ゲノムと疫学とIT(情報)を1人の研究者,技術者の中に融合させようという,壮大なプロジェクトである。

公開講座は,東京大学のキャンパスにおいて無料で行われている。応募が多数の場合は抽選が行われ,学外の者でも聴講できる。その中でメディカルライティング,あるいはメディカルコミュニケーションといっていいのであるが,この分野を大きな形に育てたいと考えている。

今回,ブルーヘルマンス先生のお話を承り,まさにこういう内容から始めようと考えている。対象は医師と看護科学・健康科学を専攻している修士以上の学生が中心になるだろう。

これまで,医学系では「投稿」技術に関してはあまり教えてこなかったが,エディターとのやり取り等も含めて,集中講義という形でできないかなと考えている。関係の先生方と相談のうえ,まずは今年度から試しに始めたい。将来,このカリキュラムを1年制度の職業人・社会人大学院制度につなげることも計画されている。そして,それができた後には,一つの専攻コースにまで高められればベストだろう。

これから始めることでもあり,どんな形になるのか,まだよくわからないが,JMCAと連携をとりながら,教材を作ることも含めて会員の方々のご協力を仰いでいきたいと思っている。



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医学翻訳が抱える問題 −医学翻訳と薬学翻訳とは全く別の分野−
オブベースメディカ医学翻訳スクール指導医師
篠塚 規

翻訳・通訳の業界では,医学翻訳と薬学翻訳をひとつのグループとして扱うため,さまざまな弊害が生じている。薬学翻訳とは,化学翻訳と薬の副作用の医学英語が必要とされる分野で,医学翻訳と共通点があると思われがちであるが,実際には医学翻訳は,薬学翻訳とは全く別の分野である。医学翻訳にいま必要とされているのは,内科であれ外科であれ,臨床医学知識に加え,免疫学と遺伝子学の基礎知識である。

医学翻訳業界の一番の問題はハイレベルの翻訳者がいないということである。医師が翻訳者になることはほとんどなく,その理由として社会的,経済的なことがあると思われる。翻訳がお金になれば医師はシフトするが,これはありえないだろう。そしてここでブルーヘルマンス氏が話されたように,文科系から医学翻訳の世界へ進むための養成コースがまだ作られていない。商業的で入門的な医学翻訳コースは少数あるが,プロとしては,とても耐えられるようなコースではない。

現在の医学翻訳の実務でどういうことが要求されるかというと,昔のテキストを訳して下さいなどということはなく,われわれの事務所でも一番多いのが,たとえばSARSの情報を24時間から48時間で訳して欲しいという最新の情報や文献の翻訳依頼である。そして,いまSARSの情報が混乱しているのも,良質の翻訳者がいないことに原因があると思われる。発信源であるCDCからは非常に優れた情報が出ているが,おかしな翻訳が出てくるとわからなくなり,メディアも医師もストレートに理解できないということが起こっている。

医学テキストや専門書の翻訳に関していえば,医師によってきちんと監修されている例もあるが,中には有名医師の監修と書いてあっても,実際の翻訳は別の者が行い,監修者はお飾りであるという例もある。また,医学翻訳では,ワード・バイ・ワードが金科玉条になっているが,これは非常におかしな話である。たとえば私が変な講義を行い,紹介者が「私の顔が立たない」と言った言葉を,通訳の方が“My face dosn't stand up.”と訳すようなものである。しかし実際に医学翻訳の中ではそうなっており,いつも非常に奇異に感じている。

このように,医学翻訳書は内容を理解しないでワード・バイ・ワード,センテンス・バイ・センテンスで翻訳されたものが多い。SARSに関してもメディアがなぜ間違った報道をするかというと,正しい医学翻訳のできる翻訳者が本当にいない,そういう方が養成されていないからである。また,その翻訳クオリティを判断する人がいない。雑誌でいえばエディターや翻訳の仲介をする方に能力がなく,その内容に対してA,B,C,Dのグレードをつけられない,要するに優れたコントローラーがいないということも問題である。

これから医学翻訳者になろうという方に申し上げたいことは,まず英文を読んでイメージがきちんとわくようにすることが大切であり,これが医学翻訳の最初のステップである。そして次に誰に向けて訳すのか。メディアなのか,専門医のグループなのか,あるいは研修医や看護師らを含めた医療者向けかを思い浮かべての作業。そしてリファインの作業をする。要するに舗装道路の中に穴があると非常に目立つが,でこぼこ道に穴があっても全く目立たない。レベルの高い翻訳者になったらリファインの作業は非常に大切で,この原則はリーダブルであることである。そして,医学翻訳のプロになるためこれらをどのように勉強するかというと,とにかくクオリティの高い教材を使い,暗記よりも理解に重点をおいて学習することである。医学翻訳は膨大なことを暗記しなければいけないという間違った理解をして医学翻訳の勉強をスタートする人が数多くいるが,必ずギブアップしている。そして入門者はよい指導者につくことが必須である。ゴルフがよい例であるが,会社の上司や下手な院長の指導で始めると上級プレーヤーにはなれない。最初に多少のお金をかけてレベルアップすることが大切である。そして,入門レベルでしっかりとした基礎力をつけることができれば,それ以上の向上は自己学習で十分可能である。学習方法さえ間違えなければ,一般翻訳者あるいは薬学翻訳者から,医学専門翻訳者への道は開けている。

このように,私のこれまでの経験をまとめてみたが,どのようなものがクオリティの高いものかいうと,「チャート式患者とのコミュニケーションのための糖尿病指導マニュアル」(Nancy Touchette著.片山茂裕監訳.メジカルビュー社.2003年」,「メルクマニュアル医学情報 家庭版」(Robert Berkow編.日経BP社.2004年)を読んでいただきたい。これまで私が述べてきたような翻訳が提示されている。