ライフサイエンス出版


日本メディカルライター協会(JMCA) 第3回総会講演
Japan Medical and Scientific Communicators Association: JMCA
第3回総会・講演会
「医療情報伝達における問題点とJMCA教育プログラム」
2004年6月1日(火)/東京大学鉄門記念講堂



「メディカルライティング集中講座」の成果と教育プログラムへの反映
東京大学大学院医学系研究科クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット
 小出 大介

はじめに

東京大学クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット(CBI)では,昨年,東京医科大学と日本メディカルライター協会(JMCA)の全面的な支援のもとに「メディカルライティング集中講座」を行った。その成果と教育プログラムへの反映についてお話ししたい。

CBIは臨床ゲノム科学部門,臨床疫学部門,臨床情報工学部門の3部門から成り立っている(図1)。その部門に対しては既存の講座である,疫学・生物統計学教室,薬剤疫学教室,中央医療情報部(現 企画情報運営部)のほか,循環器内科および糖尿病・代謝内科,人類遺伝学教室の支援のもとに,人材育成をメインにおいた活動を行っており,その人材供給先としては,研究機関,企業,医療機関等を考えている。

図1 クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット
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CBI公開講座

昨年開かれたCBI公開講座は全部で15科目である(表1)。それぞれ部門ごとに分かれており,「メディカルライティング」に関しては,臨床疫学の一分野と位置づけ,主に東京医科大学とJMCAの協力を得て,11月に8回,毎週水曜日に行った。そのほか,一般的な臨床医学を教える臨床医学概論や,情報工学,疫学方法入門や,臨床疫学入門などの科目もある。

表1 平成15年CBI公開講座の科目一覧
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「メディカルライティング集中講座」の成果

15科目の概況を応募者の倍率の多い順に並べ替えたものが表2である。このなかで「メディカルライティング」は,非常に倍率の高い科目であったが,修了率は若干下がり41%であった。講義の構成については,東京医科大学,JMCAと相談して作成した(表3)。統一規定や,論文の書き方,査読員のコメントやそれに対する返答,報告の書き方や統計方法,図表の書き方,最後はラウンドテーブル・ディスカッションという形で,出席率は若干下がったが,毎回100名以上の参加を得た。

表2 平成15年CBI公開講座概況(応募倍率順)
表2

表3 メディカルライティングの講義構成
表3

受講者の内訳を,「メディカルライティング」参加者と,それ以外の公開講座参加者の割合が比較できるようにしたところ,「メディカルライティング」参加者に関する大きな特徴として,学生が多いということがいえる(図2)。なかでも,東大(医学)学生が23%と非常に多かった。やはり,メディカルとついたことから,医学部以外の学生は少なかったようである。一番多かったのは製薬企業の方で37%であるが,その一方で,IT関係やバイオ関係の参加者がほとんどなかったというのと,その他が17%と非常に多かったのも特徴である。「その他」には新聞等のマスコミ関係者や,翻訳業をされている方などが含まれている。

図2 平成15年CBI公開講座の受講者
図2

アンケート結果に関しても「メディカルライティング」の参加者と,それ以外の公開講座参加者の割合が比較できるように表示した(図3)。

図3 平成15年CBI公開講座 受講者アンケートの結果(全体)
図3

「メディカルライティング」参加者に対する質問で,「興味深いか」という質問に関しては,「全くそう思う」が50%を超えており,「そう思う」も含めると,90%以上が興味深いという意見であった。また,「目標が明確であるか」という質問に対しては,「全くそう思う」が55%で,「そう思う」も含めると,90%を超えている。さらに,「将来役に立つか」という質問に関しても,「全くそう思う」が50%を超えた。ただ,「内容に重複はなかったかどうか」では,「全くそう思う」が50%弱で,「そう思う」も含めると,ほかの講義参加者に比べ,若干重複があったということである。ただ,これは決して悪いことではなく,何回も同じことを繰り返して説明することによって,理解が深まるという点もあるだろう。

メディカルライティングについての私見

アンケートの自由回答部分について表4に示した。ネガティブなコメントのなかで一番多かった「配布資料が欲しい」というコメントであるが,講義される先生の著作権の関係上,配布できなかったという事情があった。またそれ以外のコメントに対する私見を述べたい。

表4 CBI公開講座 メディカルライティング受講者からのコメント
表4
  1. 早い時期(学部)からの教育
今回,受講生として学生が多かったことから,学生自身がこの分野の教育を求めているということがわかった。今後は早い時期に学部からの教育が必要である。
  2. 体系立った講義の必要性(初級・中級・上級)
今回は英語で講義が行われ,難しかったことなどもあり,すべての人のニーズを満たすことは無理だと思われる。初級,中級,上級それぞれのレベルに分けると,さらにそのニーズにより近いものを提供できるのではないか。
  3. 具体例の豊富な教育
統計などもそうであるが,いくら本を読んでもなかなか身につかない。実践で学んでいくことがいいと言われることとまったく同じである。
  4. 臨床的記述についても教育するべき
医療分野でも,まともにカルテが書けない,ということがいわれている。われわれの代表も現在,東大病院長を兼務しているがカルテの書き方こそ重要だといっており,そういうことも広い範疇としてメディカルライティングに含まれるのではないか。
  5. さまざまなメディアの利用
壇上からの一方的な講義ではなく,双方向な講義がよりインパクトを与えるのではないか。ビデオやDVD,CDといったさまざまなメディアを利用することにより,より効果的な教育ができるのではないか。
  6. 協力体制の確立
われわれだけでは,とてもそのような内容の講義を十分行うことはできない。東京医科大学やJMCA,そのほか東大の医学教育センター等と協力していくことが必要である。

平成16年度の公開講座科目について

平成16年度に関して,現在公開講座を行っており,表5のなかで下線部が履修科目になっている。また,詳細は決まっていないが,11月頃に同様なメディカルライティングの講義を計画している。

表5 公開講座科目(平成16年度)
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