ライフサイエンス出版


日本メディカルライター協会(JMCA) 第3回総会講演
Japan Medical and Scientific Communicators Association: JMCA
第3回総会・講演会
「医療情報伝達における問題点とJMCA教育プログラム」
2004年6月1日(火)/東京大学鉄門記念講堂



アメリカとEUの医療情報伝達分野での基本活動
日本メディカルライター協会評議員
三共株式会社臨床開発部 安藤 聡美

はじめに

大橋先生から医療情報を伝えることの難しさということで問題提起をいただいた。医療情報を伝えることが難しいのは,われわれがメディカル・コミュニケーションを学校教育のなかで学んでこなかったからだ,といわれている1)。メディカルライティングについても然りである。

作文や課題文の形として学校で評価されるのは内容をどれぐらい理解したかであって,それが読者にどういう影響を与えたのか,読者がどれくらい理解したかについては評価されない。なぜならその課題を出した先生は評価者であり,かつ読者であるわけだが,その情報をすでに知っているからである。ところが,われわれが対象とする医療情報は,おそらく読者はその情報をほとんど知らないか,または知りたいと思っている。そういう人が読者として考えられる。そういった人たちを対象とした情報の伝え方については,われわれは学んでこなかった。すなわち,学校では読者を意識した情報伝達の技術については学んでこなかったという問題である。

おそらく日本と同様の問題があったであろう欧米では,こういった問題に対してどういった取り組み方をしてきたのだろうか。私自身,参加の経験のある2つの協会, American Medical Writers Association (AMWA)とEuropean Medical Writers Association (EMWA)の教育プログラムや組織について紹介し,JMCAの会員の方々とともに,この問題に対する取り組みの契機としたい

AMWAのミッション

AMWAのミッションを表1に示した。医療情報,医薬品の規制当局,あるいは一般大衆に対してさまざまな手段で情報を伝えるということに卓越した組織であらんとする,ということが掲げられている。

具体的にはAMWAの目的は二つあり,ひとつは医療情報を伝達する人たち全般を対象としてコミュニケーションの質と効率を向上させるための専門知識を習得する場を与える,そして教育の機会を継続して提供するというもの。もうひとつは,会員間での情報交換,キャリアデベロップメントのためのプロフェッショナルネットワークの場を提供することである。

表1 AMWAのミッション
表1

AMWAの背景と活動

AMWAは約半世紀前に医師のグループによって設立され,現在アメリカ,カナダ,その他26ヵ国を含め,5千人以上の会員がおり,かなり大きな組織となっている。会員は全員,医療情報を伝えるということを生業としている,教育関係,製薬企業,研究機関,科学ジャーナル・出版関係,フリーランサーで構成されている。

AMWAの教育活動は,主としてAnnual Conference,Chapter Conference,Self‐study Workshop(WS)の三つからなる。

Annual Conference はその名の通り年会であるが,通常は年1回秋に,アメリカまたはカナダのある都市で3日間にわたって開催される。その間,100以上のワークショップが提供され,後述するCertificate Programの基本となっている。

Chapter Conferenceは,Annual Conferenceを補完する形式で,年間を通していろいろな場所でいろいろな時期に開かれる小規模のconferenceである。たとえば,California Chapter,New York Metropolitan Chapterなどと呼ばれる。それぞれにプレジデントがおり,教育プログラム委員がいる。

Self-study WSは昨年度から提供されたもので,遠隔地,たとえば日本にいる会員に対してもプログラムを提供しようという趣旨で開始された。テキストと付録のCD-Rを使っての自習プログラムである。練習問題に解答して担当者に送付し,合格するとクレジットになる。

昨年度は“Basic Grammar and Usage for Biomedical Communications”というテキストが出版され,今年は,Punctuationに関する本が出されると聞いている。

AMWAの教育プログラム

AMWAの教育プログラムの根幹は,Certificate Programからなり,主にCore Curriculum(CC)とAdvanced Curriculum(ADV)の二つがある。CCの中には,どの分野であれ,Medical Communicatorとして学んでおくべき基本的なプログラムを提供するGeneralと,現在の仕事や,将来どういったCertificateを得たいかによって選ぶSpecialがある。現在SpecialにはPharmaceutical,Editing / Writing,Educator,Public relations / Advertising / Marketing,Freelanceの5種類がある(表2)。

表2 AMWAの教育プログラム
表2

各プログラムやワークショップの詳細までは説明できないので,ご興味のある方は後で紹介するAMWAのサイトを閲覧していただきたい。ここでは,CCのプログラムについて簡単に紹介しておく。CCのGeneralでは,Punctuation,Paragraphing,Medical Communicationなどのプログラムが提供される。製薬企業で,いわゆる医薬品の承認申請に関するドキュメントを作成している人たちに対しては,関連する薬事規制,治験総括報告書など特定のドキュメントの作成方法を教えるプログラムがある。また,「薬物動態の基礎」といったタイトルで,ライティングに必要な「知識」を習得するプログラムも提供されている。Public Relations /Advertising / MarketingはJMCAが今後視野に入れている分野でもあるが,ここではScript Writing for Video Tape等の特殊なプログラムも提供されている。

Certificate取得の要件を表3にまとめた。Pre-assignmentの提出とWSへの参加が基本となる。Pre-assignmentとはWS・リーダーから参加予定者に事前に送られてくる課題で,その解答を期限までに提出しなければならない。

表3 Certificate取得の要件(AMWA)
表3

Certificateは4種類あり,それぞれに要件も異なる。五つの特定の分野から一つを指定して取得する場合のSpecialityと呼ばれるものには履修期限があり,単位数にも規準がある。Multidisciplinaryは,仕事の応用が利くように,複数分野に対して資格があることを証明したいと考えるメンバーに適したCertificateである。規定の参加歴と単位数を取得した上級者にはAdvancedというCertificateの取り方もある。また,特定分野を追加するためにSpecialityを累積していく方法もある。

EMWA の背景と活動

EMWAの歴史はAMWAに比べて浅く,1989年に医療情報コミュニケーションにかかわる少数の専門家集団(大学,企業,ジャーナリズム)によって設立された。当初はAMWAのAffiliateという形で提供されており,AMWAからWS・リーダーも派遣されていた。現在の会員数はEUを中心とした20ヵ国に300名以上と聞いている。EMWAの活動の中心もAnnual Conferenceであり,毎年春にヨーロッパのある都市で開催され,80以上のWSが提供される。秋にはこれより小さい規模のconferenceも開催されている。

EMWA の教育プログラム

EMWAの教育プログラムもAMWAと同様であるが,独自にEPDPと呼んでいる(表4)。これはAMWAのCertificate Programに相当するもので,Annual ConferenceのWSの形式で提供される。クレジット対象のプログラムを中心に組まれているが,その他,クレジット対象外だが履修時間も短く安価なShort Workshopや,Under Assessmentといって,将来クレジットの対象になるかもしれないが,まだ評価中というプログラムもある。クレジット対象プログラムのうち,AMWAのGeneralに対応するものは,こちらではFoundationである。Specialとしては現在,AMWAでのEducationとFreelanceを除く3種類がある。

表4 EMWAの教育プログラム
表4

Certificateの種類や取得の要件はAMWAと同様である(表5)。取得の要件はEMWAのほうが若干厳しく,参加後もpost-assignmentを期限内に提出して評価を受けなければならない。

表5 Certificate取得の要件(EMWA)
表5

AMWA / EMWAのベネフィット

これらの協会の会員となる,あるいは教育プログラムを受けることのベネフィットを表6にまとめた。最終的にはCertificateを取得し,その分野の専門家として仕事をする際に有益だと考えられていることにある。その前提には,これらのプログラムが経験豊富なエキスパートによって構築され,履修自体の価値が認知されているということがあろう。もうひとつは,プロフェッショナル・ネットワークを構築する機会が得られるというベネフィットである。

表6 AMWA / EMWAのベネフィット
表6

その他にもさまざまなベネフィットがあるが,そのうちの一つは,会員だけが入れるWebsite上で特定の情報にアクセスできることである。たとえば,昨年は会員に対してサラリーサーベイがなされ,その調査結果が掲載された。これらの情報は,特にフリーランサーにとっては有益で,クライアントとの交渉時に役に立っているのではないかと思われる。

以上,アメリカとEUの医療情報伝達分野での基本活動としてそれぞれAMWAおよびEMWAという組織を取り上げ,そこでの教育活動を中心に紹介した。改めて,これらの組織の活動とそこで提供される教育プログラムが,メディカル・コミュニケーションを生業とする者たちにとって,いかに有益で卓越しているものかを認識した。日本では,これらに匹敵する組織もリソースもまだ十分ではないが,この分野の組織の一つであるJMCAの位置づけと役割,今後の活動を継続的に考えるうえで,今回紹介した欧米の活動は大いに参考になるものと考える。

最後に,AMWAとEMWAのアクセス先,メンバーシップと費用について簡単に紹介したので,興味のある方はご覧いただきたい(表7)。

表7  Membership
表7


文 献
1) Thomas A Lang. AMWAにおけるメディカルライター教育の現状.2003年11月19日,第2回JMCAシンポジウム講演.