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第9章
心房細動があると,生存率が低下するか

 心房細動は,最も高頻度に認められる臨床的に重要な不整脈である。老年者に高頻度にみられ,脳塞栓の危険度を上昇させ,また,QOLを低下させ,心機能の低下をきたす。65歳以上の住民5201例の調査では,心房細動の頻度は男性6.2%,女性4.8%であり,年齢増加に伴い高頻度となる傾向が観察されている(Furberg CDら,1994) 61)61) Furberg CD, Psaty BM, Manolio TA, Gardin JM, Smith VE, Rautaharju PM. Prevalence of atrial fibrillation in elderly subjects (the Cardiovascular Health Study). Am J Med 1994; 74: 236-41.。大部分がうっ血性心不全,弁膜疾患,脳卒中,左房拡大,僧帽弁あるいは大動脈弁異常,高血圧治療例であり,これらの症例のうち1.6%のみが臨床上あるいは潜在的に心血管疾患を認めなかった。すなわち,老年者では孤立性心房細動(lone atrial fibrillation)は稀であると考えられている 61)61) Furberg CD, Psaty BM, Manolio TA, Gardin JM, Smith VE, Rautaharju PM. Prevalence of atrial fibrillation in elderly subjects (the Cardiovascular Health Study). Am J Med 1994; 74: 236-41.。年齢増加とともに心房細動の頻度の増加はFramingham研究においても観察されている。すなわち,50〜59歳では0.5%であるが,80〜89歳ではほぼ9%と増加していた。男性では65〜84歳の心房細動は,1968〜1970年では3.2%であったが,1987〜1989年では9.1%へ増加している。Framingham研究の38年に及ぶ追跡調査では,男性の心房細動の発症頻度は女性の1.5倍と高かった。心血管事故の危険因子のうち高血圧と糖尿病のみが心房細動の予測因子であった。すなわち,心房細動の危険度は高血圧があれば男性1.5倍,女性1.4倍となり,糖尿病があれば同様に男性1.4倍,女性1.6倍と高い(Kannel WBら,1998) 62)62) Kannel WB, Wolf PA, Benjamin EJ, Levy D. Prevalence, incidence, prognosis, and predisposing conditions for atrial fibrillation: population-based estimates. Am J Cardiol 1998; 82(Suppl 8A): S2-9.。住民調査では高血圧の頻度が高いことから,高血圧の心房細動発生への影響は大きいものと推測される。心疾患があると心房細動の危険度は高く,心不全では男性,女性それぞれ4.5,5.9倍の危険度となり,弁膜疾患では同様にそれぞれ1.8,3.4倍であった。

 心房細動があると脳卒中の危険度が高くなり,特に老年者で顕著となる。すなわち,脳卒中に対する心房細動の寄与危険率は50〜59歳では1.5%であるが,80〜89歳では23.5%と上昇する。男性,女性ともに心房細動があれば死亡率が2倍になり(合併する他の心血管系の危険因子で調整すると1.5〜1.9倍と低下するが),広い年齢範囲で心房細動に伴い生存率が低下したと報告されている。

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