■治療学・座談会■
新しい時代に入った肺線維症治療
出席者(発言順)
(司会)貫和 敏博 氏(東北大学大学院医学系研究科 呼吸器病態学分野)
杉山幸比古 氏(自治医科大学 呼吸器内科)
井上 義一 氏(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター 呼吸不全・難治性肺疾患研究部)
吾妻安良太 氏(日本医科大学内科学講座 呼吸器・感染・腫瘍部門)

臨床試験の計画と実施

■試験デザイン

貫和 臨床試験の立案にご苦労されることもあるかと思いますが,いかがでしょうか。

吾妻 試験デザインの決定はたいへん難しい課題です。 たとえば,第U相,第V相,それぞれの対象患者の条件が微妙に異なるなど,登録患者の背景が一様ではありません。 一方でポジティブ,他方でネガティブに出るなど,その解析は非常に困難です。 IPF をひとつのグループとしてとらえてよいのかという検討も,今後なされるべき課題のひとつだと考えています。

 私たちが医師になった当時,肺癌の分類は small あるいは non−small だけでしたが, 現在,non−small がさまざまな病理,分子形態に分けられています。 どのグループには何といったように治療法が開発され,5 年生存がもう目前に迫っています。 IPF に関してはまだそこまで達していませんが,IPF にどういうタイプがあるかを探すのも重要です。 肺高血圧症や肺癌の合併や,急性増悪のコントロールなど,きわめて多くの予後規定因子を予想しながら試験を行っていく必要があります。 一方で,難治性で稀少な疾患であることから,対象患者を限定すると分母が減ってしまうなど,難題をつきつけられているという印象をもっています。

貫和 確かに対象患者の条件を詳細に分けた結果, 有効性を検出できなかったということもあったように思います。 また,何を評価項目にするかも重要で,最近では,どの施設でも行えるという簡便性,再現性などが考慮されていると思います。

■今後の課題

貫和 肺癌の薬剤開発では,最近になってようやく大きな進歩がみられていますが, IIPs や IPF も肺癌に匹敵するような難治性疾患であります。 IPF 研究では現在,単剤の臨床試験が進んでいますが,次にはどのような臨床試験が期待されているでしょうか。

杉山 最も興味があるところは,NAC+ピルフェニドンの 2 剤併用の有効性です。 どちらの薬剤も比較的副作用が少なく,薬効が確立していますので,具体的にぜひ検討してみたいと考えています。

井上 NAC とピルフェニドンの比較,また両剤を併用した場合の効果を明らかにする試験を期待しています。 また,現在海外では,さまざまな新しい分子標的治療薬などを用いた臨床試験が計画中です。 そこで問題になるのは,対照群をどうするかだと思います。 ピルフェニドンは発売後 1 年しか経っていませんが,今後,ピルフェニドンが標準的な治療薬となる可能性もあります。 海外では NAC が標準的になるかもしれません。その場合,臨床試験でプラセボが倫理的に許されるのかどうか,問題になる可能性があります。

 いま世界で動いている IPF に対する臨床試験の多くはプラセボが対照となっています。 プラセボを対照とし有意差が認められたピルフェニドンの臨床試験は意義がありましたが, 今後ピルフェニドンが世界的に普及するとすれば,ピルフェニドンに試験薬を上乗せしていくという臨床試験が考えられます。

貫和 臨床試験を実施するには,資金面も大きな課題となります。 IPF の臨床試験は,なかなか企業の協力が得られない状況にあります。 たとえば薬剤購入や治験コーディネータなど,公的な資金はどうあるべきでしょうか。

吾妻 これもたいへん難しい問題です。市場規模により参入する企業に限りが出ると思います。 予後不良で難治性の IPF 研究への資金提供の必然性を,患者さんも含め,われわれがアピールしていくことが重要だと思います。

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