貫和 「タバコ関連肺」という言葉が聞かれますが, IIPs の男性患者の 8 割が喫煙者,逆に女性の 8 割が非喫煙者というデータがあります。 IIPs に喫煙はどの程度影響しているのでしょうか。
杉山 IIPs とされる 7 つの疾患のなかでも RB−ILD(呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患)と DIP(剥離性間質性肺炎)は, 特に喫煙との関連が指摘されています。さらに,肺ランゲルハンス細胞組織球症や, 最近では CPFE(combined pulmonary fibrosis & emphysema)とよばれる肺線維症に肺気腫を合併する病態などを合わせて, 喫煙関連間質性肺疾患とするという考え方も出されています。 実際には以前から,IIPs と喫煙,IPF と喫煙との関連はいろいろと検討されていました。 老化との関係もあり,タバコという刺激が加わることで線維化が促進される,そういうサブタイプがあると予想されています。 また,COPD(慢性閉塞性肺疾患)を発症するタイプ,肺線維症を起こすタイプと, 違ったフェノタイプとして喫煙が影響することも興味のあるところだと思います。 非喫煙の IPF 患者もいますので,このあたりも,IPF という疾患の奥深いところではないでしょうか。
さらに,家族性の肺線維症の家系では,その家系内の喫煙者に限定して発症しているという報告もあります。 遺伝的に線維化を起こしやすい背景をもつ人に,喫煙という刺激が加わり線維化が顕在化するという流れが,確実にあるのではないかと考えています。
貫和 線維化発症のゲノム要因などの背景と, タバコによる慢性炎症の影響という 2 つの事象を「タバコ関連肺」という言葉で表しても,それだけでは新しい展開になりませんね。
貫和 慢性過敏性肺炎と IPF の関連について,ここ数年で概念がかなり明らかになっています。 環境要因で起こる慢性の肺の炎症は,欧米より日本の研究のほうが進んでいるという印象も受けますが,いかがでしょうか。
吾妻 この疾患は,老化とともに生じる脆弱性が影響するというとらえ方が重要で, 老化肺という内因,つまり疾患感受性が大前提にあると考えています。 そこに,鉱物の吸入や有機物としての免疫学的な賦活を起こすような外因があると,それらが炎症を起こし肺が壊れていくのだと思います。 疾患としては,成り立ちは異なりますが,治療薬の開発という大きなテーマからみると,慢性に進行し従来の治療に抵抗性であるという観点からは, 一緒に議論をすることが重要ではないかと感じています。
貫和 最近の話題として,NSIP(非特異性間質性肺炎)と膠原病肺との関連についても気になるところですが,どうでしょうか。
井上 それらの関連について,いまだ議論が続いています。 以前は,不確定な疾患の多くが通常型間質性肺炎(UIP)に分類されていました。 その後,NSIP という疾患が提唱されたわけです。これは,いわばゴミ箱的な診断名で,膠原病と考えるべき疾患も含まれてしまいました。
2002 年の ATS,ERS のコンセンサスでも,病理パターンとしての NSIP パターンは認められましたが, 臨床画像病理診断名としては“provisional”(暫定的)な診断名にとどめられました。実際に,SSc で UIP を呈した症例を見直した場合, その多くの症例が NSIP だったというデータがあります。
最近韓国から,特発性 NSIP と診断された患者の予後と膠原病肺で UIP パターンを認めた患者の予後に差がなかったという 興味深い報告が出されています。また,10%の患者で膠原病が新たに出現してきたとの報告がありました。 また,Kinder らは分類不能結合組織病(UCTD)という疾患概念により特発性 NSIP を検討すると, そのほとんどが膠原病肺か,UCTD であったと報告しています。
日本でも研究班の膠原病肺の分科会が,NSIP あるいは UCTD について臨床試験を開始しています。 おそらく,膠原病肺とオーバーラップするのが NSIP で,そのなかで特発性 NSIP もあるという理解が正しいのではないかと思います。
貫和 遺伝子が同定されている Hermansky−Pudlak 症候群の肺線維化は NSIP だろうと言われています。 ところが,50 歳ころになると,一見 UIP のようになってきます。NSIP におけるエージングの要素も検討していく必要がありそうですね。
貫和 3 年ほど前,ある IPF 患者の家族に顕著なテロメア長の短縮がみられるというデータが 『New England Journal of Medicine』に出され,センセーションが起きました。 最初の報告をしたグループは“syndrome of telomere shortening”という疾患群としましたが, テロメア長短縮が肺の線維化に関与するという見解が出ています。
また,fibrocyte(=fibroblast+leukocyte)も,最近の大きな話題としていろいろな面で取り上げられています。 リウマチの関節腔を構成する,筋線維芽細胞は流血中の fibrocyte から由来するのではないかという論文も最近ありました。 fibrocyte という考え方は,今後展開していく分野だろうと思います。いかがでしょうか。
吾妻 fibrocyte がどこからきて,それがなぜ肺で起こるのか, 炎症が発生する場がどこなのかといったことが大きな問題となっています。 まず,誘導する因子を特定することが大切です。近年の研究から末梢血幹細胞が血管を介して肺に到達し, fibrocyte へ分化する可能性が示唆されていますが,その過程がすべて明らかにされたわけではありません。
私は個人的には肺の中で炎症を起こして肺が壊れて,そこを正常に修復せずに進行していくことについては, セントラルドグマのような感覚が以前,ありました。それだけではなくて,そこで気腫にならず線維芽細胞が増殖をすると, LAM(リンパ脈管筋腫症)ほど平滑筋増殖という色彩は強くはないですが,同じような視点から細胞増殖, あるいは細胞サイクルを管理できなくなってしまうということが,IPF にも当てはまるのではないかと思っています。
貫和 以前,京都大学の泉孝英先生が「肺線維症の線維芽細胞は,まるで癌のようだ」とおっしゃいました。 当時はピンときませんでしたが,現在,非常に洞察力のあるお考えであったと痛感しています。
fibrocyte が血中あるいは骨髄中から動員されて, あるいは IPF の場合には fibroblastic foci は外から由来する fibrocyte によって形成されるのかもしれません。 ピルフェニドンやボセンタンにしても,ひょっとすると fibrocyte のリクルートを抑えるということが VC の低下につながる可能性もあるのではないかと,最近,考え始めています。 次の治療への展開が予想される,非常に興味深い分野ではないでしょうか。
本日は,現在の臨床から将来期待される展開まで,かなり幅広くお話しいただきました。どうもありがとうございました。