■治療学・座談会■
新しい肥満治療アルゴリズム
出席者(発言順)
(司会)白井厚治 氏(東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座)
宮崎 滋 氏(東京逓信病院内科)
堀川直史 氏(埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック)
谷  徹 氏(滋賀医科大学外科学)

食事療法

白井 食事療法を指導する際のコツなどがありましたら,お願いします。

宮崎 私どもはあえて理屈で指導しています。理屈と言っても簡単な話で,「食べれば太る」し,「活動に必要なエネルギーより少なく食べればやせる」ということを,患者さんによく理解してもらいます。そのため,最初に患者さんが来られた時に,私がメディカルな問題をチェックして検査を依頼し,栄養士のところに行かせて 15 分だけ面接してもらい,その人のバックグラウンドを調べています。そのときには,指導を行わずに聞くだけなのです。これを「聞き取り」と言っていますが,聞き取りをすると,栄養士から「やれそうよ」とか,「今すぐにはできない」などと,印象が返ってきます。それで,また指導,治療法を修正していくようにしています。

 初診時の患者の 1 日栄養摂取量は,3000 kcal は当たり前で,4000〜6000 kcal と,大量に食べている人もいます。 そこで,「今の食事のなかで,これを引いたら 1000 kcal 少なくなる」というように,徐々に目標に近づけるように教えています。 「引き算方式」とよんでいますが,栄養指導というより食行動の矯正です。

 面接を繰り返していくうちに,本人から今度これを減らしたらどうだろうかという提案を導き出してもらいます。 医師は受診を誘導するだけの役目で,体重減少や検査データの確認を行い,今後も頑張ろうと励まします。 その後,栄養士が具体的に指導しています。そういうことを何回か繰り返していますが,それに乗ってくる人はよいですし,乗らない人は難しいです。

 食事療法として,細かいカロリー計算や,適正なメニューを指示するのではなくて,現状の食生活,食行動をどのように変えていくかを,時間をかけて理解してもらっています。 これで,うまくいく人にはうまくいきます。

白井 「バランス良く食べなさい」とよく耳にします。なんとなくわかった感じがしますが,バランスが最も難しいようです。 蛋白,ビタミン,ミネラルを十分量含んだ「フォーミュラ食」を,私どもは積極的に用いるようにしています。 栄養成分の説明に便利ですし,「あれを食べるな,これを食べるな」ではなく, 「これを一食の代わりに飲んで,あとはある程度好きなものを,量を決めて摂ったらどうですか」などと,指導しています。 むしろ,食物の選択肢が増えるという考え方です。それぞれ,種々のノウハウを互いに公開し合って,その患者に合ったものを行えばよいのではないかと思います。

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