■治療学・座談会■
新しい肥満治療アルゴリズム
出席者(発言順)
(司会)白井厚治 氏(東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座)
宮崎 滋 氏(東京逓信病院内科)
堀川直史 氏(埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック)
谷  徹 氏(滋賀医科大学外科学)

薬物療法

白井 これまでの抗肥満薬は,日本では規制が強く,使いにくいですね。 それは,「やせ願望」の人たちに処方して,やせを助長してはいけない,医療としてきちんと治療しようという理由からで,規制はしかたないと思います。 そういった背景でも,海外では,いくつか薬が出ています。それらの概要をお話しください。

宮崎 日本でも 2010 年内には,中枢性食欲抑制薬である sibutramine の製造販売承認が下りると思っています。 sibutramine は 10〜15 mg を 1 日 1 回服用すると,食欲がある程度抑制されます。 それで,6 か月〜12 か月で体重が 5%前後,7,8 kg 減ると言われています。 たとえば,3 度の食事を摂っても間食を無性に欲しがっていた人が間食を食べなくてもすむようになり,食事療法をやりやすくする薬だと考えています。 つまり,食欲をまったく抑えるのではなく,間食を抑えられる程度のもので,それでも体重が減ると思える薬です。

 ただ,いくつか問題があります。1 つは血圧を上昇させることです。 脈拍数の上昇という交感神経刺激作用があるので,これによって心血管疾患を悪化させるのではないかという懸念があります。 肥満症治療薬は基本的には体重を減らして,最終的に冠動脈疾患,脳血管疾患を抑制することが目標ですが,冠動脈疾患などがある患者に使用できない可能性があります。 しかし,そのような疾患をもっていない多くの肥満症の人には,この薬は福音になると,十分に期待できます。

 現状で使用可能なマジンドールは,BMI 35 kg/m2以上の人に使用が限られ,依存性のため 3 か月しか処方できません。 そういう意味で,この薬を使用したい高度肥満の人は,3 か月では効果が現れる前に中止しなければならないという問題があります。 sibutramine が使えることになれば,マジンドールに代わって,ある程度長期的な使用ができると考えられます。

白井 単にあればよいというのではなくて,診療基盤がきちんとしていないと,逆に悪い面が出てくる懸念があるのですね。

宮崎 「この薬だけ服用すれば,やせる」と思われては困ります。やせ薬として,医療上必要がない人にまで使用される危険性があります。

堀川 われわれのほうにも「処方しろ」と言って帰らない患者さんがいます。 少し気持ちが良くなる,ハイになるのですが,それで欲しがる人がいるわけです。

 肥満症は重要ですが,そのほかにも,種々の重症慢性疾患で,セルフケアの負担が非常に大きい病気があります。 すべてに共通していると思いますが,セルフケアは生活全般の変更なので,私たちが考えるよりも非常に難しいと思います。 人生の目標,人生観の変更につながる場合もあります。これを前提にすると,ひとりの患者さんに関わる医療従事者全員が行うべきことは次の 2 つです。 1 つ目は,共感的,協力的な関係をつくることです。 もう 1 つは,おもに行動療法,あるいはセルフケアについての指導,教育を行うときに,エンパワーメント・アプローチの考え方, すなわち患者の自己決定についてのこれまでとは異なる考え方ですが,それを理解し,実行することです。詳しくは,本誌の前半(p.101〜103)に執筆しました。 以上の両方が大切で,そのほかに,どこまでをだれがやるのかという仕事の役割や割り振りも大事で,いろいろと工夫していきたいと思います。

白井 チーム医療と言ってもやはり医師がその指令の中心で,身体的,精神的側面の理解など, 十分な能力を貯えておく必要があると思います。全人的医療が求められていますが,肥満治療こそ,その最たるもので,研修医教育にも非常に良いテーマだと思います。 「肥満患者を診療できる研修医は医学的知識と人間的側面の両面を持ち合わせている良い医師だ」と,アピールしています。本日はありがとうございました。

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