伊藤 特定健診などを含め,社会的に問題になるもののひとつが医療経済です。CKD は,医療経済的にみて,いかがでしょうか。
渡辺 これは,井関先生が委員長をされている検尿の効果検証委員会でも大きなテーマのひとつです。 たとえば,特定健診で血清クレアチニン値を測ることのコストベネフィットの解析です。でも,これは非常にむずかしいです。 早期に発見して早期に介入するために,健診の費用が多くなります。また,介入すると,薬剤費やその他で多数の費用を投入することになるので,さらに増加します。 しかし,その結果,透析費用の削減と,また CKD は末期になればなるほど,さまざまな治療費が加算されていくので,それらの費用をいかに減らせるかです。 マルコフモデルという医療経済モデルから算出するプロジェクトが進んでいますが,結果はまだ出ていません。 現在,健診データなどを含めて,既存のデータから健診システムごとに収支の算出を試みています。 ただし問題なことに,多数の人々を健診するわけですから,医療経済的に持ち出しが多くなる可能性もあるような気がしています。 しかし,こういう問題は医療経済の立場のみで議論してもらっては困ります。 われわれ医学者がなすべきことは,必要となる経費の収支を具体的に提示したうえで,同様にメリットも示すことだと思います。 研究者ができるのはここまでで,そのあとは,一般の人々や政治家,行政者がどの程度ベネフィットを収支との比較で評価するかにかかっています。つまり,政治的になるのです。
井関 医療費に関しては,米国のデータはありますが,それを日本に当てはめるわけにはいきません。
渡辺 腎炎患者の割合がまったく違います。医療経済解析は,疾患構造,医療制度の異なる国ごとに行う必要があります。
伊藤 おそらくコストは,原疾患によっても違ってくるし,その後に寝たきりや介護の問題が入ってくるので,算出は相当に困難です。 ただ,これは経済だけの問題ではなく,福祉や健康をどう考えるかという基本的な姿勢を,社会全体で議論していかないといけません。