綿田 2 型糖尿病の治療のなかで最も重要なことは,食事療法,運動療法です。 まず,食事,運動療法を指導して,血糖値がそれぞれの患者さんの個別の目標値に達しなかった場合,どのように薬物治療を開始しますか。
金藤 BMI(body mass index)の高い患者さん,あるいはインスリン抵抗性の指標である HOMA−IR 値が高い患者さんに対しては, 経口血糖降下薬であるビグアナイド薬かチアゾリジン薬を使用します。インスリン分泌の悪い患者さん,あるいは HbA1c値がかなり高い患者さん, 特に HbA1c 8%を超えているような場合には,SU 薬を使用します。血糖降下作用に関しては,SU 薬のほうが速効性があると思います。
大杉 運動していない,できない,酒量が多いなどの生活習慣から, あるいは,BMI が低くても腹囲の数値などにより,インスリン抵抗性が想定される人もいます。 若い時にかなり痩せていて 10 kg 近く増加しても,BMI 25 kg/m2以下の人もいますが,こういう人は BMI にかかわらずインスリン抵抗性が疑われますね。
藤本 薬剤の選択はもちろん,投与量も検討すべき問題だと思います。 たとえばチアゾリジン薬は,半量(15 mg)程度でも効果が出る場合がありますし, ビグアナイド薬や SU 薬は,欧米に比べて日本ではもともと少量を使用しています。 SU 薬のグリクラジドを 20 mg/日程度から使っていくと,低血糖を起こさずに治療できる場合もあります。
インスリン抵抗性,インスリン分泌能のどちらを改善しても血糖値は改善されるので,「第一選択薬にはこれ」というエビデンスはありません。 むしろ,腎機能障害を有するなどのハイリスク患者には,ビグアナイド薬や SU 薬の使用は控えるなど, 安全性をいちばんに考えることが処方時に必要になる場合があります。 いずれにしても,少量から投与し,反応をみながら適切な用量を設定していく,というのが安全な治療法ではないでしょうか。
肥満の人には,それ以上の体重増加を予防するという理由から,ビグアナイド薬を選択する場合は多いです。 肥満に限らなければ,SU 薬かビグアナイド薬を使うことが多いです。
大杉 私は実は,複数の薬剤を処方することがあります。 初診ですでにインスリン治療が適切なほど HbA1c値が高い人や眼の合併症が疑われる人は除いて,少量の SU 薬と,ビグアナイド薬もしくはチアゾリジン薬の 2 剤を併用しています。 単剤では効果の発現が遅いことがあるので,HbA1c 8〜9%以上では併用で始めています。
金藤 ビグアナイド薬とチアゾリジン薬のどちらを処方するかで迷ったときには,動脈硬化が明らかに認められる場合にはチアゾリジン薬を使います。 その際には,体重増加や浮腫などが出現する場合もあるので,注意が必要です。ビグアナイド薬は肝臓でのインスリン抵抗性を軽減する作用などがあり,欧米では第一選択薬になっています。 ただ,腎機能が悪い患者さんや高齢者には注意が必要です。
藤本 チアゾリジン薬と骨折リスクとの相関の有無についても気になるところです。 欧米のガイドラインを参考にすると,心不全傾向,心不全の既往がある人には使用は厳しいと思います。
綿田 チアゾリジン薬の骨折リスクについては,機序的にも考えやすいですね。
藤本 ただ,使用を否定し血糖コントロールができないままでは,糖尿病合併症を発症,進展させる可能性も出てきます。 SU 薬を併用すると血糖値が下がる人がいますので,ベネフィットが上回る場合には使用すべきだと思います。
金藤 また,チアゾリジン薬は,患者により有効・無効が比較的明らかに分かれるので,その効果を判断しやすいです。
綿田 2 型糖尿病患者には,インスリン抵抗性とインスリン分泌不全の両者が大なり小なり存在しています。 しかし,それらを正確には定量できないので,糖尿病治療薬の薬効を考えながら,少量から投与しているわけですね。
綿田 糖尿病治療薬として,実際,何種類まで併用されていますか。
金藤 SU 薬とチアゾリジン薬,ビグアナイド薬の 3 種類が多いです。 食後血糖値が高ければ,さらにα−GI などを処方します。そこまでの段階でインスリン療法が可能な場合には導入します。
大杉 現実問題として 3 種類を使わざるをえない,あるいはそれ以上を考える必要のある人は,もうその時点でコントロールがうまくいっていない患者です。 患者自身もおそらくインスリンのことを考え始めているはずなので,どのタイミングで導入するか,どのように患者を説得するかが課題になると思います。 経口血糖降下薬の 2 種類でうまくコントロールしきれていない人は,どこかの時点で,インスリン療法を考えざるをえないように思います。
藤本 そうですね。インスリン分泌不全とインスリン抵抗性改善薬の 2 種類でうまくいかないときには, 3 剤に増やしたとしてもあまり効果がない場合が多いです。そのあたりで,インスリンを考えていくことになります。 C−ペプチドのインデックスも参考になるかもしれませんが,3 剤を服用している人はインスリン療法に抵抗感があり,経口薬を希望されていることが多いです。 やむをえず 3 剤併用をしていることがかなりあり,治療効果はあまり良くありません。
綿田 インスリン治療の開始はどのようにされていますか。
金藤 入院の場合には,経口薬を中止し超速効型インスリンを開始しています。 超速効型インスリン 3 回打ちで,血糖コントロールが不十分な場合には,持効型も加えて 4 回打ちとしています。
大杉 入院が必要な場合には,ほかの疾患を併発していることもありますが,強化インスリン療法 4 回から始めます。 それにより,退院される患者が多いです。SU 薬は中止しますが,インスリン抵抗性改善薬は継続することが多いです。 最近はミックス製剤の 2 回打ちは少なくなり,退院時は 4 回打ちのままか,基礎インスリンと経口血糖降下薬との併用療法(Basal Supported Oral Therapy:BOT)で帰っていただくことが多いです。 BOT は 1 回打ちで,その場合には SU 薬の服用を少量残すか,あるいはグリニド製剤に切り替えています。 しかし,この場合には,薬剤の効果がある程度得られる患者ということになります。
綿田 HbA1cはどの程度の値から,インスリンを導入されていらっしゃるのですか。
金藤 3 種類程度の経口薬を使用して,HbA1c 8%くらいになれば,インスリンを導入しています。 日常診療においては,7.5%くらいから,インスリン導入が望ましいことを説明しています。
大杉 理由はわかりませんが,「8」という数値がわりと皆の心に響くようですね。
綿田 目標は「良」では 6.5%ですが,なぜか 8%からというケースが多いですね。それが現実ですかね。
藤本 最近,持効型インスリンができたことが大きく影響していて,外来で導入する場合には, とりあえず BOT を 1 日 1 回,少量から始めることが多いです。私たちの施設では,入院時の平均 HbA1c値は 9%なので,ほとんどの患者が強化療法を導入することになります。 これで入院期間が短縮できますし,患者自身,自分の血糖の動きをよく理解できます。 基本的なインスリンの使い方を患者自身にもわかってもらうという意味でも,強化療法から入ることが多いです。 最近,強化療法では,持効型プラス超速効型 3 回というものが非常に増えています。 しかし,どうしても昼に打てないなど,回数を減らしたいという要望が強い場合には,2 回打ちを検討します。 ケースバイケースになると思いますが,2 回打ちにせざるをえない状況もあるかと思います。
綿田 専門施設では超速効型と持効型の使用の割合が高いですが,日本では,ミックス製剤が最も多く使われていると聞いています。
大杉 確かに数年前はミックス製剤が主流でしたが,徐々に減少しているようです。
綿田 先生方が実施されているインスリン治療では,BOT もあれば強化療法もあり,一部ではミックス製剤も使われています。 「インスリン療法」と言っても,治療法はさまざまであるように見受けられます。どの療法が良いのかに関する十分なエビデンスが蓄積されていないからだと思います。