■治療学・座談会■
糖尿病治療の実際とガイドライン
出席者(発言順)
(司会)綿田裕孝 氏(順天堂大学医学部内科学・代謝内分泌学)
金藤秀明 氏(大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学)
藤本新平 氏(京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学)
大杉 満 氏(東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科)

求められるエビデンスの構築

綿田 『糖尿病治療ガイド』を中心に現在の糖尿病の治療指針を考察してきましたが,目標値の設定が具体的ではない点もあり, 実際にはどういう治療法を選択すべきなのか,と苦慮されることもあるかもしれません。 しかし,これは“ガイドラインだからこそ”という理由に尽きるでしょう。ある程度,経験則に基づいた治療が行われているのが現状のようですが,いかがでしょうか。

金藤 たとえば,一概に“高齢者”といっても具体的な年齢で表すのは非常に難しいです。 また,病歴や生活環境などによっても,血糖コントロールの仕方は異なってきます。

大杉 では,専門医がすべて診ていかなくてはいけないのかというと,それは非現実的です。 比較的治療が安定している患者は他の医師が診てもうまくいくはずです。 どのタイミングでどういう患者を専門医に紹介していくのか,という課題もあると思います。

 たとえば,血圧や脂質のように,この薬剤でここまでコントロールできれば大血管障害のリスクを抑制できる, といった具体的なデータが糖尿病の領域には乏しく,それゆえに,ガイドラインでは,多様な患者に多様な治療を選択しましょうという表現になるのだと思います。

金藤 大血管障害には,高血圧や糖尿病,脂質異常症など,さまざまなリスク因子が関与しています。 このために,糖尿病だけをコントロールしても,大血管障害の進展を十分に抑制できないのだと思います。

藤本 UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)は,厳格な血糖コントロールによる大血管合併症の抑制効果を検討していて, 10 年という長期にわたって観察され,インパクトのあるものでした。 たとえば,この治療ガイドにも,発症年齢を 65 歳以上と 65 歳未満で分けて考えるべきだという記載があります。 そういう視点も必要だという裏付けになる,研究成果のひとつではないでしょうか。高齢化が急速に進行していくにあたり,一側面でみるのではなく, 長い経過も考慮したガイドラインを作成することも,今後の目標になるかと思います。10 年後を想像するのはなかなか難しいですが,そこを意識した指針ができれば理想的です。

綿田 確かにご指摘のとおりです。現在までのエビデンスをたどると,それらを多方面から取り入れた, 現状での最大公約数的な指標を提示した指針が,『糖尿病治療ガイド』になるのではないでしょうか。 先生方がおっしゃったように,今後,十分なエビデンスが構築されていくことが理想です。 そして,それらによって,より明確な糖尿病治療ガイドラインの刷新へとつながっていくのだろうと期待します。本日は,ありがとうございました。

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