■治療学・座談会■
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出席者(発言順)
(司会)小川 聡 氏(慶應義塾大学医学部循環器内科)
杉  薫 氏(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科)
矢坂正弘 氏(国立病院機構九州医療センター脳血管神経内科)
高橋 淳 氏(横須賀共済病院循環器内科)

心房細動症状の緩和

■抗不整脈薬の使用開始時期

小川 たとえば頻脈性の心房細動が起きている患者さんが受診されたときの対応を,具体的にお話しいただけますか。

杉 頻脈性心房細動で心不全を起こすのは 130/分以上の心拍数が続いた場合とされています。 心拍数が 100/分以上になれば心電図からわかりますし,患者自身もドキドキする,少し息苦しいなど,自覚症状があります。 心不全徴候の有無を確かめることが大事だと思います。来院時に脈が非常に速くても,就寝時には意外とゆっくりになる人もときにおられます。 ですから,心拍数以外に,臨床的な心不全徴候,そして症状の強さも,早期の治療開始か経過観察かの判断には基準になると思います。

小川 心不全はないが動悸を強く訴えている患者さんには,どう対応されますか。

杉 洞調律にするかどうか判断する前に,心拍数を少し遅くすれば自覚症状を除けるのではないかと思っています。 背景に喘息や冠攣縮がなければ,β遮断薬を頓用で少し使用してみます。それから,Ca チャネル遮断薬のジルチアゼムやベラパミルを少量使うこともあります(図2)。

 ワルファリンの適応があれば,初診から検査結果が出るまでワルファリンを使用し,1〜2 週間後に受診してもらいます。

図2
図2 心拍数調節のための治療選択肢
(『心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008 年改訂版)』,日本循環器学会ホームページから引用)

小川 その後のアプローチはどのようになりますか。

杉 それ以降の受診時にも心房細動があれば,左房径を重視します。左房径が 50 mm 以下であれば元に戻る可能性があります。 さらに心電図で,細動波がある程度しっかり大きくみえれば,元に戻る可能性は高くなると思います。それで洞調律に戻す努力をしてみます。

 外来でワルファリンを管理するわけですが,現状ではワルファリンの調節に約 1 ヵ月またはそれ以上かかることがあります。 それを待って抗不整脈薬を開始するとなると,かなり遅れてしまいます。逆に心房細動が持続したままでは,心房のリモデリングが起こることが懸念されます。 それで,数週間経過したら,抗血栓療法が効いていなくても,抗不整脈薬を使い始めることもときにあります。

 早期に除細動したいときには,Na チャネル遮断薬を使います。それでも持続する場合には,ベプリジルを使います。 ベプリジルによる除細動まで平均 1 ヵ月程度かかると言われています。比較的長い目でみることが,外来では多いようです。

小川 開業医の先生方のなかに,早期の除細動を目的に,初診で抗不整脈薬を処方する方もおられるようです。それはまずいのでしょうか。

杉 そうですね。適応があるかどうか,きちんと見極めることが必要だと思います。

■病態別の薬物療法

小川 薬物治療は,2001 年版では発作の停止と予防とに分けて記載しましたが,2008 年改訂版はすべて同じ扱いです。 最も大きな違いといえば,孤立性かどうか(図3),心疾患があるかどうか(図4)で区別したことです。これらは,どのように変わったのでしょうか。

図3
図3 孤立性心房細動に対する治療戦略
発作性は 7 日以内に自然停止するもの。持続性は 7 日を超えて持続するものを指す。 Ablate & Pace=房室接合部アブレーション+心室ペーシング,*:保険適用なし (『心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008 年改訂版)』,日本循環器学会ホームページから引用)
図4
図4 器質的病的心(肥大心・不全心・虚血心)に伴う
心房細動に対する治療戦略
Ablate & Pace=房室接合部アブレーション+心室ペーシング,CRT=心室同期ペーシング,*:保険適用なし(ただし肥大型心筋症に対する経口アミオダロンは適用あり) (『心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008 年改訂版)』,日本循環器学会ホームページから引用)

杉 2008 年改訂版の特徴は,日本で頻繁に使われている薬剤を中心にすえたことだと思います。 ですから,Na チャネル遮断薬のうち,2001 年版に記載されていたキニジン,プロカインアミド,ピルメノールが抜けました。

小川 ここにあげた薬剤は,J−RHYTHM 試験で最も多く使われたものから順に記載されたと理解しています。 持続性心房細動には,最初からベプリジルなどを使う。それらの根拠はどういうことからでしょうか。

杉 持続性心房細動は,他の Na チャネル遮断薬で除細動できなくても,ベプリジルの長期使用により洞調律になることがあるという結果が, 日本のいくつかの施設から出されました。心房細動が持続してなかなか戻らないと思っていた人が洞調律になった後も, ベプリジルの継続で,心房細動の反復なしに洞調律の維持が可能です。

小川 確かに J−BAF スタディ(塩酸ベプリジル臨床試験)が 2007 年に行われて,Na チャネル遮断薬で効果のない持続性心房細動に対し, ベプリジルによる除細動率が 6〜7 割であったという結果が出ています。それらが,2008 年改訂版に取り入れられたというわけですね。

■電気的除細動の適応

小川 2008 年改訂版にも,PV isolation(肺静脈隔離術)や ablate & pace(房室接合部アブレーション+心室ペーシング)を記載しました。 欧米のガイドラインでは, 第一選択薬が無効の場合,アブレーションかアミオダロンという順序になっています。これについてはいかがでしょうか。

高橋 抗不整脈薬の効果がなく,患者さんが症候性であるという PAF には,アブレーションという選択でよいかと思いますし, ガイドラインでもそうなっています。

 持続性心房細動に対するベプリジルやアミオダロンの使用には,少し注意が必要かなと思っています。 その理由は,持続性の細動を止めるためにはかなり強力な薬剤が必要となり,その後に現れる種々の抗不整脈作用や催不整脈作用などがよくわからないからです。

 私たちは最近,Na チャネル遮断薬を使っても止まらない細動には,electrical conversion(電気的除細動:EC)を行うことが多いです。 そこでどういう反応を示すのか。その後の心拍数は遅くなるのか,洞調律になるのか,ポーズがないのか,などといったことを確認し, その後にアミオダロンやベプリジルを使う場合もあります。また,再発性の場合にはこれらの薬剤を使う前にアブレーションを行うということもあります。

 具体的に言えば,EC により細動が止まった後に心拍数がきわめて低いことがあります。このような患者さんにはペースメーカが必要なことは明らかです。 そこで,持続性心房細動の薬をすでに使っていたら,何か起こる可能性もあります。また逆に,患者さんがペースメーカを入れたくないという場合も, 治療方針の判断材料のひとつになります。EC は目の前でみることができ,何かあれば,そこで判断ができるということで,目安のひとつにしています。

小川 2008 年改訂版には,Na チャネル遮断薬とベプリジルとの中間に EC が入っています(図3)。 ベプリジルやアミオダロンの使用前のステップとして,EC は非常に重要になっていますね。

 再発時にはアブレーションを実施することになるのでしょうか。

高橋 はい。ただ,細動が止まり維持できるようなものは,リモデリングはそれほど進んでいないと考えられ, 早期にアブレーションを行うこともありえます。このような症例では,アブレーション法で根治する可能性があります。

■アブレーションの治療成績

小川 高橋先生,PAF と持続性に対するアブレーションの成績をご紹介ください。

高橋 PAF と,6 ヵ月くらいまでの持続性を一緒にして,隔離術がメインの治療でみると,無投薬下で,ファーストセッションで 75%程度,セカンドセッションで 90%程度,成功します。詳しく言うと,92〜93%で,残りの 8%のうち半数の症例が,アブレーション実施前に効果のなかった薬が効くようになり,6 ヵ月以内の持続性および PAF に関しては,95〜96%が抑えられます。

小川 それでは,薬物療法の生きる道がなくなりそうですね。長期成績はいかがでしょうか。

高橋 われわれのデータでは,6 ヵ月ぐらいまでは再発が多く,それ以内であればセカンドセッションを行います。 それ以降もパラパラと再発は出ますが,非常に少ないです。6 ヵ月がひとつの目安かなとは思っています。

小川 6 ヵ月以内にセカンドセッションを実施してしまうということですか。

高橋 基本的には 1〜2 ヵ月空けています。確かにアブレーション直後に再発する人はいます。 ところが,薬を使ったり経過をみたりしていると,1〜2 ヵ月で薬を中止しても発作が出なくなる症例がいます。 その後も出ないので,外来にまったく来なくなったという人もいます。セカンドセッションまで,できれば 2 ヵ月程度空けたほうがよいという感触を得ています。

 専門的な話になりますが,セカンドセッションを行った患者で,1 回目のセッションで責任病変の肺静脈は隔離されましたが, 1 回目で何も出なかった場所が伝導再開していて,それで再発されました。そのへんが,アブレーションのひとつの限界かもしれません。

小川 治療成績は 90%以上ですが,合併症も非常に低いのでしょうか。

高橋 合併症がアブレーションでは最大の問題点となり,第一選択にはならない理由のひとつです。 問題となる合併症は脳梗塞,血栓塞栓症なのです。私たちは 2000 例近く実施しましたが,リスクは 0.24%と考えていただいてよいと思います。

小川 それは非常に低いですね。

高橋 はい。確かにタンポナーデも 0.6%あります。これは適切な処置を受ければ,全員が問題なく退院できます。 それ以外に食道の障害,たとえば胃の迷走神経を障害したなどを,私たちは報告しています。それも 0.24%あります。現在は合併症対策のため,食道の温度センサーで確認しながら行っているので,ほとんど起きていません。

小川 ワルファリンを中止して,ヘパリン下で行うのですね。

高橋 はい。ワルファリンを使いながら行うほうがよいという,最近の報告もあります。 リスクの高い人はそれでよいのかなと思いますが,私たちの印象では,穿刺の際に少しまごつくと,内出血が起きたりします。 現状ではヘパリン下で行っています。リスクの高い人には,ワルファリンの切れを少し悪くしてから行うこともありえますが, それでも脳血栓塞栓症はリスクとして残ります。

■アブレーション後の薬物療法

小川 具体的にアブレーションが成功したあと,抗不整脈薬を併用するかどうかについては,いかがでしょうか。

高橋 そうですね。PAF,それから 6 ヵ月以内の持続性に関しては,抗不整脈薬は使用せずに経過をみています。 慢性に関しては,もともと substrate(基質)の問題もあるので,2〜3 ヵ月は服薬してもらいます。

小川 どういう薬剤を選択するのですか。

高橋 心機能が良好で,肥大心もなく,心不全の既往もないといった患者さんには,最も使いやすいので,フレカイニドが多いです。 ベプリジルを使う先生方もおられます。ワルファリンは,PAF の患者さんすべてに最低でも 3 ヵ月は投与しています。というのは,焼いた場所の血栓形成を抑制するためです。

小川 再発しない場合はどうされますか。

高橋 再発しない場合,PAF に関しては,ワルファリンは使用しません。ただ,私たちが重視していることは, 経食道エコーによる左心耳血流です。アブレーションの実施前に,AF 中で左心耳血流が非常に悪い患者さんには,ワルファリンを中止する前に再度経食道エコーを行い,血流速度が 40 cm/秒以上あることを確認して, それからワルファリンを中止するようにしています。

 ただ,PAF の人はだいたい洞調律のことが多いので,そのときに左心耳血流が悪くなければ,患者さんの訴え, 携帯心電図,脈拍などから「再発がない」と判断した場合には,すべてを完全に否定することは困難ですが,いちおう中止にしています。 慢性心房細動の場合には,数ヵ月薬を使っていますので,そこで「再発がない」という判断をしてから,2〜3 ヵ月服薬なしの状態で経過をみます。ですから,おそらく半年近くはワルファリンを継続することになりますね。

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