■治療学・座談会■
流行の把握と施策の重要性
出席者(発言順)
(司会) 岩本愛吉
(東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
宮田一雄 氏(産経新聞)
生島 嗣氏(NPO 法人ぷれいす東京 専任相談員)
樽井正義氏(慶應義塾大学文学部人文社会学科倫理学専攻)

すべての人に想定される感染の可能性

岩本 MSM のグループ以外の,日本の個別施策層はどうでしょうか。

生島 とても気になっているのは,薬物関係の相談が非常に増えていることです。

岩本 国の動向調査では新規感染のなかで薬物感染は増えていませんが,感染者のなかで警察に検挙される人たちの数が急増しているような印象をもっています。

生島 感染経路としての薬物なのか,あるいは精神的な不安定さを補完するものとして薬物が入ってくるのかで,かなり意味合いが違います。 ただ,薬物を使用する人たちの話では,非常に軽いものから入ったとしても,依存の進行とともに,効率の良さから静脈注射へ移行することが多いとのことです。 薬物関連の団体とも連携しながら,予防のキャンペーンをしていく必要があると強く感じています。

岩本 特に IDU の感染は,タイ,台湾,オーストラリア,ベトナム,マレーシアなど,多くの国で起こっていますが, 今のところ日本や韓国など東アジアでまったく認識されていません。とても気になりますが,国際的にみて,いかがでしょうか。

樽井 ドラッグ関連で注目すべきは台湾です。IDU の感染が 2002 年に,それまで 1 桁だったのが初めて 2 桁になって 19 人, それが 2003 年には 86 人,2004 年に 624 人,2005 年に 2463 人と急増しました。 2005 年に政府がハーム・リダクション,つまり感染を減らすために情報提供,清潔な注射針との交換,代替治療という現実的対策を導入したので,2006 年から減少に転じました。

 流行はどこにでも起こる可能性がある。日本で,たまたま今は MSM と言われていますが, ヘテロセクシャルな集団中にも拡大する可能性は常にあります。 IDU も同様です。われわれは,何かのきっかけでだれもが感染しうるという想像力をもたないと,きちんとした取り組みはできないと思います。

前のページへ
次のページへ