■治療学・座談会■
流行の把握と施策の重要性
出席者(発言順)
(司会) 岩本愛吉
(東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
宮田一雄 氏(産経新聞)
生島 嗣氏(NPO 法人ぷれいす東京 専任相談員)
樽井正義氏(慶應義塾大学文学部人文社会学科倫理学専攻)

HIV 輸出国という日本の側面

岩本 台湾や韓国,東アジアの傾向について,生島さんはどうお考えでしょうか。

生島 ゲイの世界では,実はアジアはつながっています。 東京,バンコク,台北,シンガポール,いわゆるアジアの国々では種々のクラブイベントが開催されており,さまざまな国から何千人と集まります。 だから,東アジアの人口移動はゲイのあいだではとても大きく,いろいろな意味で人の交流は多いという印象をもっています。そして,来日したアジアの MSM が日本で感染することも意外に多いと思います。

岩本 日本で感染しているのですか。

生島 はい,MSM が日本で感染し,アジア各国に帰っているという事例はかなりあります。 日本から HIV が輸出されているという事実もあるのです。ウイルス学的な解析では,そういうことは出てこないのでしょうか。

岩本 東アジアを含めて,日本以外の国々では MSM に集中したウイルスの検索などは行われていないと思います。やはり SW から広がったウイルスの解析が多いと思います。

生島 多くの場合,アジアから日本に入ってくると思っていますが,逆の流れもあると考えています。

岩本 国内は,東京をみても,HIV に関する認識は地域によってまったく違うのですね。

生島 そうです。新宿はかなり変わってきましたが,ほかの街はまだまだこれからです。 いまだにゲイバーに来る人たちの間でも,HIV/AIDS の話がタブーになっている街が多い。特に年齢層の高い集団ではそうです。

岩本 若い人ほどセクシャリティは固まっていないので,「自分には関係がない」と思っているうちに感染してしまうこともありえます。

生島 いろいろな調査で,経験したての時には,自分の行動をうまくコントロールできないようで,コンドームの使用率も低かったりします。 そういう時期にうまく啓発することが大事だと思いますが,たとえば避妊という脈絡だけで予防を語られてしまうと,MSM には関係ないと思ってしまう。そのあたりを,ぜひ教育現場でももう少し考慮していただきたいと思います。

 ただ,国の政治的な流れはそれとは逆の方向に,特に東京都などは向いています。

岩本 どちらの方向でしょうか。

生島 どちらかというと,禁欲教育に向いていて,直接的,具体的な教育はしない方向にいっている現場もあります。 また,東京には教師に対して採点をするような,教師をコントロールするシステムができあがっているので, 現場の先生たちもそのなかで試行錯誤することでとてもご苦労されているようです。

岩本 確かに家庭内暴力,援助交際など,種々の問題がありますからね。 また,ある意味で大学や就職後はむしろ放任されているように思います。会社が本腰を上げるところも非常に少ないです。

生島 メタボリックシンドローム予防やメンタルヘルスはするが,HIV はやらない。「健康日本 21」のなかにも入っていません。 施策のなかで重要だと位置付けられていないという現状が反映されているのではないでしょうか。

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