星野 私たちが医者になったころは,TPN を行えることで臨床医として一人前といったイメージがあり,盛んに TPN が行われました。 一方,今は在宅患者が増え,経皮内視鏡的胃ろう増設術(PEG)での栄養管理も多くなっています。 TPN,経腸栄養法(EN),PEG など,それぞれに配慮しなければならない点があると思いますが,いかがでしょうか。
鷲澤 入院患者さんに栄養管理の基準を一律に当てはめようとしても無理が出ます。 そこで私が最も注意しているのは,逆流などの症状には体位も大きく関係するので,点滴を落としている最中は「現場をよく見ろ」ということです。 まず,この患者さんのために何が最善の方法かを考える。 手間はかかりますが,考えるくせをつけることが必要です。 ですから,経口摂取している患者さんの病室に TPN 製剤が下がっていることもあります。
比企 癌研有明病院でも便通異常や下痢は多いのですが,院内では,腸を少しでも使おうと, 必要栄養カロリーの 3 割をめざした経腸栄養に,TPN をプラスするかたちを基本にしています。 それでも下痢が治まらないときには,乳酸菌製剤の大量投与と GFO(グルタミン,食物繊維,オリゴ糖)を使用して,対応しています。
星野 消化酵素製剤は使われますか。
鷲澤 消化器科の医師で熱心な方がいるので,消化酵素製剤の使い方や用量を教わっています。
星野 癌研有明病院でも,膵がんなどの術後に下痢が続き食事も摂れずに衰弱してきた方が, 酵素製剤を 5〜10 g 使うことで改善することがあります。専門家の意見を伺うことは,かなり重要ではないかと思います。
鷲澤 同感です。各診療科の先生方は経験,知識をお持ちですから, NST がいかにコラボレートして,専門の経験や知識をいただくかが勝負です。言ってみれば,いかにして仲間にしてしまうかだと思います。
星野 たとえば「胃瘻が付いたままで一生を過ごすのか」などと思うと,かなり落ち込む方は多いと思われます。どうされていますか。
鷲澤 PEG の人が増えていますが,院内のメンバーには,一見無理な場合でも「PEG 離脱率を上げられるかな」と,口ぐせのように言うようにしています。
星野 患者さんの自発的な食事摂取が増えることが望ましいと思います。それを阻害している要因は何か。 消化管は使えるのに食事摂取が増えない場合にはどのような工夫をされていますか。
東口 自発的食事療法は,手術とも関連しています。入院前までは食事をしていて,治療によって絶食をつくる。 特に高齢者では,長期の絶食は自発的な食事を減らす要因ともなり,また,嚥下力や消化力,吸収力を低下させる。 さらに,絶食が原因で口中がカラカラなのに,それらを無視して水分不足だ,あるいは誤嚥が心配だなどという理由で長期の TPN に移行してしまう,という悪循環があります。 このような絶食の本来の害を理解したうえで TPN を行う。 TPN は安全管理の確保が第一ですが,いつ腸管を使うのか,いつ食べていただくのかを,最初の段階から計画できるような指導を行うのが NST の務めだと思います。
米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)や JSPEN が提唱している「消化管を使え」というのは当たり前のことで, 大事なのはできるかぎり早く健常な代謝動態を得るように努力することです。 まずは,ごく普通の生活ができるだけのエネルギーとバランスを整えることが大事です。 それは,水分量,電解質,カロリー,アミノ酸が基本です。そのうえで,口腔ケアから始まる間接,直接摂食嚥下訓練を行う。 また,味覚障害や消化管の消化吸収障害などを薬剤や特殊な栄養剤で補う必要も出てきます。
そして最後は,やはり心です。「食べさせてあげたい」という心,まさしく鷲澤先生が言われた“PEG 離脱率”というのは良い言葉ですね。