■治療学・座談会■
QOL 向上と臨床栄養
出席者(発言順)
(司会)星野惠津夫 氏(癌研有明病院消化器センター内科)
比企直樹 氏(癌研有明病院消化器センター外科)
鷲澤尚宏 氏(東邦大学医療センター大森病院栄養サポートチーム)
東口高志 氏(藤田保健衛生大学医学部外科学・緩和ケア講座)

メンバーのモチベーションへの配慮

■NST メンバーの認定制度

星野 NST メンバーのモチベーションを上げるために,“認定ナース”,“認定ドクター”のような公的資格が必要と思います。学会レベルでは行われていますね。

東口 行っています。モチベーションについては,当初の NST は何度も頭をぶつけながら進んでいくような, 結構苦しいけれど楽しい無駄が多かったのですが,その無駄が逆にモチベーションを高めることにつながっていました。 ところが,システム化,合理化されていくと,無駄が減るとともにモチベーションが下がってきます。 ですから,「病院全体のこういうことに役立っている」というビジョンを示す,報酬で評価を受ける, つまり「得られた収益の一部などを認定を受けるために使おう」というように,病院で明確に予算化していくことが重要です。

 そして,この認定制度をみなで支援し,病棟でも,「そんな認定は知らないぞ」から「認定をとった専門家の言うことを聞きましょう」に変えていく。 研鑽を積めば積むほど,社会的・医学的に専門性の高い位置付けが得られるようにすれば,モチベーションは徐々に上がるはずです。

星野 栄養士さんにも,その認定はありますか。

東口 JSPEN では,NST 栄養士,NST 薬剤師,NST 看護師,NST 検査技師までの認定は確定しています。 ただ関連する学会と日本看護協会,日本薬剤師会,日本栄養士会,日本検査技師会などの機能団体が合意したうえで,第三者機関の認定に移行するのが望ましいです。 コンセンサスはいちおう得られています。

比企 認定を,多くの方がめざしていますね。私どもの病院でも薬剤師さんが勉強をしていますが,かなり難関なようです。

鷲澤 現状の問題は,管理職の方の認識によって,PPM も「業務をさぼってどこへ行っているのか」と言われかねないことです。 したがって一方では,管理職の方たちをどう動かすかも重要で,良い人をボスに置かなければ若い人は動けないという面が多分にあります。私の仕事の半分はそれです。

星野 そのために,データをきちんと出し,NST が立ち上がったら病院にとってこれだけのメリットがあった,というエビデンスが必要になりますね。

鷲澤 ただ,各部署で競争するようなかたちになると難しくなります。「一緒にやりましょう」という方向にどのようにしてもっていくかが課題なのです。

■臨床栄養教育の実施

星野 NST メンバーに対しては,どのような臨床栄養教育をされていますか。

比企 癌研有明病院では隔週でなんらかの講義が行われていて,リンクナースは毎回約 150 人が集まっています。 さらに医師の参加率向上のために,トップダウンで NST 委員を任命してもらい,委員会への参加を義務付けて,勉強してもらっています。 特に医師は,JSPEN の栄養療法医師技能研修(TNT)講習を約 20 人が受講していて,コアとなって教育を進めています。

鷲澤 私のところは,NST のコアメンバーはアクティブメンバーを含めて 41 人で, 週 1 回,症例検討会の前に 10〜15 分間,ちょっとした勉強会を行っています。ほかには,月に 3〜4 回の TNT を中心とした勉強会を院内外オープンでやり,年 2 回ほど,著名な方の講演会も開いています。 医師教育については TNT 講習を受けるように指導していますが,応募が多すぎるため,内科や外科の方になるべく行っていただきたいということで,偏りが多少出ています。

 特に職員に関しては,私どもも JSPEN の教育認定施設なので,必ず外の施設で見学した単位をとらないと実習修了を出していません。

東口 私のところは,院内外を問わず,古くからやっていたメタボリッククラブというものを今も月に 1 度やっています。 1 年間担当する講師は基本的に職種にかかわらず,院内のボランティアなので,する側も勉強になります。

 さらに,毎週,NST ミーティングの際に,ケーススタディを中心とした解説を 10 分ほど必ず行っています。

 また学部教育として,藤田保健衛生大学の医学生は,必ず 1 回は私のところの NST を経験します。 1 年時は“緩和ケア”を兼ねて,3,4,5 年時は実習も含めて NST と緩和ケアを“チーム医療”の一環として勉強してもらっています。 すると,NST が当たり前だと考える,これまでとはまったく違う医者が育っていきます。

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