星野 各施設で立ち上げられた栄養サポートシステム(NSS)について,まず総合病院の立場から,お願いします。
鷲澤 私どもでは,システム立ち上げの準備を 2000 年から始めました。 当初は逆風も強く,医局講座制への対応には 5 年はかかるだろうと見込んでいたのですが, 世の中の事情が変わって一気に加速したことから,2004 年 8 月,正式に組織に組み込んでもらえました。
大学病院という特殊性から,システムとしてコアになる人を配置し,他は交替制でやってもらう形式を採りました。 つまり NST のコアメンバー,アクティブメンバー,アドバイザリーメンバーとは別に各部署にリンクスタッフがいます。 病棟のナースにもリンクナースがいて,看護部の業務として交替制で行ってもらっています。薬剤部も同様です。
NST がめざすものは,特殊栄養療法の充実など,各診療科によって違います。 共通なのは連絡系統の簡略化で,たとえば誤解を減らす,誤解が起きても後ろを向かない,といったことです。 それらも NST の目的と考え,コミュニケーション手段としてとらえています。 組織が大きいので,何か建前がないと動けない場合もありますが,「NST の仕事なので」と理由付けにさせていただいています。
星野 縦割り組織で横方向のつながりをつくるにはご苦労もあるかと思います。 たとえば栄養の悪い患者さんがいたときには,リンクナースなどが声をかけて,カンファレンスを行い,方針を決めるというような流れでしょうか。
鷲澤 はい,リンクドクターからの連絡で入っていくことはありますが,途中にあまり会議などをはさまずに,直接担当医と話すことにしています。 1 例だけでもよいから,答えを出しながら前進するという方式を採っています。
当初「意見があったら言ってほしい」と表明し,それに対して反応が増えたのは事実です。 私たちの意見に従う必要はなくて,「私はこう考えている」ということを全員に教えてほしい, つまり情報の共有化の必要性を伝えたら,向こうから連絡をくださるし,栄養士や薬剤師の方が助言してくれることもあります。
星野 それで患者さんが元気になってきたというような実績が上がると,現場とのパイプがどんどん太くなっていきますね。
鷲澤 そうなのです。そして,うまくいったときには互いに喜び合う,互いにほめ合う, 主治医の先生に担当した管理栄養士をほめていただく,というかたちで,全員が元気になるようにしていきたいと考えているところです。
星野 癌研有明病院は,がん専門病院としてどのように実践されていますか。
比企 私どもの病院は急性期病院で,患者さんの在院日数は平均約 10.5 日です。 新しい病院のために患者数も非常に増加しており,時間短縮が課題となっています。 NSTも,基本的な活動はかなり省略された形態をとらざるをえないという面があります。
そこで,東口先生のところで勉強させていただいた Potluck Party Method(持ち寄りパーティー方式:PPM)を, なんとか当院でも定着させたいと,「時間割回診システム」と名付けてチャート回診をしています。 コアスタッフは自分の部屋で待ち,各病棟のリンクナースやリンクドクターが時間割で訪ねてくる。 1 回約 10 分と決め,1 週間にすると約 1 時間半で 700 床の回診が終わることになります。
星野 電子カルテを最大限活用して,必要な栄養素の計算なども,リアルタイムで行っていますね。
比企 はい。リンクナース,リンクドクターがほぼ完璧な栄養メニューをつくってきて, こちらは手直しするだけなので時間を短縮できます。患者さんの顔を直接みていないのが弱点といえますが, 現状ではこれが精一杯です。鷲澤先生のように専任でしっかり行っておられる先生がいらっしゃるとよいのですが……。
星野 藤田保健衛生大学の緩和病棟は,いかがでしょうか。
東口 私のところの PPM は,まず各病棟に小さな NST,すなわちサテライトチームをつくるPPM−IIIという方式で, NST を組織しています。その単位は,(1)リーダーとしての医師がサテライトディレクターを務めており, その下に(2)病棟首長である看護師長をリンクナースとして置いています(NST の下に褥瘡委員会,感染委員会および給食委員会があり, リンクナースとして合同会議に出れば,1 度の出席で 4 つの会議に参加したことになり,情報交換もいっぺんにできるというメリットがあります)。 その下に,(3)NST ナースと,(4)NST 栄養士,(5)NST 薬剤師,(6)NST 検査技師が病棟ごとに配置されているかたちになっています。 緩和ケア NST は,そのサテライトチームのひとつです。このサテライトチームをまとめる専任コアを,当講座が担当しています。 また NST に関わる医師には,全員に日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)の医師教育セミナーを受けてもらっています。
比企先生と同様,コンピュータの活用はとても有益です。 リアルタイムに,電解質,ビタミンからトータルカロリーのバランスまで全部自動的に算出できるシステムを用いますと, すべての患者さんに適切な栄養管理の提供が可能で,各病棟での診断のばらつきも解消できます。 健常者,中等度障害者,重症者と 3 段階に分け,中等度障害者をサテライトチームでケアをする。 重症者には専任コアスタッフが出向いていき,一緒に検討するという方法をとっているので,わかりやすいです。
基本的には各病棟の NST が主流で,問題点などがあれば,全体のコアスタッフとサテライトチームがミーティング後,回診していく。 私のところは 218 床を約 1 時間半で回診します。 サテライトチームの業務は週に 1 時間はかかるので,専任コアとの回診を含めますと,週約 1 時間 15 分は NST に労働力を提供してもらうことになります。 その代わり,IT の活用で合理化が進んでおり,また NST 効果で合併症も少なくなり,医療業務中に NST の仕事もほぼすべて終わります