■治療学・座談会■
わが国における循環器救急医療と心肺蘇生法教育
出席者(発言順)
(司会)野々木宏 氏 国立循環器病 心臓血管内科・緊急部
源河朝広 氏 東海大学医学部附属八王子病院 循環器内科
瀬尾宏美 氏 高知大学医学部附属病院 総合診療部
森田 大 氏 大阪府三島救命救急センター

救急医療体制の将来像

■ER 的なものの導入

野々木 日本の 3 次救急ではすべてを受け入れるとパンクしますね。

森田 3 次救急といっても独立型ではなく,併設型が理想でしょう。 既存の診療各科の担当医がある程度バックアップしてくれるというシステムでないと受け入れることが困難になります。 3 次救急でも外傷専門,最初から疾病救急は診ないところもあります。そういうところではどうするか。   併設型の半独立で動けるようなところにおいて,既存診療科がバックアップしてくれるところが地域救急の基幹としてすべての救急を診ます,という形でないと無理だと思っています。 患者の立場に立てばそれが当たり前だと思うのですが,外傷が主体というイメージがあると,それがなかなか理解されないし,また新しい体制を作り上げることが難しい。

野々木 救急専門の先生方は「3 次救急は最後の砦である。 だから,救命救急医は循環器も外傷も脳卒中も診ることができ,手術もできる」とおっしゃるのですが,本当にすべてを診ようと思ったら一人では無理ですね。

森田 何でもできるスーパーマンはいませんが,施設としてスーパーマン的になればいいわけです。

野々木 そうなると,1 次,2 次,3 次の枠組みというより,内因性の疾病救急の基幹病院が必要になりますね。

森田 はい。3 次救急は重症外傷の集中治療がメインだったので,救急というと外科だというイメージが強い。 そうではなく,重症外傷だったら外傷センターをつくって外傷外科の先生が常駐したらいいわけです。 私は,重症外傷センター対象例以外の疾病も含めた傷病者を ER へ集中させ,トリアージと初期治療を行うことが本当の ER 式の救急体制だと思っています。

野々木 それは別に救命救急センターでなくてもいいでしょうか。

森田 ええ。初期,2 次,3 次といういい方をしますと,3 次が理想でしょうが, 2 次病院でもできるところであれば「うちは 24 時間 365 日疾病救急を全部診ます。既存の診療科が全部バックアップしてくれます」と実績をつくってくれれば,それはそれでいいと思います。 そこが地域の基幹病院になれば,市民は安心できる。要はそこへ行けば何でも診てくれるという施設でないと困るのです。

野々木 どんな枠組みにすれば,そういうことができるのでしょうか。

源河  ニーズがあるので,現場は実質上そうなっているだろうと思います。 救急医療の枠組みが一般的に行われている救急を救急として認めていない。 3次救急センターに国から補助金が下りていますが,そうではない ER 型の救急も現場では普通に行われているはずです。 それを制度として認めて補助もするということができてないので,いまだに変わってないように見える。

森田 関東圏の大学病院,公的総合病院などそれぞれが切磋琢磨しています。初期,2 次,3 次,といわず受け入れ努力をしています。 また,2 次でも高度医療をするために努力しておられるようです。

源河  お互いに競争していますから,そういうなかで生き残りが出てくると思います。 疾病構造が変わって,患者さんが夜中に来るわけです。3 次救急センターで「これは 3 次でないからだめだ」と言われたとき, その患者さんたちが行く病院が必ずあって,その病院は否応なしに対応せざるをえなくなっています。 そのような病院は実質的に ER 型救急を好むと好まざるとにかかわらず行っています。

■疾病救急基幹病院の必要性

瀬尾 救命士のトリアージ能力など,ここ数年でかなり変わりつつあるのではないでしょうか。とくに高知みたいに小さいところですと, 救急の基幹病院が全部集まって医師と看護師と救命士が一緒に心肺蘇生訓練などを行うようになり,いろいろなことを勉強したり議論したりする機会が多くなっています。 そして,お互いツーカーになってくると,救命士が「これはここに連れていくのがいい」と,迷わず判断するようになってきているようです。

森田 先生のところは 2 次がメインですね。そうすると,これは重症のようだという場合,先生のところに連れて来ますか。

瀬尾 3 次で行くところは日赤の救命救急センターですね。

野々木 東京都 CCU ネットワークの報告によれば,CCU ネットワークの病院には院外心停止はほとんど運搬されていない。 ほとんど救命救急センターに行っています。 それが急性心筋梗塞だったら,循環器医は再灌流療法,PCPS(percutaneous cardiopulmonary support),低体温療法など,可能なことをできるだけ実施しようとします。 救急医と連携しないといけないにもかかわらず,そういう重症例のケアに循環器医が関与できない部分があり,本当の重症例が救命できていないことがあるのではないかと思います。

森田 ちなみに大阪では院外心停止の 70%が 2 次病院への搬送という有様です。 どのような重症患者が来るか分からない 3 次においては,循環器医のバックアップのうえで助けないといけない。 しかし,現実にはそれができていないことがあると思います。そこが今の体制の大きな問題です。 なかには救命できたケースがあったのではないかと思います。

 一度つくられた初期,2 次,3 次という枠組みはなくならない。その枠組みを使うとなると, 初期と 3 次が一緒になった施設に患者を集めて「これなら 2 次でいけるだろう」,「これはだめだから,すぐ 3 次,集中治療室に」とトリアージすることもできます。 現在の枠組みのなかで基幹病院的なものをつくろうと思えば,それ以外にはありません。 しかも,各診療科がバックアップする,あるいは,独立型であれば各科専門医を専従させておく形態を取る必要がある。 だから,いま 3 次だけのところは,初期の ER のセクションをもって一緒にやってほしいと。

野々木 併設型ですね。総合病院でトリアージをして,すべてのことに対応できる。 そうなると,大学病院の使命が大きいのではないかと思います。 多数の専門医を抱えた大学がもう少し救急に力を入れて,門戸を開いて 1 次からトリアージする。 救命救急センターでなくても,それぞれの専門が一緒になれるような救命救急をやってくれればいいと思うのです。

■役割分担の重要性

野々木 救命救急センターは人口 100 万人に 1 ヵ所を目安にしていますが,循環器救急ではどれぐらいの規模のものが,いくつ必要なのでしょうか。

森田 先ほど述べられたように,高知県なら東部と西部に分け,ドクターヘリを十分に活用すべきだと思います。 現実に,それで助かっているケースがたくさん報告されています。 都会では3 次救急は 100 万人に 1 ヵ所といわれていますが,私はその割合が案外よかったのではないかと思います。 ただ,緊急の心臓手術や大血管の手術で 100 万人に 1 ヵ所は多すぎます。 ですから数ヵ所の医療圏があれば,それらがネットワークを組んで,運ぶのに時間がかかるならドクターヘリを使うという形ですね。 私は「大阪の都会であってもドクターヘリをもっている施設を北と南につくって,そこは重症外傷センターでいい」と言っています。 あとは大阪の北と南に熱傷センターを 2 ヵ所,より特化した疾病救急が数ヵ所,それを救急車,ドクターカー,ドクターヘリで結ぶわけです。

野々木 役割分担ですね。

森田 はい。オールマイティは不可能です。病院の役割分担もさることながら,救急医でも「自分は胸部外科をやってきた」という先生がおられたら強いです。 その意味では外傷外科でもある程度分担が必要なのです。

大阪府下でも基幹病院の ER に患者を集中させてアドバンスド・トリアージしたり, 現場で医師や救急隊員がプライマリー・トリアージし,それぞれ役割分担した病院へ搬送するという構想もありかなと思います。

野々木 それには,一般にも役割分担をわかりやすくしないといけませんし, 救急隊の人にも何が得意なのかを知ってもらって,正確にトリアージできるようにしたらいいですね。

源河  大阪の場合,「外傷センター」と銘打てばいい。 そうすれば一般市民がみてもわれわれがみても,そこに行くべき人というのが明らかですし,救急隊も迷うことはないですね

森田 「外傷センターができました」と広報にでも出せばすぐにわかります。

源河  専門性を高めてテリトリーをきちんと決めたら,むしろ彼らも歓迎するのではないでしょうか。

森田 さらに医師の技量の問題があると思います。大阪には独立型のセンターがいくつかありまして, たとえば,熱傷ですと年間 15〜20 例ほどしか来ない。これではレベルが上がりません。 さらに重症熱傷は 1 ヵ月に 1 例あるかないかです。レベルを維持する面からも,熱傷センターをつくって,そこに必要があれば研修に行けばいいわけです。

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