島田 Ca 拮抗薬(CCB)は bench side で,RA 系にくらべると弱いように思うのですが, いわゆる臓器保護作用を立証するために,たとえば抗酸化作用を通じてというような方向性がありますか。
小室 酸化ストレスについては,だれもが重要だということを認めています。 基礎実験では酸化ストレスを加えることにより,細胞は機能が障害され,ときには死にます。 したがって酸化ストレスを除くことが重要であることについてはほとんどすべての人が賛成すると思います。
ところが,ビタミン E や C を用いた臨床試験ではことごとく失敗しています。 ARB も ACE 阻害薬も CCB の一部にも抗酸化作用があるといわれていますが,その抗酸化作用が臨床でどの程度効いているのかということはわかりません。 ですから,漠然と「酸化ストレスは悪いのだ」というのではなく, もっと具体的に何に対して悪いのか,どの程度悪いのかということを示していかねばなりません。 β遮断薬のカルベジロールにも抗酸化作用があるといわれていますが, 心不全の改善にこの作用がどの程度関与しているのかいまだ不明です。
島田 その点,AII の場合は NADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)オキシダーゼなどのシステムのなかに組み込まれた形なので, 薬理学的な酸化防止を主張する他の薬剤にくらべるとわりと説得力があるという感じがしますね。
木村 いえ,まだまだ臨床と直結するレベルには至っていないと思います。 どの程度臨床と結びつくのか,どのマーカーが真に臨床と直結するのか, 今後そういったところが検討されていかないと難しいですね。
島田 いろいろな状況において,ACE 阻害薬も含めて,RA 系抑制薬はサイトカインなどいろいろなものを抑えていますが, CCB などでも常に再現性よく出ているのでしょうか。
小室 最近,アムロジピン(CCB)が CRP を低下させたと報告されています。
島田 ACE 阻害薬,スタチン,ARB を全部併せたら効果的という poly−pill という概念がありますが,そこには CCB は入っていませんね。
小室 入ってません。ただ,最近のアムロジピンを中心とした臨床試験, CAMELOT6)6)CAMELOT(Comparison of Amlodipine versus Enalapril to Limit Occurrence of Thrombosis)などをみると,動脈硬化にもかなり効果が現れており,これは私が今までもっていたイメージとかなり異なります。
ACE 阻害薬,ARB が動脈硬化,血管障害によいという基礎実験はたくさんあります。 にもかかわらず,「心筋梗塞を抑制する」という臨床結果があまり出てきません。 むしろCCB が抑えているというデータが出てきています。
私は先ほどいいましたように,心肥大,リモデリング,心不全に関しては基礎実験の結果と臨床がかなり一致しているような気がするのですが, 血管に関しては ACE 阻害薬,ARB の基礎実験の結果と臨床は乖離しているような気がします。
島田 ACE 阻害薬の場合,たとえば SAVE7)7)SAVE(Survival And Ventricular Enlargement Trial)とか HOPE8)8)HOPE(Heart Outcomes Prevention Evaluation)をみますと,心筋梗塞を明確に抑制していますよね。
ARB は OPTIMAAL9)9)OPTIMAAL(OPtimal Therapy In Myocardial infarction with the Angiotensin II Antagonist Losartan),VALIANT10)10)VALIANT(VALsartan In Acute Myocardial Infarction Trial)では, 明らかな効果とはいえない。すでにスタチン,アスピリン,β遮断薬など,いろいろなものが入った状態で研究している可能性もあると思います。 また,ACE阻害薬はそのような状況ではブラジキニンがある程度影響している可能性があるかもしれないと考えています。
島田 木村先生は糸球体傷害はどのように位置づけられるとお考えですか。
木村 腎臓の場合,CCB の優位性はほとんどありません。 腎臓ほどRA 系と CCB の違いがはっきりしているところはないと思います。たとえば AASK Study11)11)AASK(African American Study of Kidney Disease & Hypertension)Studyでは, むしろ CCB が悪いのです。初期には CCB のほうがいいのですが,長期になると逆転して悪くなってきて,中間解析で有意差が出てしまい,ストップがかかってしまったのです。
最近の REIN−2 Study12)12)REIN(Ramipril Efficacy In Nephropathy)−2 Studyでは RA 系抑制薬に CCB を上乗せした群では血圧は 130/80 mmHg まで下げています。これまで腎臓では 130/80 mmHg まで下げれば糸球体に対する負荷は最小になるので,降圧薬の種類を問わず腎保護作用を発揮すると考えられていました。 そこまで CCB を加えて下げているにもかかわらず,早期の短期的には糸球体濾過量,腎機能を保持するのですが,長期的には逆に悪くなります
島田 なるほど。
木村 それから,微量アルブミン尿の発現をみた BENEDICT13)13)BENEDICT(Beegamo Nephrologic Diabetes Complications Trial)では, プラセボとベラパミル(CCB)とトランドラプリル(ACEI)の 3 群で比較しています。
糸球体に対する負荷をみていることになるわけですから,CCB では初期から微量アルブミンの累積発症率が増加しています。一方,RA 系は初期から良好です。
島田 そのメッセージは非常に重要ですね。日本では,ニフェジピンでやったものは悪くないと盛んにいわれていますが,本当にそう信じていいのかどうか。 やはり CCB はできるだけ使わないほうがいいのでしょうか。
木村 それらのスタディは,初期に RA 系抑制薬で血清クレアチニン(Cr)が上昇したことにより,ドロップアウトしてしまっています。 しかし,「初期に Cr が上がる人こそ,本来,RA 系抑制薬の最大のメリットを得られる群である」ということがわかっています。
島田 ドロップアウトは頻繁に発生しているのですか。
木村 初期に多いですね。RA 系で Cr が上がると,その頃はまだ経験が乏しかったので,みな,恐ろしくてやめてしまっているのです。 本来,その群こそが RA 系抑制薬の効く最高の群なのですが,そこが抜け落ちてしまったために両群間で差が出なかった可能性が高いと私は考えています。
島田 CCB は心臓関係でいうと心不全にはあまりよくないですよね。 また虚血の場合は,当然,狭心症などではいわゆる動脈硬化のプラークの構成そのものを正しく変えていく改善作用があります。 さらに,リモデリングに対してはスタチン,RA 系抑制薬がもっとも信頼感のある薬剤だと思います。CCB については疑問が少し残ります。