■治療学・座談会■
わが国で降圧薬はどう使うべきか
出席者(発言順)
(司会)島田和幸 氏 自治医科大学循環器内科
齊藤郁夫 氏 慶應義塾大学保健管理センター
久代登志男 氏 日本大学駿河台病院循環器科

各種降圧薬の治療

■利尿薬を効果的に使うには

島田 齊藤先生,利尿薬はどう使われますか。

齊藤 日本でもアメリカでも,それほどは使われていないという状況があります。ALLHAT 研究で示されたように,少量の利尿薬でも糖尿病や低カリウム血症の頻度が高い。LIFE でも,β遮断薬+利尿薬のグループよりも ARB のほうが糖尿病も少ないという成績でした。利尿薬の問題点は,そこです。しかし,JNC 7 で強調されている影響か,利尿薬を使うことを考えている医師が日本でも増え始めています。第 1 ではなく第 2 に使う薬として,代謝面の変化に注意しながら,少量,半錠までを限度に使っていくということではないかと思います。

島田 アメリカは利尿薬を第 1 選択にあげていますが,これは ALLHAT などのデータが色濃く影響していると思います。わが国においては,利尿薬を降圧の第 1 選択薬にするという話になると,効果が他の薬剤に比べると劣るのではないかという発想があると思います。利尿薬はどういう状況で使用するのがよいとお考えですか。

久代 私も利尿薬は 2 次選択薬として使用したほうがよいと考えています。 ナトリウム摂取量が多い状況で利尿薬を服用すると,遠位尿細管以降でナトリウムとカリウムの交換が増え,低カリウム血症の頻度が高くなる危険があります。 ALLHAT では血清カリウムが 3.5mEq/L 未満になった例が 8.5%でしたが,食塩摂取量が多い日本ではもっと多くなる可能性があります。 また,TOMHS(Treatment of Mild Hypertension Study)では少量利尿薬群の勃起障害頻度がプラセボ群より高いことが報告されています。 私たちの調査では,中年日本人高血圧患者の勃起障害の頻度は 41%で欧米と同等以上の状態でした。 また,糖尿病リスクが高いとされている日本人にインスリン感受性を低下させる薬剤を長期間使用すれば,欧米より新規糖尿病発症が多くなるかもしれません。

 さらに,日本人に対する利尿薬の至適用量が判然としていないことがあります。 ALLHAT は日本で使用されている錠剤の 1/4 量から開始されたのですが,そのような量について日本人における降圧効果と副作用に関する知見は乏しいわけです。 また,1/4 錠処方は薬局での対応が困難です。

島田 食塩摂取量が 12〜13g で,利尿薬を 1/2 錠とか 1/4 錠服用したとします。 ナトリウム利尿が起こったとしても,ありあまる食塩が毎日追加される。私はそれが非常に気になるのです。

齊藤 食塩が多いと利尿効果を殺してしまいますから,血圧の下がりが悪い。それが 1970 年代に高血圧治療をやっていた者の最大の悩みだったのではないでしょうか。1980 年代になって Ca 拮抗薬に 100%代わってしまった理由は,やはり利尿薬の効果が弱いという実感があった。 比較試験としてきっちり行われたものではなかったけれども,臨床経験から歴史的にそうなったと思います。

島田 こういうものには使ったほうがいいとか使わないほうがいいということはありますか。

久代 3 剤以上の降圧薬を処方しても降圧不十分な場合に治療抵抗性高血圧とされますが, 利尿薬が含まれていることが前提とされています。ゆえに,利尿薬以外の併用療法で降圧不十分な場合に利尿薬を上乗せすべきです。 その際,サイアザイド系薬剤は糸球体血流量を減らすので,血清クレアチニンが高めの場合はループ利尿薬が勧められます。 高血圧に関してはループ利尿薬の中では,作用時間が長いトラセミドのような薬剤が使用しやすいと思います。

■アルドステロン拮抗薬への期待

島田 今度エプレレノンという薬が発売されます。 こういう選択的なアルドステロン拮抗薬,特にこの薬の場合は臓器保護という側面も非常に色濃く, 今まで経験した降圧効果以上のものが出るかと期待しているのですが……。

齊藤 外国のデータを見る限り,併用しても効果が高く,副作用も非常に少ない。 日本人にそれが当てはまるかどうかは,まだ少し疑問のところですが,そういった意味で,抗アルドステロン薬は大いに期待されるのではないでしょうか。

島田 利尿薬の低カリウム血症を防止するには,1 つはアルドステロン拮抗薬を併用することですが,もう 1 つの ACE 阻害薬も低減する効果があるのですか。

久代 ACE 阻害薬,ARB ともにアルドステロンの作用を抑制しますので,利尿薬による血清カリウム低下が起こりにくくなります。 たとえば利尿薬と ARB を併用すると単独療法より収縮期血圧は約 10mmHg 下がり, 血清カリウムは 0.2mEq/L 高いとの報告もあります。降圧効果を高めて副作用を軽減するわけですから,優れた併用といえます。

島田 尿酸値が上がってきた場合,利尿薬はやめますか。それとも高尿酸血症の薬を併用しながら使いますか。

久代 本態性高血圧患者の高尿酸血症の頻度は高いとされており,利尿薬使用で問題になります。 しかし HDFP(Hypertension Detection and Follow−up Program)では,5 年間の経過中に利尿薬群で痛風を起こしたのは積極治療群 3600 人のうち 15 回で,まれなことが報告されています。もちろん痛風や尿酸結石の既往があれば降圧薬としての利尿薬は禁忌ですが,無症候性であれば利尿薬による軽度の尿酸上昇はあまり神経質になる必要はないと思います。

島田 どのぐらいの数字までなら気にしないですか。

久代 利尿薬服用中で血清尿酸値が 9mg/dL 以上の例における痛風頻度は年に約 5%との報告もありますので,血清尿酸値が 9mg/dL を超えれば利尿薬使用を中止するか,高尿酸血症治療薬を処方するほうがよいと考えています。

齊藤 その場合,ロサルタンとの併用で尿酸低下作用,排泄作用を期待するというのがよいかもしれません。 確かに 9 に近くなると,痛風ガイドラインでは尿酸低下薬の使用ということになりますので,ちょっと考えますね。 8 の半ばぐらいで少し躊躇して,場合によっては Ca 拮抗薬にスイッチすることを考えます。

■β遮断薬,α遮断薬の使用の現状

島田 最近あまり使いませんが,β遮断薬はいかがですか。

久代 β遮断薬は他の降圧薬より降圧効果が少なく,また代謝系や QOL に対する副作用があり,さらに禁忌があるので使用頻度が少ないと思います。 β遮断薬は陳旧性心筋梗塞や労作性狭心症がある場合には,高血圧の有無にかかわらず使用すべき薬剤です。日本の動脈硬化性心疾患の有病率を考えると, もっと使用されてよい薬剤だと思います。β遮断薬の禁忌は,喘息と高度房室ブロック,コントロールされていない心不全ですが,いずれも問診で十分推測できます。 喘息の既往がなく,最近数年間失神や失神しかけがなく,階段を休まず上れるなら使用できる薬剤です。 また,糖尿病患者で血糖降下薬を使用中の場合は,低血糖時の交感神経緊張による動悸と冷汗が起きにくくなるので低血糖遷延化が心配されます。 しかし,ふらふら感などに注意し,ブドウ糖を直ちに服用するように指導すれば,重症低血糖の頻度は増えないとの報告があります。 しかし,β遮断薬は新規糖尿病発症増加,四肢冷感や勃起障害による QOL 低下などの問題があります。 動脈硬化性心疾患合併患者ではβ遮断薬を使用すべきですが,そうでなければ第 1 選択薬としては使用しにくいと思います。

 α1遮断薬は ALLHAT で利尿薬群に比し心不全発症が約 2 倍に増えたこともあり,JNC 7 では第 1 選択から外されました。 しかし ALLHAT では,下肢浮腫など心不全でなくても起こる症状が心不全として取り上げられた可能性が指摘されています。 JNC 7 の後に出た ESC(欧州心臓病学会)/ESH ガイドラインではα1遮断薬が第 1 選択薬にあげられています。 α1遮断薬の代謝系に対する好ましい影響が心血管系疾患発症にどのように影響するかを検証するためには,数十年の観察が必要で現実には不可能です。 α1遮断薬は他の降圧薬と併用しやすいですし,利尿薬やβ遮断薬の副作用を軽減してくれることも期待できます。 息切れなどのため心機能低下が疑われる場合はα1遮断薬を単独で使用することは避けるべきですが, そうでなければ第 1 選択薬として問題はないと私は思います。

■β遮断薬,α遮断薬の使い方のこつ

島田 β遮断薬の量ですが,アテノロールの 25mg 錠が出てからよく使われていますね。

久代 私は心拍数を目安にするとよいと思います。 ISA がない薬は安静時心拍数を下げますので,安静時の心拍数が 50/分前後を目安とし,40/分以下なら使いすぎだと思います。

島田 逆にそこまで落とすように使わないといけない。

久代 β遮断薬による冠動脈疾患の二次予防効果は安静時心拍数が少ないほど大きいとのメタ分析があります。 β遮断薬は冠動脈疾患二次予防を期待して使用する場合が多いわけですから,心拍数低下作用は 1 つの目安になるのではないでしょうか。

島田 Medical Research Council のデータについて Hansson が,高齢者にはβ遮断薬はほとんど効果がないというデータを出していますが, あれは十分に使っていない,心拍数があまり落ちていないと言っていました。 われわれのβ遮断薬の使い方は中途半端というか,ストレスフルな人にβ遮断薬という感じはありますが……。

久代 はい。過動心症候群(hyperkinetic heart syndrome)に伴う自他覚症状を改善するのにβ遮断薬はきわめて効果的で,長期に使用できることが示されています。

島田 もっと使ってもいいのではないかということですね。 α遮断薬は確かに副作用があまりなくていいのですが,心拍数は少し上がる傾向があり,それが私は何となく嫌なのです。

齊藤 α遮断薬の特徴は,metabolic syndrome をよくし,さらに血圧を下げるということですね。metabolic syndrome の頻度は 20〜25%ですから,意義のある薬だと思います。

島田 そのわりにはデータがないですね。

齊藤 それをサポートするエビデンスは少ないですね。

久代 metabolic syndrome の改善による効果をみるのであれば,20 年以上のトライアルが必要だと思います。

島田 肥満の患者にもα遮断薬はいいのですか。

久代 そう思います。肥満自体がおそらく一部に高インスリン血症や高レプチン血症を介して交感神経緊張を伴いやすい病態とされていますし, α1遮断薬によるインスリン感受性や脂質代謝改善作用も期待できます。

齊藤 高齢者でα遮断薬の効果を 5 年でみようと思っても,もともと無理なわけです。 ALLHAT にはスタディデザインに欠陥があったと考えざるを得ないのではないでしょうか。

島田 女性に対する利尿薬は,いまどういうふうに考えられていますか。たとえば,更年期の女性の高血圧など。

齊藤 更年期の女性は,交感神経活性の亢進,脂質の変化,肥満傾向など,やはり metabolic syndrome の要素が強くなります。そういった意味では,α遮断薬には意義があると思います。 利尿薬に関しては,他の薬の用量を減らすという意味では多少よいかもしれませんが,特別な効果はないと思います。

島田 高齢者は利尿薬がわりによく効くといわれていますね。

齊藤 高齢者ではβ遮断薬の心血管病予防効果が悪いというデータもあります。

■Ca 拮抗薬の使い方と注意点

島田 Ca 拮抗薬の最もいい使い方,注意すべき点は何ですか。

齊藤 いちばん注意すべき点は,軽症高血圧の糖尿病の方に Ca 拮抗薬を使うと 130/85mmHg を達成できてしまい, 単剤治療で済んでしまうということです。ARB のエビデンスがあっても ARB を付け加える余地がない。そこが注意点ではないでしょうか。 ESH ガイドラインも,高血圧が軽めの場合はまず ARB を使うとはっきり書いています。

島田 顕性糖尿,FBS126 以上とか,いわゆる IGT という人に対しても,ACE 阻害薬や ARB を第 1 選択薬として使っていくべきですか。

齊藤 まだ,そのエビデンスがありません。ただ,症状はなくても腎症の病態に近いものが起こっている可能性があります。 そういう意味で ARB を使っていくのは論理的には正しいと思います。

島田 全部 Ca 拮抗薬ではなく,ACE 阻害薬,ARB が重要な部分はそれを使わないと腎障害などを防ぎきれない可能性があるということですね。 脳血管障害については,どうですか。

久代 Ca 拮抗薬が脳血管障害に優れているのは,血圧が下がることが影響しているのではないかと思います。 LIFE,PROGRESS などの結果をみると,RA 系抑制薬でも血圧を下げれば,効果は十分期待できるようです。Ca 拮抗薬がより優れているかどうかは今後の課題のように思います。

齊藤 脳卒中患者をどうするかという問題があります。 日本のガイドラインでは Ca 拮抗薬を推奨しているわけですが,その意味は血圧がきっちり下がるということです。 おそらく,PROGRESS の成績も血圧が下がることが非常に重要で,ACE 阻害薬,利尿薬が特異的に重要だとは理解しにくい。 そういう意味では,Ca 拮抗薬も当然使っていっていいのではないかと思います。

島田 心不全には利尿薬,ACE 阻害薬,ARB が中心で,Ca 拮抗薬は分が悪いと考えられていますが,高血圧があればかなりの症例で Ca 拮抗薬が使われる。それでいいのか,いけないのか。

久代 Ca 拮抗薬は程度の違いはありますが,心機能を抑制することが問題になります。 しかし,心不全の治療では血圧を下げることが非常に重要です。高血圧性心疾患に伴う急性期心不全にβ遮断薬を使用しても降圧すれば有効との報告もあります。 心機能低下が想定される場合には利尿薬と RA 系抑制薬が第 1 選択になりますが,降圧不十分であれば Ca 拮抗薬やα1遮断薬の併用を考慮すべきです。 また,高血圧患者の心不全は拡張機能障害に伴う場合がまれではないので,頻脈があれば心拍数のコントロールも重要になります。

島田 もっと症例ごとに考えないといけない。

■脳・心・腎障害に強い ARB

島田 ACE 阻害薬,ARB に関しては,どうお考えですか。

久代 RA 系抑制薬の腎保護効果に異論はないと思います。

島田 その場合,量は推奨用量まで上げるということですか。

久代 RA 系抑制薬の腎保護効果には降圧と直接関連しない部分があり,その効果は降圧用量より多い量で期待できる可能性があるようです。 ACE 阻害薬,あるいは ARB の最大量を使用しても尿蛋白が認められる場合に,両薬を併用すると尿蛋白が減少することが報告されています。 しかし,腎保護についても十分な降圧の重要性が強調されるべきです。結局多剤併用療法になりますが,少量同士の併用か最高量まで増量して併用すべきかが問題になります。 最近のメタ分析(Br Med J 2003;326:1427)では,ACE 阻害薬,ARB は用量を増やしても患者報告による副作用頻度は変わらないとされています。 そのような薬剤は最高量まで増量してから併用してもよいと思います。

島田 その場合に注意すべきことは,やはり低血圧とか腎機能障害ですか。

久代 少ないネフロンで腎機能を維持している場合に,RA 系抑制薬で糸球体輸出動脈を開くと腎機能が悪化することが心配されます。 両側腎動脈狭窄が疑われる場合は使用すべきではありませんが,それ以外では少量から開始し,血清クレアチニン上昇幅が投与前の 3〜4 割以内ならそのまま使用されることが多いのではないでしょうか。

 脳保護についても降圧が重要と考えられますが,LIFE では ARB とβ遮断薬の降圧がほとんど同様であったのにもかかわらず ARB の脳卒中発症予防効果が優れており,特に糖尿病合併患者と収縮期性高血圧患者でその差が大きかったことが示されています。脳卒中二次予防効果については PROGRESS の知見しかないわけですが,ACE 阻害薬と利尿薬の併用が優れていることが示されています。残念ながら,この試験では ACE 阻害薬単独群はプラセボ群と差がなかったわけです。その理由は判然としていませんが,私は ACE 阻害薬単独での降圧効果持続時間が短く,24 時間にわたって十分に血圧を下げなかったことが影響した可能性があると考えています。新しい WHO/ISH ガイドラインでは,脳卒中二次予防には ACE 阻害薬と利尿薬を併用することが勧められています。ARB は長時間作用型 Ca 拮抗薬と同等以上の降圧持続時間があります。脳卒中予防については,ACE 阻害薬より ARB が優れている可能性があると思います。

島田 脳・心・腎障害に対し ARB は非常に定評がある。それを敷衍して ARB,ACE 阻害薬を大宣伝するという考えはいかがですか。

齊藤 アンケートでは,将来 ARB がすべての第 1 選択になると答える方は非常に多いですから,基本的にその方向に向かいつつあると思います。

島田 血圧も下がり臓器保護も期待できるのであれば,まだ臓器保護がないところから使っていてもいいのではないか。

齊藤 Staessen のメタアナリシスにも脳卒中に対する新しい薬と在来薬の比較が出ていますが,いちばんよいのは ARB で,Ca 拮抗薬が続いています。 そういった意味からも ARB をサポートするデータもあると考えていいのではないでしょうか。

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