■治療学・座談会■
わが国で降圧薬はどう使うべきか
出席者(発言順)
(司会)島田和幸 氏 自治医科大学循環器内科
齊藤郁夫 氏 慶應義塾大学保健管理センター
久代登志男 氏 日本大学駿河台病院循環器科

臓器保護効果

■外来血圧だけで Beyond blood pressure lowering を論じられるか

島田 薬剤の違いとして,降圧によらない臓器保護効果が市場の大きな戦略になっている。 これは臨床的に考えないといけないことなのか,それとも理論的なものという留保付きなのか。

齊藤 難しい問題です。LIFE(Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension)研究やオーストラリアの ANBP(Australian National Blood Pressure)研究などが降圧薬による効果の差を示した研究だと思いますが,多数の研究のメタアナリシスでは一定の範囲内に埋もれてしまう。 必ずしも強いエビデンスになっていないので,基本的にはやはり降圧が重要だと思います。

久代 この問題は 2 つに分けて考えたほうがいいと思います。 1 つは,大規模介入試験の知見は外来血圧が指標になっていますが,外来の血圧だけで beyond blood pressure を論じられるかという問題です。 例えば HOPE(Heart Outcomes Prevention Evaluation)では外来血圧が同じ場合, ACE 阻害薬群の心血管イベント発生がプラセボ群より少ないというデータが出ました。 しかし,ABPM(ambulatory blood pressure monitoring)が実施された例の層別解析では, 外来血圧には ACE 阻害薬群とプラセボ群に有意差はなかったのですが,24 時間平均値は 10/4mmHg,夜間血圧は 17/8mmHg ACE 阻害薬群が低かったと報告されました。 この研究では ACE 阻害薬が就床前に処方されたので,外来血圧には降圧効果が反映されなかった可能性が指摘されています。

 もう 1 つは,多くの大規模介入試験は降圧目標を達成していないということです。 オーストラリアの ANBP−2 のデータでも 142/80 ぐらいまでしか下がっていません。 この試験では,冠動脈疾患発症率は ACE 阻害薬群が利尿薬群より低かったわけです。 また,糖尿病合併高血圧患者を対象に ARB と Ca 拮抗薬を比較した IDNT(Irbesartan Diabetic Nephropathy Trial)では, ARB が腎症の抑制に優れていましたが,最終的な収縮期血圧は 140 までしか下がりませんでした。 ALLHAT では 135/75 前後まで降圧し,ACE 阻害薬より利尿薬がよかったわけです。 ですから,十分な降圧がない状況では RA 系抑制薬が臓器保護に優れていますが,降圧がある程度達成された場合には,降圧自体の影響が大きい可能性があります。

島田 ということは,下げればいいのであれば,あまり降圧薬の差はなくなるということですか。 ALLHAT はそうですね。

久代 そう思います。しかし,例えば糖尿病合併高血圧では降圧目標が 130/80 となっていますが,そこまで降圧するのは容易ではありません。 積極的な降圧の重要性は強調されるべきですが,日常診療の状況を考慮すると降圧薬の臓器保護効果の違いを考慮すべきなのかもしれません。

島田 臓器保護効果をいうときには,血圧があまり高くなくて糖尿病性腎症があるとか,心不全があるとか, ほとんど血圧に関する因子が前面に出てこない。ACE 阻害薬や ARB を使用しても血圧は低いレベルに留まっていて,薬の効果が出てきます。 必ずしも低い血圧だから,それ以上のものは出てこないとはいい切れないように思います。

齊藤  Ca 拮抗薬では,そういうデータはあまりないですね。 やはり RA 系の阻害には何かある可能性があります。

島田 そのため,心不全や腎臓病治療薬としての RA 系抑制薬が問題になる。この問題は,血圧が高い人に投与したとき, 血圧を下げる効果を凌ぐようなエビデンスが出てくるかどうかという話です。 現実には,降圧薬の優越性を市場で主張するのに使われる。 ですから Staessen が分析しているように,冷たく一定の範囲内に入っていますよと言われると,がっかりする。(笑)

齊藤 彼も否定しているわけではなく,サポートするデータが得られないと言っているのです。可能性はあり得るということですね。

島田 方法論の問題もあるのではないか。beyond blood pressure effect の証明といっても,どうやって証明するのかということです。

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