■治療学・座談会■
わが国で降圧薬はどう使うべきか
出席者(発言順)
(司会)島田和幸 氏 自治医科大学循環器内科
齊藤郁夫 氏 慶應義塾大学保健管理センター
久代登志男 氏 日本大学駿河台病院循環器科

日本の新ガイドライン

島田 猿田先生(慶大)を中心に日本のガイドラインをつくる予定になっていますが,注目すべき論点があればお聞かせください。

齊藤 降圧薬の第 1 選択がアメリカのガイドラインとヨーロッパのガイドラインで異なっていますが, 日本はどうするかということが1 つの問題です。また多剤を第 1 選択とする場合も,α遮断薬も入れて 6 種類を推薦するか,ヨーロッパ流に 5 種類+αみたいにするか。

 もう 1 つ,降圧目標血圧の問題,特に高齢者に関して日本の立場をどうするのか,そのへんが論点になると思います。

島田 少し利尿薬を増やしてもいいとか,Ca 拮抗薬,RA 系抑制薬のバランスをもう少し考えろという方向性はありますか。

齊藤 何ともいえませんが,利尿薬の問題も,併用として第 2 番目,場合によっては第 3 番目に使っていくような方向が出る可能性はあります。

島田 併用について触れませんでしたが,だいたい ESC/ESH ガイドラインのかたちでよろしいのですか。

久代 JNC 7 と WHO/ISH ガイドラインは低所得層や開発途上国なども含めて population 全体の血圧を下げることに視点が置かれているように思います。 ESC/ESH ガイドラインは先進国で使用されるので,コストに重点を置きすぎて理想的な医療から遠ざかることがないように配慮されている印象があります。 私は,主治医裁量の余地が大きい ESC/ESH ガイドラインの方針が日本には合っているように思います。

島田 今度の日本のガイドラインも,そのような方向にしてもらいたいと。

久代 ESC/ESH の理念は素晴らしいのですが,日常診療に応用しにくい部分もあります。 例えばリスク段階が 4 つもあって覚えることさえ困難です。 幸か不幸か日本人を対象にした大規模介入試験がない現状では,欧米の知見をどのような形で日本に応用すべきかが課題になるわけですから, 画一的な方法を示すのは困難だと思います。 個々の患者の状況をよく知っている主治医の裁量を尊重しつつ,日常診療で使用しやすく,しかも高い理想を目指したガイドラインであってほしいと思います。

齊藤 英国高血圧学会(BSH)がおもしろい併用を提唱しています。 A(ACE 阻害薬または ARB),B(β遮断薬),C(Ca 拮抗薬),D(利尿薬)として,年齢によって AB あるいは CD にまず分けて, 2 番目は A+C,あるいは A+D になる。3 番目は A,C,D になる。それでいけばほとんど大丈夫だという(図 2)。

図2
図2 英国高血圧学会推奨による降圧薬の併用療法
(J Hum Hypertens 2003:17;81−6)
*β遮断薬と利尿薬(サイアザイド系)を含む併用療法は,他の併用療法よりも新規の糖尿病を引き起こす可能性が高い。

島田 本日はお忙しいところお集まりいただきましてどうもありがとうございました。 考え方が非常に鮮明に出てきて,これからの課題が明らかになったと思います。

前のページへ