■治療学・座談会■
Brain Attack& Failure−制圧戦略の現状と近未来−
出席者(発言順)
(司会)松本昌泰 氏 広島大学大学院病態探究医科学講座脳神経内科学
井林雪郎 氏 九州大学大学院医学研究院病態機能内科学
畑澤 順 氏 大阪大学大学院医学系研究科生体情報医学講座トレーサー情報解析 中山博文 氏 日本脳卒中協会/中山クリニック

急性期 Brain Attack の治療

■薬剤,診断技術の発展と体制の遅れ

松本 不幸にして発症する場合もあります。それに対する体制を整えるといっても,これまでは坂を転げるようなもので,きっちりした治療法がなかった。 現在では,場合によっては坂の上まで押し戻せる時代になったかと思いますが。

井林 いわゆる脳梗塞の超急性期治療が可能となったのは,それに使用できる薬剤が登場したからですね。 1995 年に t−PA という血栓溶解薬が論文で発表され,翌年には FDA がこれを認可しました。 この薬は静注で使え,発症後 3 時間以内に使用すれば 3 ヵ月あるいは 1 年後の予後がいいと報告されました。 同時に,非侵襲的かつ早期に虚血病変をとらえることのできる拡散あるいは灌流 MRI という技術が発展し, 狭心症や心筋梗塞を心電図で診断するように早期のペナンブラや脳梗塞の診断が可能になりました。 これらの 2 つが組み合わさって脳卒中の急性期の治療が可能になってきたと思います。

 脳卒中は一刻を争う病気であるという認識から brain attack という言葉が使われるようになったと思うのですが, 発症 3 時間以内に的確な診断・治療を施すためには,専門のスタッフが 24 時間病院に待機していなければならない。 そういう意味で,まず on call で専門医が診断・治療に当たることのできる体制づくりが必要だと思います。 内科系の専門医だけではすまない場合もあり,脳外科専門医,神経放射線科,急性期リハビリ医との協力体制が必須でしょう。 看護師・理学療法士などパラメディカルの人たちとの連携も重要で,チーム医療の体制が整っていなければなりません。 大学病院や脳卒中センター,市中の中規模病院においても脳卒中のスタッフをそろえ,チーム医療が可能な病院が地域ごとに分散してあることが理想だと考えています。

■専門医養成制度とチーム医療の確立

井林 脳外科医,リハビリテーション医,内科医,神経内科医に対し, 脳卒中専門医の資格制度がようやく今年から始まり,すでに第 1 回目の認定医が決定されたかと思います。

 脳卒中に対しては診断だけでなく,循環動態や再発予防などを含めた修練を積んだ脳卒中専門医が必要になります。 脳卒中専門医が一般の神経内科医と違うのは,高血圧,糖尿病,高脂血症,心房細動といった common disease に普段から接しており,実際にこれらの患者を診断し,治療している点です。 脈管学をメインとする生活習慣病を全体的に理解できて,脳卒中を中心に診療する strokologist というか,脳卒中専門内科医が必要だと思います。 脳卒中専門医を軸にチームを組み,患者が搬送されれば,いつでも 15 分以内に患者を診察し, しかも発症 3 時間以内に CT や MRI を含めた必須検査をすませて,急性期特殊治療に当たることが大事だと思います。

 ただ,stroke care unit(SCU)などのシステムをつくるためには資金が必要ですし,設備としてある程度の広さのスペースや機器,チームを組むための人材など, これらがそろわなければできません。 心臓疾患には CCU がありチーム医療も進んでいるのですから,単一臓器疾患としてはきわめて多い脳卒中に関しても国がもっと目を向けてくれればと期待しています。

 前述の脳卒中専門医に関してですが,脳外科あり,内科系あり,放射線科あり,リハビリありで,複数の科にまたがった専門医制度であり, 恐らくわが国では初めての制度だろうと思います。それだけに,当たり前のことですが,お互いが協力しつつ,あくまでも患者中心の体制づくりが必要になってくると考えています。

松本 日本では特に急性期治療に関する体制づくりが遅れていると思うのです。 米国ではすでに,脳卒中を専門とする神経内科医(stroke neurologist)と画像診断の方々,脳神経外科医や,特に critical care medicine の協力により脳卒中センターをつくろうとしています。 脳卒中は循環器系を土台とした発症であり,起こった後は神経の症候を呈するといった両方にまたがる疾病で, 日本ではどちらからも十分認知されていないところがあったと思います。ようやく専門医制度が実現し,これからスタートという段階です。

前のページへ
次のページへ