■治療学・座談会■
21世紀におけるスタチンの考え方
出席者(発言順)
(司会)寺本民生 氏 帝京大学医学部内科 教授
多田紀夫 氏 東京慈恵会医科大学附属柏病院総合診療部 教授
山田信博 氏 筑波大学医学専門群臨床医学系内科 教授

投与方法の工夫と注意

■薬物相互作用による横紋筋融解症に注意

寺本 現在臨床使用可能なスタチンは 4 つありますが,コレステロール低下作用に加えてその他の効果まで考慮した場合,いったいどの薬をどういう患者にどう使っていったらいいのか悩む場合もあろうかと思います。

多田 私は,このスタチンがとりわけこの効果があるから使うということはまずありません。 ただ,それぞれの性格の違いは知っておかねばなりません。プラバスタチンは水溶性で,水溶性の場合,肝臓への特異性が高く肝臓で働く薬であるといえます。残りの 3 つは脂溶性ですが,スタチンのもつ抗コレステロール以外の効果が肝臓以外の場所で発揮されるとすれば,脂溶性スタチンには付加効果があると考えられます。

 それから,臨床的に一番大事なのは,副作用の発現を避けることです。 脂溶性スタチンは肝臓のチトクローム P450(CYP)により代謝されますが,高脂血症患者は高血圧や糖尿病などを合併している例も多く, 他の薬と併用して服用する場合も非常に多くなっています。 この場合,併用薬の代謝酵素が CYP のうち同じ分子種であるときは代謝の競合などにより, スタチンあるいは併用薬の血中濃度が思わぬ高値を示すことがあることに特に気をつけて使うことが大事です。 そういった使い分けを実際しています。この点,水溶性スタチンは CYP の影響をあまり気にしなくてもいいようです。

■効果によって第 1 世代と第 2 世代を使い分ける

寺本 スタチンの分類は,脂溶性と水溶性という分け方の他に,Edelstein がおもしろい分け方をしています。 すなわち,カビから採ったということでプラバスタチンとシンバスタチンを第 1 世代とし, 半合成のフルバスタチンを 1.5 世代,そして合成品のアトルバスタチン(これは強さがかなり違う)を第 2 世代としています。 私は効果の程度という分け方もあると思うのですが,その辺りの使い分けはどうなのでしょうか。

多田 おおざっぱに言えば,剤形になったときに副作用と有効性との勘案の中で 1 錠中の薬量が決まってきます。 例えば効果の少ないものなら 1 錠 100 mg,効果の高いものは 10 mg,もっと効果が高いものは 0.1 mg という具合です。 ですから,一般的には薬の強さはなかなか 1 錠の対価では実感できません。 しかし第 2 世代スタチンでは 1 錠の発揮するコレステロール低下作用が確かに強力となっています。

寺本 われわれは,薬を投与するときには目の前の患者はどれくらいコレステロールを下げるべきであるかを考えて使います。 LDL−C はプラバスタチンでは 25%ぐらい低下しますが, シンバスタチンだと 25〜30%,アトルバスタチンなら 40〜45%となります。 そうすると,その患者のコレステロールレベルによってもどれを使うかは違いますし, リスクの高い,低いでも違います。そのあたりはどうでしょうか。

山田 リスクにごまかされてもいけないのですけれども, 私は第 1 世代,第 2 世代という使い方をしますね。 早くに出た薬ではコレステロール低下作用は弱く設定されていて,プラバスタチン,シンバスタチン,フルバスタチンが第 1 世代となります。 それでもまだ目標値に達しなくてリスクが高い場合には第 2 世代のアトルバスタチンや新規スタチン(ピタバスタチン,ロスバスタチン)となります。

多田 どの程度,薬量を使えばいいかということですが, わが国では薬物開発治験のときに設定された投与量の範囲外の投与量の使用は,安全性確保の考え方から実際の臨床上使うことができません。 もう少し多くコレステロール値が低下するだろうなと思っても用量以上の使用は,保険上の査定を受けることになっております。 これは使用に耐えるだけのエビデンスがないという理由からです。

 その意味でも第 2 世代のスタチンは強いコレステロール低下作用に加え, わが国での薬物開発治験の時点から適用量の設定も幅広く設けられており,従来に比べスタチンによるコレステロール低下目標値達成が容易となってきました。

■治療目標値に達しない場合の薬の選択

多田 わが国では成人高脂血症診療ガイドラインが出されていますが, 現実にはガイドラインどおり薬を使い切って LDL−C を下げている症例は意外と少ないようです。 より強力な薬が出れば,より容易にコレステロールを下げることが可能となり,冠動脈疾患を予防できることも期待できると思います。

山田 その点ではやはり EBM は重要で,第 1 世代とされる薬は安全性と有効性について今までにかなりエビデンスが蓄積されてきているわけです。 第 2 世代の薬は薬効のほかに第 1 世代と同等の安全性があってはじめて第 2 世代になるのだと思うのです。 それのいい例がセリバスタチンですね。コレステロールはより下げるけれども,重篤な副作用が欧米で報告されて発売中止になったわけです。 やはり有効性と安全性のところでアンバランスがあったということです。

寺本 それは重要ですね。私たちはこれだけエビデンスを積んできているわけですから, やはりエビデンスのあるものから使っていくというのは当然の考え方です。 例えばガイドラインでカテゴリー A の患者の目標値達成率は約 80%ぐらいなので, リスクの低い人たちはいまの第 1 世代でほぼうまくいっているといえますが, カテゴリー C になると 30%ぐらいしか目標値に達していないので,それ以上の効果のある薬を使っていかなければならない。そういう使い分けはありますね。

山田 カテゴリー C では目標への達成率は低いかもしれませんが, 高血圧症や糖尿病を合併していたりするので,そのほうの治療でもリスクの低下を試みていて, そうするとトータルではリスクは結構低くできているかもしれないのです。そこのところは実はあまり見えてこないエビデンスです。

寺本 確かに二次予防の場合,目標値まで到達していないにもかかわらず効果がありますね。 今までの大規模予防試験でもそうした結果が出ています。山田先生のおっしゃるように, 決してコレステロールだけを目標にして治療しているわけではなく,他の危険因子もケアしていることに意味があるのでしょう。

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