■治療学・座談会■
心房細動をいかに治療するか
出席者(発言順)
(司会)三田村秀雄 氏 慶應義塾大学医学部心臓病先進治療学 教授
是恒之宏 氏 国立大阪病院循環器科
山下武志 氏 心臓血管研究所第三研究部
小田倉弘典 氏 仙台市立病院循環器科

発作性心房細動の自覚症状

三田村 発作性心房細動の場合,症状がとても強い人もいれば,まったくない人もいます。その違いは何なのでしょうか。

山下 私も疑問です。それを解明できたら,新しい治療の指標として有効だと思いますが。

三田村 やはり若い人のほうが症状を感じるのでしょうね。

山下 そうですね。高年齢 70 歳ぐらいの患者では 1 ヵ月に 1 回の外来で症状を聞きますが,あてになりません。 外来では 1 日 4 回脈拍をチェックさせていますが,ほとんど全然合わない。 外来の問診だけでは,年齢が上がってくると全然あてになりません。

三田村 われわれも携帯型の心電図記憶装置で以前に少し調べたことがあります。 心房細動に気づかないというケースと,自分は心房細動だと思ったのだが実は PAC だったというケースと両方あって,いかにあてにならないかを実感しました。 症状というのは難しいと思います。

除細動治療

■積極的な停止は QOL を考慮して

三田村 心房細動の停止をする必要があるかどうかの判断は難しい問題ですね。 実際に心房細動が続いているが患者はそれほど困っていないということがありますが,そういう人にも停止をしてみる必要はあるのでしょうか。

小田倉 これは難しい問題です。洞調律を維持するか,レートコントロールでいくかの長期予後に関する差についてはデータがない状況で, いま欧米で大規模スタディが進行しています。 ですから現時点では,停止のメリットは QOL の改善あるいは血行動態の改善ということになります。 したがって,症状があまりなくて,1〜2 年たってしまったような心房細動に対しては積極的な停止は必要ないと考えています。

三田村 ほかの先生方はいかがでしょうか。 まだ除細動を試していない場合,1 回はやってみる価値があるという見方もありますが。

是恒 当院では発症時期が不明な場合,初診ではとりあえず経食道エコーと基礎的な心疾患をチェックしたうえで, 1 度は除細動をやるようにしています。

三田村 たとえば 1 年たっていてもですか。

是恒 1 年前の検診で心房細動であったとしても,戻っている可能性もありますので,とりあえず 1 度は試みます。

三田村 山下先生はいかがですか。

山下 小田倉先生が言われたとおり,まだエビデンスはありません。 この状況を患者にどれだけ理解してもらうかを一番大事にしています。 心房細動を除細動した場合の再発率は,3 年までのデータがありますので(図 1), その再発率,あるいは発作性心房細動であっても脳梗塞があることなどをすべてお話して,患者にゆっくり考えてもらいます。

図1 長期的な洞調律維持効果
図1

三田村 患者は悩んでしまいませんか。

山下 一度悩んでもらうことが重要と思います。いまの段階では医師側はデータを何も持っていませんが, それでも医師側にお任せしますと言われれば,患者の状態を見て自分で決めることになります。

■除細動を行う際に参考とする指標

三田村 除細動をするかどうか判断するときに,すぐには再発しないだろうとあらかじめ予測ができれば, より積極的にやってみようという気になると思います。 こういう心房細動だったら,もしかしたらうまく除細動後に維持できるかもしれないという指標は何かありますか。

是恒 血中 BNP, ANP を指標にした報告があります。 ANP がある程度高ければまだ心房の機能が残っているということで, 長期間心房細動が続いていても戻る可能性がある。 BNP が高いと心不全が強いということで,再発する可能性が高いということでした。 私自身はあまりそれを指標にはしていません。ただ,心不全の合併例では再発が結構多いと思います。

三田村 特に心不全では洞調律に戻したほうが本当はいいはずですが, また再発もしやすいというジレンマがあります。山下先生はどのように判断されていますか。

山下 心機能が低下している慢性的な心房細動を除細動した経験がありますが, ほとんど元の木阿弥でした。 基礎心疾患があるとわかった時点で除細動はあまり考慮しないで,レートコントロールをいかにうまくして,心不全を予防するかを考えます。

三田村 小田倉先生,年齢や左房径などから,除細動はあきらめようということはありますか。

小田倉 75〜80 歳以上の高齢者,左房径 4.5 cm あるいは 5 cm で区切っているガイドラインもありますが, われわれは高齢者ほどメリットがあるという見地に立って, 1 度は除細動をするという方針です。 左房径に関しては,5 cm 以上では経験的にいって再発が多いので,ある程度の参考にはしていますが, もちろん例外もあると思います。ANP, BNP は参考にするまでに至っていません。

三田村 まだ,絶対といえる指標はなさそうですね。

■心内血栓の診断は経食道エコー検査で

三田村 さて,心房細動を除細動することになったときに次に不安に思うのは,血栓が飛ぶことです。 抗凝固療法をあらかじめきちっとやるという勧告がある一方で,もっと手早くやってしまったほうがよいという見方もあろうかと思います。 経食道エコーはすべての施設でできるわけではありませんが,あれば早めにやったほうがいいのでしょうか。

是恒 これも患者との相談になります。経食道エコーの経験がある方は少ないのですが, 胃カメラに相当する侵襲的な検査に近いので,説明のうえ同意を得られれば全例経食道エコーをします。

三田村 全例というのは抗凝固療法をしていた方でもということですか。

是恒 ワルファリンが 4 週以上投与されている例では必ずしも経食道エコーをしなくてもいいという報告が ACUTE(Assessment of Cardio-version Using Transesophageal Echocardiography)Study からされていて, 最低 3 週以上の良好なワルファリン・コントロールがしてあれば経食道エコーなしでも除細動後の塞栓率に差はないというデータがあります。 抗凝固療法をしないで早くしたい場合には,少なくとも 2 日以上続く心房細動に対しては経食道エコー検査で血栓がないことを確かめたうえで除細動をします。

三田村 早くしたいというのは医者側の意見ですか,患者の意見ですか。

是恒 患者の希望ですね。もう仕事もリタイアされていて,症状もそんなに強くないという場合にはワルファリンを投与して 1 ヵ月後外来で診て,その後除細動ということになります。1 ヵ月待たずに早くしたいという患者では,経食道エコーのみとなります。

三田村 その場合はやはり除細動の直前にやるのでしょうか。

是恒 はい。われわれのところでは,経食道エコーは普通のエコーの枠が終わった後,夕方にやっています。その後,続いて除細動します。

■除細動の実際

三田村 除細動の方法には薬剤と電気ショックがありますが,その適応についてはいかがですか。

山下 血栓塞栓症と同じように,発症してからの時間で決めるというふうに考えます。 2 日以上たつと薬剤では止まりにくいことがすでによく知られています。

三田村 2 日を超えるということは,ワルファリンを 3 週間以上投与した症例とか, あるいは経食道エコーをやって血栓が否定された症例ということになりますが, となると,ほとんどの場合が電気ショックでということになりますね。それは小田倉先生も同じですか。

小田倉 まったく同じですね。

三田村 どういう薬剤を使われますか。

山下 抗不整脈薬の使用についてのガイドがそもそもないので,医師個人の裁量になっているのが現状です。

三田村 経口投与か,静注かについてはいかがでしょうか。

山下 東大では外来が非常に忙しかったので経口が多かったのですが, いまの心臓血管研究所では仮入院をして,静注で行っています。

三田村 すぐに入院というのが難しい場合はどうなりますか。

山下 塩酸ピルジカイニド(サンリズム®)150 mg 頓服を飲んでもらって,1 時間後に心電図を取ります。 それで止まらなかったら,翌日来院するように言って,帰しています。

三田村 是恒先生はどのようにしていますか。

是恒 2 日以内であれば外来の処置室で静注をします。 心不全がなければピルジカイニドかフレカイニド(タンボコール®)をよく使っています。洞調律に戻ればいいですが, 戻らなければ翌日にもう一度来てもらって前日と違う薬を使い,戻らなければ電気ショックをします。

三田村 いずれにしても何日分か薬を出して,自宅で戻るかどうかをみるというようなことはされないのですね。 なるべく 2 日以内に医師の監視下で止める努力をされるわけです。 止まらない場合,電気ショックは外来でされますか。

小田倉 私どもの病院には救急センターがあり,症状の強い患者はそこで診療します。 静注だとなかなか時間がかかることから,電気ショックの経験者は一応体表面心エコーで血栓を確認したうえで,外来で電気ショックをかけることもなくはありません。

三田村 それでそのまま家に帰す。

小田倉 そうですね。しかし,多くの場合はかなり抵抗がありますので, いきなり最初から電気ショックを試みることはそんなに多くはありません。緊急性のある患者に限られます。

■再発予防の薬物療法

三田村 除細動の再発の予防ですが,心房細動になって初めて除細動をした患者の場合,すぐに予防の薬を出されますか。

山下 初回は基本的には薬は出しません。 というのは,どのくらいの発作があって今回除細動に至ったのかがわからないからです。 薬剤投与ではどれくらい効果があるかという判断をするためには薬剤服用以前のコントロールのデータがないと,無用な薬をダラダラと飲み続けることになってしまいます。 1 ヵ月間は途中でホルター心電図も取り,脈拍のチェックもして,治療が必要ならその時点から始めます。

三田村 ある薬で除細動を試みた場合,その薬が効いて止まったのなら,有効性はわかっていますよね。 それでその薬を使うというやり方はいかがでしょう。

山下 昔は私もそうしていたのですが, 1 回投与すると切れないというところがあります。60 歳以下の若年者の発作性心房細動などでは一時的に薬が必要であっても, その後薬を外してもまったく再発しないという例も多いんです。

三田村 それは年齢ですか。

山下 60 歳以上になるとそういう例は非常に少なくなりますね。 薬を飲まなくていい群は確実にあるので,私はとりあえず 1 ヵ月間だけ辛抱して薬を出さないように心掛けています。

三田村 是恒先生はいかがですか。

是恒 非常に悩むところですが,“Af begets Af”という話もありますので, 戻した後 2 週間〜1 ヵ月くらい薬を出して,そこでいったんやめ,その後評価するという方法を取っています。

三田村 戻した直後に再発しやすいから,そこは薬を使う。

是恒 長期には使わないで,そこだけカバーをするというかたちです。その後は投与しない状態で評価して,長期に予防薬を投与するかどうかを考えます。

三田村 薬剤で除細動した場合は同じ薬を使えますが,電気ショックで行った場合には何で予防しますか。

是恒 停止と予防は違うのです。心不全があるかないかの観点からネガティブの inotropic が強いか弱いかで薬を考えます。

三田村 山下先生は予防薬に関していかがでしょうか。

山下 慢性心房細動後の予防薬のどの薬に分があるかというデータはなく,唯一アミオダロンだけが少しよいようですが, 一般の心房細動には使いにくい状況なので,結局トライ・アンド・エラーになってしまいます。 したがって慢性心房細動についてはリコメンデーションを出せませんが,発作性心房細動であれば 60 歳以下で発作が夜に多い人ではジソピラミド(リスモダン®)が 80%以上効きます。 その群はほとんどの例で減量・休薬ができますので,非常に特徴のある群だと思います。40 歳代の人が多いようです。

三田村 心房細動が夜起こるタイプと,昼間起こるタイプがあるという印象がありますが,夜起こるタイプに対しては抗コリン作用のある薬剤がいいということですか。

山下 基本はそうです。しかし,60 歳以上では夜起こる人でも抗コリン薬は効きません。 その理由は,年齢が上がってくると副交感神経の緊張自体がそもそもあり得ない話で,偶然その人は夜に発作が起きていただけなのです。 たとえば夜間の発作性心房細動時の心拍数は,若い人は 50 や 60 で非常に遅いのですが, 60 歳以上では 90 や 100 で非常に早い。つまり高齢者の夜間発作は副交感神経の緊張を反映しているわけではないのです(図 2)。 ですから,抗コリン薬が効くには基本的には若年者であることが大前提で,しかも夜間発作であることの 2 つの条件を満たさないといけないといえます。

図2 発作性心房細動の時刻別発生頻度と心拍応答(年齢の影響)
図2

三田村 私の印象としては,若年者で夜起こるタイプは,昼間になると止まってしまうことが結構多いのですが。はたして薬がそこで必要なのでしょうか。

山下 そのときに薬で完全によくなり,その後は減量できてしまうので,その群は非常に特殊な群だと思います。 抗コリン薬以外の薬での中途半端な抑制や,抗コリン薬をダラダラ続けることを避けるように心がければ,薬を必要なときだけ使う,いわゆるオン・アンド・オフができます。

三田村 薬を中止する時期について,先ほど是恒先生はリモデリングの考え方で 2 週間とおっしゃられたのだと思いますが。

是恒 無症状の心房細動が多いことが大事なんです。 結局初診の患者指導が重要で,うまくいけば患者により脈のチェックができます。 1 日 4 回ほどチェックしてもらい,それと症状を併せて,2 週間〜 1 ヵ月何もなければ,薬を半分に減らして様子をみます。 それでまた 1〜2 ヵ月起きなければ,中止するというふうにしています。

 ただ,理由はわかりませんが,ずっと飲まなくていい人は少なく,やはりいつか再発はあります。その時は薬を使わざるを得ません。

三田村 患者の判断で薬を飲んでもらうということはありますか。

山下 はい。いつ再発するかわからないので,薬は中止しても持たせておいて,再発したら飲んで外来に来なさいというかたちにしています。

三田村 小田倉先生もその辺は同じですか。

小田倉 若年者で夜起きる患者は結構多いです。 しかし,ずっと発作がない期間がある方も結構多い。 ですから私は,抗コリン作用のある I 群薬の頓服でまず最初は様子をみるというやり方を取ります。

三田村 具体的にどういう頓服の仕方ですか。

小田倉 ジソピラミド 2,3 カプセルを一時的に飲んでもらって,脈や症状を数時間みる。止まらなければ病院に来ていただきます。

三田村 頓服の場合,1 回目は医者が確認したほうがよいのではないですか。

小田倉 たしかに初回は,病院に何時間かいてもらって,止まるのを確かめることは大切です。

三田村 ある薬が効いて何ヵ月か経過した後に心房細動が再発したとき,ほかの薬に変えるべきか迷いますが,是恒先生,いかがですか。

是恒 これも難しい質問です。文献によれば再発はほとんど 3 ヵ月以内に起こる。 3 ヵ月以内に再発した場合には,薬の効果が無効か不十分である可能性があるので,別の薬を選択します。

三田村 それも先ほどの先生の話で, たとえばリモデリングの回復という時期を過ぎてからの再発は本当に薬が効いていないことを意味する,ということでしょうか。

是恒 これもエビデンスはありませんが,除細動後,最初の 2 週間は再発した場合,1 日以内に来院してもらって除細動をする。 この間,原則的に内服薬は変更しません。2 週間から 3 ヵ月までの再発では別の薬を考慮するようにしています。 ここまでマニアックなのは当院でも私だけかもしれませんが…。

 半年後の再発では,何らかの誘因があった場合には,必ずしも薬を変えずに同じ薬で経過をみる場合もあります。そこは,それぞれの先生で意見が違うでしょう。

三田村 山下先生,いかがですか。

山下 難しくて答えようがない。(笑)

是恒 ただ,無症状の慢性心房細動を相手にした場合は難しい。半年後に再発したのか,それとも前に検出できていないものがたくさんあったのか。 まずそこから考えなければいけないことになります。

三田村 たしかに難しいですね。どの薬を使っても維持できるのは 1 年で 5 割くらいですから,代える薬がなくなってしまうことが現実にはあろうかと思います。 最終的には QOL をいちばん維持できる薬で妥協するしかないということでしょうね。

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