■治療学・座談会■
心房細動をいかに治療するか
出席者(発言順)
(司会)三田村秀雄 氏 慶應義塾大学医学部心臓病先進治療学 教授
是恒之宏 氏 国立大阪病院循環器科
山下武志 氏 心臓血管研究所第三研究部
小田倉弘典 氏 仙台市立病院循環器科

アブレーション

■適応は薬剤抵抗性の血行動態低下例

三田村 しばしばレートコントロールできそうで,実際はなかなか難しいという場合があります。 そのときのオプションとして,房室接合部のアブレーションというアプローチがあります。小田倉先生,どういうときにこのテクニックを使われますか。

小田倉 アブレーションは非薬物療法ですので,理論的には薬物療法に抵抗性のある場合ということで, 実際にはアブレーション後にペースメーカーを植え込む症例がほとんどです。

三田村 モディフィケーションと,完全にブロックを作るものとがあると聞きますが,それはどちらのほうがいいのでしょうか。

小田倉 両方をやっていますが,モディフィケーションでは結局数ヵ月後,あるいは数年後にコントロール不良となる例を経験しています。 それほど症例は多くありませんが。

三田村 完全にブロックを作ってしまってペースメーカーを入れたほうがいいのですね。

小田倉 一般的に血行動態が悪く薬剤抵抗性の患者では接合部アブレーションをすることが多いです。

三田村 その場合は薬剤を使ってもどうしても症状が取りきれないということで決めるのですか。

小田倉 症状のこともありますし,血行動態の悪化ということもあります。 ただし最近は,接合部アブレーションをするくらいであれば,肺静脈(PV)アブレーションというオプションがありますので,今後はその兼ね合いになってくるかと思います。

三田村 そうしますと,アブレーションの適応は,薬剤抵抗性の場合,特に心不全の場合でしょうか。 あるいは肥大型心筋症など心拍数の増加による悪影響が大きく出る病態ということになりますか。

小田倉 われわれの施設で接合部アブレーションを施行したのはほとんどが器質的心疾患のある症例で, 心不全のコントロールがなかなかつきにくく,心拍数が病態にかなり影響している症例に限って行っています。

三田村 慢性心房細動で心拍数がコントロールできない場合もあるでしょうが, 発作性心房細動が予防できないときにも,アブレーションで対応することはありますか。

小田倉 両方ともあります。発作性といっても,発作がかなり頻回に起きて,そのたびに心拍数が早くなるような症例です。 これは,もともと心機能が低下している場合が多いです。それから慢性心房細動で急性に心不全が増悪したような場合で, 薬剤ではなかなか心拍数のコントロールがつかず,頻拍が血行動態に重篤な影響を及ぼす場合に限り,アブレーションの適応になります。症例は限られていますが。

三田村 ちょっと話題がそれますが,肥大型心筋症では発作が起きると症状が相当強く出る場合があります。 そういうときに,レートコントロールの目的でアブレーションを考慮されることはありますか。

是恒 当施設はあまりアブレーションをやっていませんので,まずアミオダロンを考慮します。 他の抗不整脈薬でコントロールできなくて心不全が軽快しない場合,アミオダロンで心房細動をコントロールできれば,心房機能を保持することにより劇的に心不全が良くなる。 それでコントロールできなければ,次はやはりアブレーションということになるのかもしれません。

■PV 起源の心房性期外収縮に対するアブレーション

三田村 除細動後の再発には長期間経過後の再発のほかに,除細動数秒後あるいは数分後の再発がときどき見られます。 小田倉先生,そういう症例には何か特徴があるのでしょうか。

小田倉 除細動後,最初は洞調律でも心房性期外収縮(PAC)が散発して数秒後, あるいは数十秒後に心房細動に戻ってしまうことはよく経験します。 実際の臨床の場では,PAC が散発する症例には I 群薬を静注して,もう一度除細動することがよく行われていると思います。 われわれも静注後の 2 回目で除細動に成功する例は多いです。再発のもう 1 つの原因としてはリモデリングが考えられます。 Ca 拮抗薬も静注するという方法もありますが,中には除細動で戻った後,徐脈になる方も多いので注意が必要です。

三田村 除細動後すぐの再発には 2 つ要素が絡んでいるように思われます。 1 つはリモデリングからまだ回復しておらず心房細動になりやすいということと, もう 1 つは PAC がそこで出ることです。PAC は電気的除細動直後は普通よりも増えるのですか,それとも元々出ている人ということでしょうか。

小田倉 除細動直後に増えるという報告がありますが,機序についてはよくわかっていないと思います。

三田村 PAC の起源に何か特徴はあるのですか。

小田倉 PV アブレーションを施行する際には心腔内除細動を行うことがあり, そういう場合には臨床的に心房細動のトリガーとなる所と同じ所から出てくるというデータがあります。

三田村 そうするといま話題の PV からの PAC がそこに絡んでいる可能性がありうるわけですね。 PAC が PV から来ていることを判断する基準はあるのでしょうか。

小田倉 電気生理検査をせずに PV 起源の期外収縮かどうかはなかなかわかりません。 心電図の P 波の形状からわかるという研究もありますが,私は難しいと思います。 われわれの経験からは,最初に Ja<CODE NUM=0095>s らにより報告されたタイプ,すなわち心房頻拍に近い形で, P 波がはっきりしていて,しかも繰り返し生じるものは PV がフォーカスであり,アブレーションのターゲットにもしやすいと考えています。

三田村 山下先生は,PV 起源が疑われる PAC に対して,薬で抑えるとしたら何を使いますか。

山下 私自身は経験がないのですが,最近の論文によると除細動後の PAC は直後のものはベラパミルで抑えられるということが出ています。 リモデリングの関与も考えなければなりませんが,除細動後の PAC が PV 由来が多いとの知見も合わせて考えると, PV 由来の PAC は細胞内 Ca 過負荷がかなり関与している可能性があると考えます。

三田村 そこでベラパミルが効く可能性があるということですね。 小田倉先生,具体的に PV のアブレーションはどういった症例に対して行ってみる価値があるのでしょうか。

小田倉 アブレーションは非薬物療法ですから,適応は一般的には薬物抵抗性の心房細動と考えられます。 一方,非薬物療法ではデバイスの進歩と合併症も含めた長期成績の累積とにより適応は変わってくると思います。 たとえば WPW のアブレーションの適応は,最初は不応期が短い例のみという施設も多かったのですが, 長期成績が明らかになりデバイスも普及して,市中病院で一般的に行われるようになりました。

三田村 現時点ではどういうものが勧められますか。

小田倉 PV 内のフォーカル・アブレーションは再発が多く,PV の狭窄も多いことから, 最近は欧米その他では PV のアイソレーションという方針に変わってきていると思います。

三田村 アイソレーションについて簡単に説明して下さい。

小田倉 フォーカル・アブレーションは PV 内の最早期のところ,すなわち,いちばん最初のトリガーとなる PAC をターゲットにして, そこをアブレーションするという方法で数年前からいくつかの報告があり,その後普及しました。 一方,アイソレーションは PV から発火した所と,左房の間の筋肉の連結を断ち切り,PV から発火していても, それが左房全体に広がって心房細動を起こさないようにするというコンセプトになっています。

三田村 発火点のほうは残しておいたままにして,つなぎ目のところを切るということですね。

小田倉 このデータが最近発表されてきていますが,特殊なカテーテルを使い,わりとピンポイントにできるという報告があります。 それでも時間は結構かかりますし,欧米では症例によってはイリゲーションカテーテル(カテーテルの先端に生理食塩水が出るポートがあり, そこからカテーテルの先端を冷やし,高出力でもアブレーションが深い深達度でできるカテーテル)を使わなければならないこともあるようです。 一部の症例ではそうした特殊なデバイスを使って,慢性期成功率で 7 割ぐらいという話です。

三田村 7 割というとかなり高いですね。

小田倉 われわれも何例か行っていますが,1 本の PV をアイソレーションするだけでは再発が結構あるので, 2 本ないし 3 本までアブレーションすると,いまのデバイスではかなり時間がかかるという感触を得ています。

三田村 これはどの程度普及しているのでしょうか。小田倉先生の病院に薬剤抵抗性の患者を紹介したらみんなやっていただけるのでしょうか(笑)。

小田倉 現時点ではとてもそういうレベルではありません。いくつかの障害がありますので。

三田村 この患者にはやってみようという基準はどういうふうに決めておられますか。

小田倉 症状がかなり強くて数種の抗不整脈薬を使っても発作が頻回にある若年者に限ってアブレーションをしています 。施設として始めるなら,最初のターゲットとしては,フォーカスのわかりやすい,アイソレーションをしなくても済むようなインセサントに起こるタイプと思います。

三田村 慢性心房細動はあまり適応ではないとお考えでしょうか。

小田倉 現時点では慢性心房細動でもカテーテル中に除細動をして行っている施設もあるようですが, 一般的なレベルとしてはもう少し長期成績その他をみてから検討すべきと思います。

三田村 まだまだわからない部分が多いということですね。

前のページへ
次のページへ