■治療学・座談会■
不整脈治療の動向
出席者(発言順)
(司会)平岡昌和 氏 
東京医科歯科大学難治疾患研究所循環器病 教授
三田村秀雄 氏 慶應義塾大学医学部心臓病先進治療学 教授
豊岡照彦 氏 東京大学医学部内科 教授

不整脈の非薬物療法

広がるカテーテルアブレーションの適応とその可能性

平岡 カテーテルアブレーションは,90年代の一大ヒットだと思います。先ほど三田村先生がおっしゃったように, これは今までの抗不整脈療法とは画期的に違う面は根治療法である点です。それだけでなくて,このカテーテルアブレーションのおかげで, 逆に不整脈の成因についての臨床側からの新しい知見が出てきました。

 たとえばAVNRTの緩徐伝導路が心房内にもあるということもアブレーションのおかげでわかってきたことだし, 通常型の心房粗動に対する峡部の伝導の重要さということもあります。

 それから最近,肺静脈を起源とする心房細動に対してアブレーションを行うことが1つのブームのようになっています。 まだ長期の成績はわかりませんが,1,2年の範囲でみると,半数ぐらいには再発がみられないということです。今までは心房細動というと, 常に多数巣波のリエントリーという考えがあったのですが,どうもそのような単純なことではないようで, フォーカスがある程度関係しているというところまでわかってきており,単に治療面だけではなくて,不整脈を理解するうえでも,かなり貢献があったように思います。

 それで現在では,カテーテルアブレーションはAVNRTやWPW,心房粗動というところまで適応が広がってきましたが, 最近は心室頻拍についても,症例を選んで積極的に行うようになっており,非常に有効だという成績が出されているようです。 今後アブレーションがどの方向に発展するかということについて,三田村先生,お考えをお聞かせ下さい。

三田村 アブレーションでは,カテーテル電極を当てた5mmぐらいの範囲が焼けます。 多少大きいチップを使えば,もう少し広い範囲が焼けますが,基本的にはそのような限界があります。その限界の中でやっている限りは, 多源性の不整脈ではなくて,不整脈の起源がその範囲以内に紋り込むことが可能な,単源性の1ヵ所から出ているものに対して, あるいは先ほども申し上げた,非常に狭い部分を通っているようなリエントリーに対しての治療に適しているといえます。

 しかしながらそうでない不整脈には歯がたちません。たとえば心房細動も心房の中にたくさんのリエントリー回路が含まれているという考え方からすると, 広い範囲にアブレーションをやらなくてはならず非現実的となります。器具の開発によって,ある程度の範囲を焼くことはできるようになりつつありますが。

 従来,そのように心房細動は広い基質をもった不整脈だと思われていたのですが,肺静脈起源の期外収縮が非常に高頻度で連発して, それが引き金となって心房細動を引き起こす一群の存在が明らかにされました。そうならば比較的狭い範囲のアブレーションで治療できるわけです。

 とはいっても肺静脈は4本あるので,そのうちの1本だけでなく,そのほかの肺静脈から出ているケースもあるでしょう。 そうなると,何回も焼いていかないといけません。手間はかかりますが,すべてそうやって起源を焼けば, 心房細動が出なくなるということが実際にありうるということがわかってきたので,アブレーションの適応がいま急速に広がっている状況です。

 肺静脈起源の心房細動というのは,もともとHa不saguerreらが報告したもので, 24時間ホルター心電図で心房性の期外収縮が1日700個以上みられ,しかも心房細動が毎日のように出ている症例です。 数分や数秒単位のものもしょっちょうみられる,そのようなタイプの心房細動です。したがって多くの人たちが考えている心房細動とはちょっと違っていますが, 少なくともこのようなタイプのものは,アブレーションが効果を上げます。

 ほかの大多数の心房細動が,同じようなメカニズムで起こっているかどうかについては, 今のところわかっていません。もしかすると,従来から思われていたもっと広い意味での心房細動の中にも, 肺静脈起源のものが含まれているかもしれませんし,そうなると適応がさらに広がる可能性があります。 そのへんはこれからの研究の成果によって変わってくるのではないかと思います。

平岡 たとえば心房細動がある程度限定された領域から開始されるものとして, アブレーションを行い,数ヵ月ないしは1年間心房細動が止まった場合,また再発しても少なくともその間は胸痛, 動悸などの症状がないわけですから,QOLはいちおう向上したといえるのではないかと思います。

 また梗塞後の心室頻拍についても,心室壁内の深部中にあるものは無理としても, 心内膜側に比較的近いものであれば,そこにアブレーションをして,少なくとも数ヵ月から数年は再発がなくなる状態にすれば, 少なくともその間は無症状の時期が得られるという点で,心室のほうにもカテーテルアブレーションの適応が広がってもいいのではないかと感じているのですが,いかがでしょうか。

三田村 アブレーション治療は,当初は薬剤抵抗性があって, しかも生命のリスクが高いような症例に対して適応があるといわれました。ところが最近,方法が進歩したおかげで, 比較的早い時期に行って,再発したら薬を使うとか,アブレーションを再度行うという考え方があることは事実だと思います。

 ところが,心房細動,あるいは心室頻拍に対する適応を広げていく場合に注意しなければいけないのは, やはりリスクの問題です。たとえば肺静脈起源の心房細動に対する適応を考えたときには,ほかのアブレーションよりもはるかに時間がかかります。

 それから忘れてはならないのは,肺静脈の狭窄を起こす可能性があるということです。 そうすると肺高血圧を招く危険性もあります。あるいはそこに血栓を作って,脳梗塞を起こすというようなリスクをもっています。 多くは比較的若くて,心臓も心機能もいい,そして予後も当然いいと思われる症例に対して行うわけですから, そのような意味で,アブレーションを行うメリットとデメリットの間のバランスには微妙なものがあると思います。

 一方,心室性の不整脈は,もともと予後が悪いという意味では,やる価値はもちろんあるでしょうが, 病気の進展に伴って,別の不整脈が出てきます。別の回路ができます。そしてその新しい不整脈が致死的となるかもしれません。 最近では,そのような心機能の悪い心室頻拍に対しては,比較的早い時期にアブレーションを加えるなり,薬剤を追加するなりしていくという傾向にあるのではないかと思います。

平岡 アブレーションは,もちろん今後広がってはいくでしょうが, やはりきちっとした施設で,その危険性を十分考慮しながらやらないといけないということですね。

三田村 心筋梗塞後の心室頻拍の場合には,心室瘤のすぐそばに起源があり,心室瘤の中にははしばしば血栓があります。 そのようなところでアブレーションカテーテルを操作することはやっていけないことなので,そのへんの注意も必要だろうと思います。

突然死を予防するにはICDが最良

平岡 ICDは日本でも最近かなり使われてきていると思いますが,豊岡先生,ICDの将来性については,どうお考えでしょうか。

豊岡 これは治療法の点では非常に画期的な方法で,しかも非薬物療法なので, 化学的な副作用がほとんどない点でもすぐれた方法だと思います。ただ,相当高額なデバイスかと思います。

三田村 だいたい450万円ぐらいですね。

豊岡 それを患者全員が希望した場合,保険でカバーし切れるものかどうか。 その点で,普遍的なものになりうるのかな,という疑問をもっているのですが。

平岡 確かに突然死を予防するということでは,いまICDに優る方法はありません。 ただ私は,これを入れた患者はかなり不安があるのではないかと思います。車を運転できないし,いつドカンとくるかわからないという恐怖にさらされながら生活をしなければなりません。

三田村 これを入れたために安心する患者もいますし,反対に強い不安感を持つ方もいます。 特に,誤作動すると,覚醒の状態でショックがかかります。これは拷問に近いようなもので,そのような経験をすると,すっかり落ち込んでしまう人もいます。 そのへんは,精神的なサポートをしながらやっていかないといけないこともしばしばあります。

 ただ何より生命予後,特に突然死を防ぐ治療法として,ICDは薬剤やアブレーションよりも格段に優れています。 コストの問題は確かにあるのですが,450万円を惜しくないとする考え方も一方にはあるでしょうし,今後は,もっと安くなる可能性ももちろんあります。

 最初のころに比べると,コストも下がってきて,また小型化が進んでいるので,ペースメーカーと同じ感覚で入れる状況がだいぶ近づいてきています。

 適応に関しても,最初は心停止を一度でも起こした患者を対象にしていたのが,最近では,まだそのような経験を1回もしていないが, たとえば心筋梗塞後に心機能が落ちて,心室頻拍を誘発できるような症例を対象にすることもあります。 そのような症例では,薬を投与するよりもICDを入れたほうが予後がいいという結果もすでに出ています。 ICDは,そのようなプライマリー・プリベンションに使われる方向に,進んでいるのではないでしょうか。

 それと心機能が悪く,おそらく非持続性心室頻拍によると思われる失神を起こした症例では,ICDはかなり考えてみる価値のある機器だと思います。 ただ問題は,これはあくまで治療のためのものであって,予防にはならないという点です。

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