■治療学・座談会■
不整脈治療の動向
出席者(発言順)
(司会)平岡昌和 氏 
東京医科歯科大学難治疾患研究所循環器病 教授
三田村秀雄 氏 慶應義塾大学医学部心臓病先進治療学 教授
豊岡照彦 氏 東京大学医学部内科 教授

不整脈治療の将来展望

平岡 不整脈の治療は,日常の臨床ではどうしても薬物が大事になってくると思いますが, 抗不整脈薬の作用を考える場合,今まではただチャネルを抑えるとか,不整脈のあるところにどう効くかという問題でした。 これからは,先ほどもちょっと話に出ましたが,不整脈を起こす基質,さらにはその上流の病態を治すことが望まれてくるだろうと思います。 upstream approachということでいうと,将来どのようなところが抗不整脈薬の範疇に入ってくるか, あるいはそのようなところを意識していないといけないかということだと思いますが, リモデリングなどからいうと,いわゆるレニン−アンジオテンシン系を介する調節ということが頭に浮かんできます。豊岡先生は将来への夢ということではいかがでしょうか。

豊岡 不整脈は,いろいろな背景が起き,現象的には心室性期外収縮が重症にみえると思います。 こうした背景の相違は分子生物学の進歩も伴い,徐々に解明されつつあります。

 そうすると,大規模試験で抗不整脈薬が有効か,無効かというのは非常に乱暴な議論で, 患者の背景がまったく違えば有効な症例もあるのでしょうし,無効な症例もあるかもしれません。 現在ヒトの遺伝子が解明され,個体差があることがわかってきています。 それを揃えたうえで,もう1回試験をきちんとやれば,有効な薬も当然あると予想しています。 そのようなきめの細かい,患者の特異性を見極めたうえでの薬物ならば,捨て去られた薬も決して無効ではないということが起きうると考えています。

 リモデリング一般に関しては,レニン−アンジオテンシン系もエンドセリンも絡むかもしれません。 上流部分を修飾して,治療に結びつくならば,抗不整脈薬の概念はもっと広がると思います。 ACE阻害薬やサイトカイン受容体遮断薬も開発されつつあるので,将来的には抗不整脈薬の範疇に入るかもしれません。

平岡 三田村先生,そのupstream approachについてのお考えは何かございますか。

三田村 この考え方は,素人的にいえば,たとえば虚血性の不整脈は虚血を治すことがまず第一歩だという考え方であって,それは正しいと思います。

 従来の抗不整脈薬は基本的にはdownstream治療であって,それはいま出ている症状を抑える, QOLを良くするという点で,今後もやはり必要な薬剤だろうとは思っています。

 ただ長期的な予防を考える場合には,より上流に治療ターゲットをもっていかないといけなくなります。 上流を意識した治療薬というのは,それを抗不整脈薬というべきかどうかは別として,不整脈を出しているものが何かということが関わってきます。

 それが心不全であれば心不全を良くする薬ということですが,もう少し分子のレベルで, 心筋のたとえば線維化を起こしているものが伝導遅延をもたらしてリエントリーを起こすのであれば, 線維化を抑制するというアプローチが選ばれます。それから先ほどの心房細動のリモデリングは, Caの過負荷によって起こるということがわかっています。それを抑制するために,Caの流入を防ぐような薬剤をあらかじめ投与すると, 少なくとも短期間はリモデリングを抑えられるということもわかっています。 そのようなアプローチによってリモデリングを抑制することも,ひいては不整脈が出るのを減らすということにつながると思います。

 まだまだそのような不整脈の上流についてはわかっていない部分が非常に多いわけですが, 不整脈治療にかかわる者として,不整脈の機序を勉強するだけではなくて, たとえば心不全がなぜ起きているかということを勉強しないと,最終的に不整脈のupstream治療はできないのではないでしょうか。その責務は非常に重いのではないかと思います。

平岡 いろいろと興味のあるお話を伺いました。本日は長時間にわたり,どうもありがとうございました。

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