■治療学・座談会■
血管新生研究の新しい展開
出席者(発言順)
(司会)室田誠逸 氏 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞機能学分野 教授
佐藤靖史 氏 東北大学加齢医学研究所腫瘍循環研究分野 教授
澁谷正史 氏 東京大学医科医科学研究所細胞遺伝学研究部 教授
戸井雅和 氏 都立駒込病院外科

遺伝子治療

■ 血管を再生させる治療法が治験中

室田 ある特定の遺伝子が欠如しているために病気にな っている人に,その遺伝子を補って病気を治すのが本来の遺伝子治療です。 循環器領域においては,そのような致死的な遺伝子欠損がなかったため,他の領域に比べて遺伝子治療の機会は少なかったと思うのですが, 外国でいきなりVEGFの遺伝子療法というものが始まり,それが非常に効を奏しました。 今や循環器領域は遺伝子治療の最先端を走っているようですが,戸井先生,その辺のことをもう少し詳しくお話ししていただけませんでしょうか。

戸井 タフツ大学のIsner,浅原先生らのグループが閉塞性の血管障害に対して行い,成績は非常によかったそうです。 最初はプラスミドDNAを投与して行われ,血管造影で閉塞性病変の改善が認められたと報告をされています。 データはなかなか素晴らしいものです。そのような背景から,血管を増やすほうの遺伝子治療ですが,アデノウイルスを用いたVEGF遺伝子治療に関して, 無治療とベクター単独,そしてVEGF導入の3群のランダマイズド・トライアルが行われています。

 ごく最近の報告では,すでに50例以上のエントリーがあり,副作用の面ではまず問題ないということです。 効果はまだオープンにされていません。いずれにしても血管を再生させる治療のほうが先行しています。 VEGF以外に,たとえばHGFを使ったり,basic FGFを使ったりという試みも行われています。

室田 大阪大学ではHGFを使っていますが,HGFを使わなければならない理由というのはあるのでしょうか。

佐藤 あれはVEGFはアメリカにパテントがあって,日本では使えないからと聞いています。 それに,HGFは大阪大学の中村敏一先生が単離されており,血管新生促進の効果としては非常に強いと聞いています。 それで,HGFを使われているのだと思います。

室田 死を待つしかなかった重症の心臓病患者にVEGF治療を行ったらピンピンして健康人と 同じように農作業ができるようになったという元患者の元気な姿をテレビでみましたが, そのような優秀な治療法が,日本では特許の問題で使えないというのはおかしな気がしますね。特許料を払えば使えますか。

戸井 冠動脈の治療に関してどこまで本当に有効かという点については,臨床ではまだきちっと評価が済んでいない段階です。 それほどはよくないという見方もあると思います。臨床における本格的な評価が進めば,日本でも当然使える状況になると思います。

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