室田 最近,VEGF/KDR系のほかに,アンジオポエチン/Tie−2系が非常に注目されるようになってきました。 こちらの系は血管の成熟に関係しており,血管内皮細胞の周りに周皮細胞をしっかり呼び寄せてつける, そのような働きではないかと思いますが,佐藤先生,もう少し詳しくお話しいただけませんでしょうか。
佐藤 まず,内皮細胞にかなり特異的に発現しているチロシンキナーゼ型の受容体としてTekとTieが1990年代初めにクローニングされました。 最近では,TieをTie−1,TekをTie−2と呼ぶようになっています。それらをノックアウトすると, とくにTie−2をノックアウトすると胎仔の血管新生とその後の周皮細胞が集合してきて成熟する過程が障害されます。 それからTie−1をノックアウトすると,その後の血管のインテグリティが悪いということがわかりました。
その後にYancopoulosのグループがTie−2のリガンドとしてアンジオポエチンをクローニングしました。 今はアンジオポエチン−1からアンジオポエチン−4までわかっていますが,非常に興味深いのは,Tie−2のアゴニストとしてシグナルを伝えるリガンドと, アンタゴニストとしてシグナルを伝えないリガンドがあり,そのバランスによって内皮にシグナルが入るかどうかということが調節されているということです。
アンジオポエチン−1の活性は,いまのところは細胞の遊走を促進する,あるいはアポトーシスを抑制するということがいわれていて, Tie−2からシグナルが入ると内皮自体に働いて血管新生の遊走を促進するし,さらに周皮細胞などを集合させます。 これはたぶん血小板由来増殖因子(platelet−derived growth factor :PDGF)やほかの因子を介していると思われます。 そのような作用と,それからアポトーシスを抑制する作用があります。 逆にアンジオポエチン−2が優勢になると,シグナルが遮断されると周皮細胞がはずれるようなシステムになっています。
室田 アンジオポエチンをつくる細胞は内皮細胞そのものと考えてよろしいのでしょうか。
佐藤 アンジオポエチンの場合,とくにアンジオポエチン−1はパラクリン的なことが多いようですが,内皮でも発現しています。 アンジオポエチン−2については内皮がかなり積極的につくるようで,とくに腫瘍の部分では内皮細胞でアンジオポエチン−2の発現が増強し, そのために腫瘍の血管は周皮細胞が寄ってこられません。そのようなところはYancopoulosのグループが非常にきれいに示しています。
室田 それは腫瘍の血管内皮細胞の特徴と考えていいわけですね。
佐藤 腫瘍でもそうですが,血管新生が始まるときには周皮細胞がはずれるということがあります。 まず,アンジオポエチン−2がドミナントになり,周皮細胞がはずれ,次にVEGFなどの刺激で内皮細胞が動き始め,最 後に,アンジオポエチン−1がドミナントになると,周皮細胞がやってきて成熟した血管にして,血管新生をそこで終息,落ち着かせるということではないかと思います。
室田 それは,血管が置かれた自分の状況を察知して,アンジオポエチン−2をドミナントにするかアンジオポエチン−1をドミナントにするか, 血管内皮細胞自体が決めていると考えてよろしいでしょうか。
佐藤 どうもアンジオポエチン−2については内皮自体が決めているようです。ただ,アンジオポエチン−1はその周りの細胞かもしれません。 アンジオポエチン−2の発現については,たとえば京都大学眼科の高木先生らのグループは,低酸素でアンジオポエチン−2の発現が内皮で増えるという説を出しておられるし, ジュネーブのPepperらはVEGFやほかのそのようなもので誘導されるというデータを出しているようです。
室田 そのあたりの調節機構が詳しくわかってくるといいですね。
澁谷 VEGFとアンジオポエチンの両方が働いて構築ができてくるというところは非常におもしろいところで, アンジオポエチンは内皮細胞に対して増殖シグナルはほとんど入れないということになっていますし,今後,非常に大事な研究分野になると思います。