1999年から2007年の間に承認を取得した新医薬品は,米国において225薬剤,EUにおいて215薬剤 (イギリス,フランス,ドイツのいずれかで承認された場合を含む),日本において210薬剤あった。 3地域のデータベースを統合し,除外対象を除くと,分析対象新医薬品として398薬剤が特定された。
分析対象新医薬品398薬剤の治療領域ごとの一覧をAppendix「分析対象新医薬品一覧」に示す。
分析対象新医薬品398薬剤の米国,EU,日本における承認状況を図2に示す。 398薬剤のうち,米国,EU,日本の3地域とも承認されている薬剤は159薬剤であった。 米国とEUで承認されている薬剤は123薬剤,米国と日本で承認されている薬剤は8薬剤, EUと日本で承認されている薬剤は12薬剤であった。米国,EU,日本のいずれかの地域でのみ承認されている薬剤は,おのおの35薬剤,20薬剤,41薬剤であった。
分析対象新医薬品398薬剤について,米国,EU,日本における承認割合,未承認薬の開発状況を図3に示す。 各地域での承認割合は,米国81.7%(325/398),EU 78.9%(314/398),日本55.3%(220/398)であった。 各地域での未承認の薬剤について,当該地域での開発状況をみると,3地域とも,約半分の薬剤が開発未着手であるか開発を中止していた (米国41/73,EU 44/84,日本101/178)。
分析対象新医薬品398薬剤のうち,世界初承認となった薬剤の割合は,米国50.8%(202/398),EU 34.9 %(139/398),日本13.1%(52/398)であった。
承認ラグ中央値は,米国0ヵ月,EU 2.7ヵ月,日本41.0ヵ月であった。各地域における承認ラグの分布を図4に示す。 約半数が世界初承認である米国では0ヵ月に集中がみられ, 全体の75%は世界初承認後8ヵ月以内に承認となっていた(75パーセンタイル=7.4ヵ月)。 同様にEUにおいても0ヵ月に集中がみられ,全体の75%は世界初承認後1年以内に承認となっていた(75パーセンタイル=11.8ヵ月)。 一方,日本の承認ラグの分布は異なるプロファイルを示した。0ヵ月と中央値(41.0ヵ月)付近にやや集中がみられるが,全体に広い分布を示しており, 全体の25%の薬剤について承認ラグは6年以上であった(75パーセンタイル=72.7ヵ月)。
分析対象新医薬品398薬剤のうち,米国,EU,日本のいずれの地域においても承認されている159薬剤を対象とすると, 世界初承認割合は,米国47.2%(75/159),EU 45.9%(73/159),日本0.4%(6/159)であった。 承認ラグ中央値は,米国0.2ヵ月,EU 1.8ヵ月,日本50.7ヵ月であった。
各地域における年ごとの承認数,世界初承認数,承認ラグ中央値を表4に示す。承認ラグの年次推移については図5に表示した。 1999年から2007年まで年ごとに算出した承認ラグ中央値は,米国ではほぼ全期間にわたり0ヵ月で推移しており, いずれの時期においても承認薬剤の半数以上が世界初承認であったことが示された。EUでの承認ラグは,おおよそ3〜10ヵ月の間で推移しており, 期間後半(2004〜2007年)でやや大きくなる傾向が認められた。日本での承認ラグは全期間での中央値(41.2ヵ月)を中心に広い範囲に分布しており, 年次推移に特別な傾向はみられなかった。
重回帰分析の結果を表5,図6−1,図6−2,図6−3に示す。
「承認ラグ」を被説明変数とした分析では,承認ラグを大きくする方向に影響度が大きい要因は,「海外オリジン」 (標準回帰係数 0.416,t=4.93)と「神経系の薬剤」(0.305,t=2.97)であった。臨床的重要度の影響はみられなかった(−0.003,t=0.03)。 承認ラグを短くする方向に比較的影響度が大きい項目は,「HIV感染症治療薬」(−0.129,t=1.49),「HIV以外の感染症治療薬」(−0.114,t=0.99), 「予測市場規模が大きい」(−0.108,t=1.18)であった。
「世界初承認時の日本における開発状況」を被説明変数とした分析では,日本における開発着手を遅らせる方向に影響度が大きい要因は, 「海外オリジン」(0.587,t=7.97),「神経系の薬剤」(0.241,t=2.69),「抗癌剤・免疫調整剤」(0.213,t=2.03),「臨床的重要度が高い」 (0.194,t=2.20)であった。
「審査期間」を被説明変数とした分析では,審査期間を短くする方向に影響度が大きい要因は, 「抗癌剤・免疫調整剤」(−0.280,t=−2.20),「HIV以外の感染症治療薬」(−0.244,t=−2.00), 「臨床的重要度が高い」(−0.231,t=−2.15)および「HIV感染症治療薬」(−0.192,t=2.10)であった。
3.6.1. オリジネーター国籍と臨床的重要度によるサブグループ分析
分析対象新医薬品398薬剤をオリジネーター国籍により分類すると,日本が55薬剤(13.8%)であり, 米国172薬剤(43.2%),ヨーロッパ155薬剤(38.9%),その他16薬剤(4.0%,不明を含む)であった。海外オリジン合計は343薬剤(86.2%)である。
オリジネーター国籍別にみると,日本オリジンの薬剤の承認割合は,米国38.2%(21/55),EU 30.9%(17/55),日本94.5%(52/55)であった。海外オリジンの薬剤の承認割合は,米国88.6%(304/343),EU 86.6%(297/343),日本49.0%(168/343)であった。日本での世界初承認割合は,日本オリジンの薬剤群で78.2%(43/55),海外オリジンの薬剤群で2.6%(9/343)であった。日本での承認ラグは,日本オリジンの薬剤群で0ヵ月,海外オリジンの薬剤群で50.9ヵ月であった。
分析対象新医薬品398薬剤の臨床的重要度別分類を表6に示す。146薬剤は臨床的重要度が高い薬剤群に分類され, 252薬剤は臨床的重要度が低い薬剤群に分類された。各選択基準への適合の有無については,Appendix「分析対象新医薬品一覧」に薬剤ごとに示す。
(1)承認割合,世界初承認割合および承認ラグ
オリジネーター国籍と臨床的重要度によるサブグループ分析の結果を表7に示す。
臨床的重要度が高い薬剤群(146薬剤)では,各地域における承認割合は,米国93.8%(137/146),EU 84.2%(123/146),日本49.3%(72/146)であった。76.0%(111/146)が米国で世界初承認となっており,日本での世界初承認は5.5%(8/146),承認ラグは37.7ヵ月であった。臨床的重要度が低い薬剤群(252薬剤)では,承認割合は,米国74.6%(188/252),EU 75.8%(191/252),日本58.7%(148/252)であった。日本での世界初承認は17.5%(44/146),承認ラグは41.8ヵ月であった。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤群(135薬剤)で日本の承認割合はもっとも低く(46.7%,63/ 135),日本で世界初承認となったものは1薬剤(0.7 %)のみであった。承認ラグ中央値は41.5ヵ月であった。この群について日本での未承認薬剤(72/135,53.3%)の開発状況をみると,承認申請中あるいは治験実施中であるものが33薬剤(33/135,24.4%),開発中止となったものが1薬剤(1/135,0.7%),開発未着手であるものが38薬剤(38/135,28.1%)であった。
(2)審査期間
各地域で承認されている薬剤のうち,申請年月日,承認年月日ともに得られている薬剤について,地域ごとに審査期間を算出した。EUについては1994年以前,日本については1999年以前に承認申請が行われた薬剤の申請年月日は不明であることが多く,審査期間が算出不能なものがあった。米国で承認されている325薬剤のうち256薬剤(78.8%),EUでは314薬剤のうち199薬剤(63.4%),日本では220薬剤のうち168薬剤(76.4%)について審査期間が得られた。
臨床的重要度,オリジネーター国籍別にみた各地域の審査期間中央値は表7に示すとおりである。全薬剤を対象とすると,各地域での審査期間中央値は,米国11.6ヵ月,EU 15.8ヵ月,日本21.6ヵ月であった。米国が最短であり,米国に比べEUでは約4ヵ月,日本では約10ヵ月長かった。
臨床的重要度が高い薬剤群では,各地域での審査期間中央値は,米国6.2ヵ月,EU 15.2ヵ月,日本14.6ヵ月であった。臨床的重要度が低い薬剤群では,米国15.9ヵ月,EU 16.3ヵ月,日本24.4ヵ月であった。
日本オリジンの薬剤群では,各地域での審査期間中央値は,米国16.6ヵ月,EU 17.6ヵ月,日本26.0ヵ月であった。海外オリジンの薬剤群では,米国10.6ヵ月,EU 15.8ヵ月,日本20.5ヵ月であった。海外オリジンの薬剤群に比べ,日本オリジンの薬剤群では,各国とも審査期間が長くなる傾向が認められた。
日本での審査期間は,臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤群でもっとも短く(13.3ヵ月), 臨床的重要度が高い日本オリジンの薬剤(20.4ヵ月),臨床的重要度が低い海外オリジンの薬剤(23.1ヵ月), 臨床的重要度が低い日本オリジンの薬剤(29.9ヵ月)の順に長くなった。このサブグループでは, 日本の審査期間は米国(6.2ヵ月)より約7ヵ月長く,EU(15.2ヵ月)より約2ヵ月短かった。
3.6.2. バイオ医薬品/その他の別,臨床的重要度によるサブグループ分析
分析対象新医薬品398薬剤のうち,バイオ医薬品に相当するものは69薬剤であった。バイオ医薬品/その他の別, 臨床的重要度によるサブグループ分析の結果を表8に示す。バイオ医薬品(69薬剤)の承認割合は,米国89.9%(62/69),EU 84.1%(84.1%), 日本40.6%(28/69)であった。バイオ医薬品以外の薬剤(329薬剤)の承認割合は,米国79.9%(263/329),EU 77.8%(256/329), 日本58.1%(191/329)であった。バイオ医薬品の日本での承認割合は,新医薬品全体(55.3%,220/398)と比較して低かった。 日本オリジンのバイオ医薬品は2薬剤(tocilizumab, human albumin)のみであり,両薬剤とも日本において世界初承認となっていた。 日本において世界初承認となったバイオ医薬品は米国オリジンの1薬剤(trafermin)を含め,3薬剤(4.3%)のみであった。 日本の承認ラグ中央値は,バイオ医薬品で42.8ヵ月,バイオ医薬品以外の薬剤で39.6ヵ月であった。
バイオ医薬品を臨床的重要度別にみると,日本での承認割合は,臨床的重要度の高いバイオ医薬品(35薬剤)で51.4%(18/35)であり, 新医薬品全体とほぼ同程度であった。臨床的重要度の低いバイオ医薬品(34薬剤)では32.4%(11/34)であった。
3.6.3. 臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤の治療領域別サブグループ分析
分析対象新医薬品398薬剤の治療領域別内訳を表9,図7に示す。
図7に示すとおり,臨床的重要度が高い薬剤群と低い薬剤群では,治療領域別内訳に異なる特徴がみられた。 臨床的重要度が高い薬剤群(146薬剤)では,薬剤数上位6領域である抗癌剤・免疫調整剤(44,30.1%),HIV感染症(14,9.6%), HIV以外の感染症(14,9.6%),神経系(12,8.2%),先天性代謝異常症(10,6.8%),血液系(10,6.8%)の合計が全体の71.2%を占めた。 一方,臨床的重要度が低い薬剤群(252薬剤)では,神経系(39,18.3%),消化器・代謝系(27,10.7%), 心血管系(23,9.1%),泌尿器・生殖器系(23,9.1%)が比較的多数であったが,治療領域は多岐にわたっていた。
臨床的重要度が高い薬剤群での薬剤数上位6領域(抗癌剤・免疫調整剤,HIV感染症,HIV以外の感染症,神経系,先天性代謝異常症, 血液系)を重要治療領域と考え,臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤群について治療領域別サブグループ分析を行った。 治療領域ごとの承認割合,承認ラグ中央値,審査期間中央値を表10に示す。臨床的重要度が低い薬剤を含めた治療領域ごとの詳細な記述は, 3.6.5「治療領域ごとの詳細分析」に示す。
もっとも承認割合の高いHIV感染症治療薬の承認ラグ中央値は13.0ヵ月,審査期間中央値は2.3ヵ月と6領域でもっとも小さかった。 次いで承認割合の高いHIV以外の感染症治療薬の承認ラグ中央値は20.5ヵ月,審査期間中央値は8.3ヵ月といずれも2番目に小さかった。 これら2つの治療領域は,ドラッグラグが比較的小さい領域と考えられた。
ドラッグラグがもっとも顕著である治療領域は神経系であり,11薬剤のうち承認されているものは2薬剤のみであった( 承認割合18.2%,承認ラグ中央値158.6ヵ月)。次いで承認割合が低く,承認ラグ中央値が大きい治療領域は血液系であった(33.3%,64.4ヵ月)。 抗癌剤・免疫調整剤(53.7%,46.6ヵ月)の承認割合は臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤全体(46.7%,41.5ヵ月)に比べやや高かったが, 承認ラグ中央値は大きく,重篤・致死的な疾患の治療薬であることから,ドラッグラグがもたらす影響が大きい領域と考えられた。 先天性代謝異常症(55.6%,29.9ヵ月)は承認割合が全体に比べやや高く,承認ラグ中央値は比較的小さいが, 小児におけるきわめて重篤・致死的な疾患であることから,比較的小さいラグであっても影響が大きい領域であると考えられた。 以上より,ドラッグラグが問題となる代表的治療領域は,神経系,血液系,抗癌剤・免疫調整剤,先天性代謝異常症であると考えられた。
3.6.4. 海外オリジンの薬剤の開発着手時期に関する分析
3.6.1に示した結果から,日本におけるドラッグラグは,おもに海外オリジンの薬剤の承認の遅れによりもたらされていることが明らかとなった。 また,海外オリジンの薬剤の日本における承認ラグが50.9ヵ月である一方,日本の審査期間の米国との差は10.1ヵ月,EUとの差は4.7ヵ月であることから, 日本における承認ラグのうち審査の長期化による部分は小さく,ラグの大部分は申請までに生じていると考えられた。 そこで,海外オリジンの薬剤を対象とし,日本における開発着手時期を間接的に示す「世界初承認時の日本における開発状況」を評価項目として, さらに分析を行った。
(1)世界初承認時の日本における開発状況─現在の承認・開発状況別内訳─
世界初承認時の日本における開発状況の集計結果を,現在の承認・開発状況別内訳とともに図8に示す。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤群(135薬剤)では,日本において世界初承認となった薬剤は1薬剤(gefitinib,1/135,0.7%)のみであった。 世界初承認時に日本において承認申請済みであった薬剤は9薬剤(9/135,6.7%)であり,うち6薬剤はHIV感染症治療薬であった。 世界初承認時に日本において承認申請済みであった薬剤の割合は7.4%(10/135)であり, 国内での治験が要求されないHIV感染症治療薬を除くと3.3%(4/121)であった。 世界初承認時に日本において治験実施中であった薬剤は47薬剤(47/135,34.8%)であり, 承認・承認申請中を含め,世界初承認前に日本において開発が開始されていたものは全体の42.2%(58/135)であった。
世界初承認時に日本において開発未着手であった薬剤は78薬剤(78/135,57.8%)と,全体の半数以上であった。 このうち24薬剤は現在までに承認されており,16薬剤は開発段階にあるが,残り38薬剤は現在も開発未着手である。 承認された24薬剤の中には,HIV感染症治療薬4薬剤のほか,厚生労働省「未承認薬使用問題検討会議」において先天性代謝異常症や稀少癌の重要な治療薬とされ, 開発促進が決定された7薬剤(alglucosidase alfa,idurosulfase,nelarabine,bortezomib,laronidase,temozolomide,bevacizumab)が含まれる。 これらは日本人データが限られているかまったくない場合でも,海外データに基づき承認された。 一方,現在も開発未着手である38薬剤の中にも,HIV感染症治療薬4薬剤のほか, 「未承認薬使用問題検討会議」において開発促進が決定された薬剤が12薬剤含まれていた。 その大半は,先天性代謝異常症,稀少癌の治療薬であった(decitabine,clofarabine,vorinostat,stiripentol,sodium phenylbutyrate, oxcarbazepine,rufinamide,nitisinone,betain,eculizumab,alemtuzumab,telbivudine)。
臨床的重要度が低い海外オリジンの薬剤群(不明を除き191薬剤)では,日本において世界初承認となった薬剤は8薬剤(8/191,4.2%), 世界初承認前に日本において承認申請済みであった薬剤は14薬剤(14/191,7.3%),治験実施中であった薬剤は89薬剤(89/191,46.6%)であった。 これら111薬剤(111/191,58.1%)は,開発中止となった4薬剤を除きすべて現在までに承認されたか開発段階にある。 一方,世界初承認時に日本において開発未着手であった薬剤は80薬剤(80/191,41.9%)あり, 現在までに承認されたか開発中である薬剤は25薬剤,開発未着手である薬剤は55薬剤であった。
(2)世界初承認時の日本における開発状況─日本での開発・申請企業別内訳─
世界初承認時の日本における開発状況の集計結果を,日本における開発・申請企業別内訳とともに図9に示す。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤群(135薬剤)のうち,日本における開発・申請企業が海外企業の日本法人であるものは88薬剤(88/135,65.2%)あり, うち世界初承認時に日本における開発が開始されていたものは45薬剤(45/88,51.1%),開発未着手であったものは43薬剤(43/88,48.9%)であった。 海外企業からライセンスを受けた日本企業が日本における開発・申請を行っているものは34薬剤(34/135,25.2%)あり, うち世界初承認時に日本における開発が開始されていたものは12薬剤(12/34,35.3%),開発未着手であったものは22薬剤(22/34,64.7%)であった。 この22薬剤の大半は,世界初承認時にライセンサーである海外企業の日本法人が存在せず,その後日本企業がライセンスを受けて開発を開始したものである。 22薬剤のうち現在までに承認された薬剤は6薬剤のみであり,日本企業がライセンスを取得したが, いまだ開発着手に至っていないものが7薬剤,開発中止となったものが1薬剤であった。
残る13薬剤(13/135,9.6%)は,ライセンサーである海外企業の日本法人が存在せず, 現在もライセンスを受けて開発を行う日本企業が決定していないものである。 この中には,「未承認薬使用問題検討会議」において開発促進が決定されたが開発権を有する企業が存在せず, 開発企業の募集が行われているstiripentol(小児難治性てんかん),betain(ホモシスチン尿症)が含まれる。
臨床的重要度が低い海外オリジンの薬剤群(不明を除き189薬剤)のうち, 日本における開発・申請企業が海外企業の日本法人であるものは102薬剤(102/189,54.0%)あり,うち71薬剤(71/102,69.6 %)については世界初承認時に日本における開発が開始されていた。 海外企業からライセンスを受けた日本企業が日本における開発・申請を行っているものは64薬剤(64/189,33.9%)あり, うち世界初承認時に日本における開発が開始されていたものは38薬剤(38/64,59.3%),開発未着手であったものは26薬剤(26/64,40.6%)であった。
(3)世界初承認時の日本における開発状況と予測患者数との関係
日本で承認されている海外オリジンの薬剤について,世界初承認時の日本における開発状況と予測患者数との関係を図10に示す。 臨床的重要度が高い薬剤群(51薬剤)の予測患者数は,臨床的重要度が低い薬剤群(61薬剤)に比べ少数である傾向がみられた (中央値:高=2,150人,低=96,000人)。
開発着手時期と予測患者数との間に明確な関連はみられないが,臨床的重要度が高い薬剤群では, 世界初承認時に日本において開発未着手であった薬剤は予測患者数が少ない傾向がみられた。 表11に示すとおり,予測患者数中央値は,世界初承認時に日本において開発着手済みであった薬剤群では7,600人, 開発未着手であった薬剤群では550人であった。臨床的重要度が低い薬剤群では,予測患者数中央値は, 世界初承認時に日本において開発着手済みであった薬剤群では96,000人,開発未着手であった薬剤群では107,000人と同程度であった。
予測患者数が1,000人未満の薬剤はいずれも臨床的重要度が高い薬剤であり, 18薬剤のうち11薬剤(cladribine,laronidase,everolimus,mefloquine,alglucosidase alfa,nelarabine, valganciclovir,idursulfase,arsenic trioxide,basiliximab,ivermectin)は,世界初承認時に開発未着手であった。 これらの多くは,稀少癌治療薬,移植時の免疫抑制剤,先天性代謝異常症治療薬であった。
一方,臨床的重要度が高く,予測患者数が10,000人以上であるにもかかわらず, 世界初承認時に開発未着手であった薬剤が2薬剤あり(etanercept,bevacizumab),いずれもバイオ医薬品であった。
(4)世界初承認時の日本における開発状況と予測患市場規模との関係
日本で承認されている海外オリジンの薬剤について,世界初承認時の日本における開発状況と予測市場規模との関係を図11に示す。 臨床的重要度が高い薬剤群(51薬剤)の予測市場規模は,臨床的重要度が低い薬剤群(61薬剤)に比べ小さい傾向がみられた(中央値:高=33億円,低=86億円)。
開発着手時期と予測市場規模との間に明確な関連はないが,世界初承認時に日本において開発未着手であった薬剤は, 予測市場規模が小さい傾向がみられた。表11に示すとおり,予測市場規模中央値は, 世界初承認時に日本において開発着手済みであった薬剤群では53.2億円,開発未着手であった薬剤群では13.7億円であった。 臨床的重要度が低い薬剤群でもこの傾向はみられ,世界初承認時に日本において開発着手済みであった薬剤群では90.6億円, 開発未着手であった薬剤群では32.7億円であった
予測市場規模が10億円未満の薬剤は21薬剤あり,うち12薬剤は臨床的重要度が高い薬剤であった。 12薬剤のうち8薬剤(cladribine,everolimus,mefloquine,nelarabine,valganciclovir,arsenic trioxide,basiliximab,ivermectin)は 世界初承認時に日本において開発未着手であった。
一方,臨床的重要度が高く,予測市場規模が100億円以上であるにもかかわらず, 世界初承認時に開発未着手であった薬剤が2薬剤あり(etanercept,bevacizumab),いずれもバイオ医薬品であった。
3.6.5. 治療領域ごとの詳細分析
3.6.3 に示した結果から,HIV感染症およびHIV以外の感染症でドラッグラグは比較的小さく,ドラッグラグが問題となる代表的な治療領域は, 神経系,血液系,抗癌剤・免疫調整剤,先天性代謝異常症であると考えられた。また,3.6.4に示した結果から, 承認ラグの主要な構成要素は開発着手の遅れであり,とくに対象患者数がきわめて少ない薬剤および市場規模が小さい薬剤において開発着手遅延が顕著にみられた。
これら重要治療領域6領域について,臨床的重要度が高い薬剤群を中心に, 薬剤個々の開発状況の調査や製薬企業・臨床医インタビューを含むさらなる詳細分析を行った。 また,バイオ医薬品のみに着目した詳細分析も行った。治療領域ごとに下記に記す。Appendix「分析対象新医薬品一覧」に薬剤ごとの詳細を示す。
(1)HIV感染症
HIV感染症治療薬14薬剤は,すべて臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤であった。 これら14薬剤はすべて米国において世界初承認となっていた。日本での承認割合は71.4%,(10/14)と重要治療領域の中でもっとも高く, 承認ラグ中央値は13.0ヵ月と最小であった。HIV感染症に関しては,1980年代に起きた一連の薬害訴訟を受け, 治療薬へのアクセスに遅れが生じないよう特別な施策が講じられている21)21)厚生労働省審査管理課長. HIV感染症治療薬の製造又は輸入承認申請について(医薬審1015号). 平成10年11月12日.。 具体的には,海外における承認審査中に海外データを提出して事前評価を受けたうえ,海外での承認後ただちに迅速な承認審査を受けることができる。 また,承認申請から承認まで4ヵ月程度で処理する方針が示されている。実際には日本で未承認である薬剤もあったが, 承認薬剤について算出した審査期間中央値はわずか2.3ヵ月と,他の治療領域に比べ例外的に小さかった。
(2)HIV以外の感染症
HIV以外の感染症治療薬は35薬剤あり,うち臨床的重要度が高い薬剤は14薬剤(海外オリジン13薬剤,日本オリジン1薬剤), 臨床的重要度が低い薬剤は21薬剤(海外オリジン12薬剤,日本オリジン9薬剤)であった。 臨床的重要度が高い薬剤群には,B型,C型肝炎を適応とした抗ウイルス剤,侵襲性真菌感染症治療薬,耐性菌感染症治療薬が含まれていた。 臨床的重要度が低い薬剤には,広域スペクトルを有する抗菌剤,表在性真菌感染症治療薬が含まれており,日本オリジンの薬剤が多かった。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤の日本での承認割合は61.5%(8/13),承認ラグ中央値20.5ヵ月,審査期間中央値8.3ヵ月と, いずれもHIV感染症治療薬に次いで2番目に小さかった。本領域では日本における開発着手が比較的早く, 13薬剤のうち8薬剤(61.5%)は,世界初承認時に日本における開発が開始されていた。 とくに,予測患者数が約200万人であるインフルエンザ治療薬は,日本における開発着手が早かった (zanamivir,世界初承認時に承認申請中;oseltamivir,世界初承認時に臨床第III相試験実施中)。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤のうち,日本において承認されていないものは5薬剤ある。 このうち薬剤の米国においてFast Track指定を受けたcaspofunginは日本において承認されておらず,開発も行われていない。 しかし,類薬である日本オリジンのmicafunginが日本で世界初承認となっており,治療上代替しているため問題とはなっていない。 日本において承認されておらず,ラグが問題となると考えられるものは,posaconazole(侵襲性真菌感染症)およびtelbivudine(B型肝炎)であり, いずれも「未承認薬使用問題検討会議」で取り上げられ,企業に開発要請がなされた。posaconazoleは現在治験が開始されており,telbivudineは治験準備中である。
(3)先天性代謝異常症
先天性代謝異常症治療薬は11薬剤あり,うち臨床的重要度が高い薬剤は10薬剤(海外オリジン9薬剤,日本オリジン1薬剤), 臨床的重要度が低い薬剤は1薬剤(海外オリジン)であった。本領域の薬剤の適応疾患は,ライソゾーム病,尿素サイクル異常症など, 標準的治療が存在しない先天性重篤疾患である。1薬剤(酢酸亜鉛)は,規制当局による開発・審査上の優遇措置を受けていないため, 臨床的重要度が低い薬剤に分類されたが,重篤疾患(ウィルソン病)を対象とした薬剤である。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤の日本での承認割合は55.6%(5/9),承認ラグ中央値は29.9ヵ月であった。 世界初承認時に日本において開発が開始されていたものは9薬剤のうち2薬剤(22.2%,いずれもファブリー病)のみであった。 開発未着手であった7薬剤は,2005年1月に「未承認薬使用問題検討会議」が発足した時点においても開発が開始されておらず, 本会議において開発促進が決定された。
この7薬剤のうち4薬剤は,米国ベンチャーが創製したライソソーム病治療薬であり,いずれもバイオ医薬品である。 3薬剤(laronidase,alglucosidase alfa,idursulfase)についてはライセンサーである海外企業の日本法人が存在しているが, 海外での開発時に日本は世界開発計画に組み込まれていなかった。厚生労働省およびPMDAとの相談は持たれており,日本での治験実施を要求されていたが, 3薬剤とも対象患者数が約100人ときわめて少数であり治験成立困難と考えられたことから,企業による日本での開発着手は遅延していた(企業インタビュー)。 これらの薬剤は,海外での承認後に「未承認薬使用問題検討会議」において取り上げられ,海外データのみで承認されるなどの例外的措置が取られた。 他の1薬剤(galsulfase)については,ライセンサーである海外企業の日本法人が存在せず, 「未承認薬使用問題検討会議」の開発促進決定を受けて開発企業募集が行われ,新たにライセンスを取得した日本企業が申請を行った。 これについても海外データのみで承認されている。
一方,残る3薬剤のうち1薬剤はスウェーデン企業がライセンスを有する薬剤(nitisinone,遺伝性高チロシン血症I型)であるが, 日本での患者は1人のみで企業からの無償提供を受けているという理由から,承認申請を目指した開発は断念されている。 1薬剤(sodium phenbutyrate; 尿素サイクル異常症)については日本企業とライセンサーである海外企業との間でライセンシング交渉が行われている段階であり, 開発着手には至っていない。残る1薬剤(betain; ホモシスチン尿症)については日本での開発企業を募集しているが,いまだ決定していない14)14)厚生労働省. 未承認薬使用問題検討会議. Available from URL:http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html# iyaku [Accessed Oct.10, 2006]。
(4)抗癌剤・免疫調整剤
抗癌剤・免疫調整剤は66薬剤あり,うち臨床的重要度が高い薬剤は44薬剤(海外オリジン41薬剤,日本オリジン3薬剤), 臨床的重要度が低い薬剤は22薬剤(海外オリジン19薬剤,日本オリジン3薬剤)であった。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤の日本での承認割合は53.7%(22/41)であり,承認ラグ中央値は46.6ヵ月であった。 41薬剤のうち,世界初承認時に日本において開発着手がなされていたものは17薬剤(41.5%)であり, 半数以上の薬剤(24/41, 58.5%)について,開発着手の遅れが承認ラグの主要な構成要素であると考えられた。 世界初承認時に日本において開発が開始されていなかった24薬剤のうち,11薬剤は現在までに承認されている。 しかし,開発着手の遅れが影響して承認ラグは大きくなっており(中央値46.6ヵ月),承認ラグが82ヵ月(7年)以上であるものが6薬剤あった。 この6薬剤のうち5薬剤(fludarabine,cladribine,interferon beta-1a,interferon bata-1b,temozolomide)は 研究機関あるいはベンチャーで創製されたものであり,海外でのライセンシングや企業合併を経て, 最終的にライセンサーとなった企業の日本法人あるいはライセンスを受けた日本企業が開発を行っている。
また,世界初承認時に日本において開発が開始されていなかった24薬剤のうち8薬剤は現在も開発未着手である。 これらはいずれも稀少癌を適応とした薬剤であり,うち4薬剤は,「未承認薬使用問題検討会議」において開発促進が決定されたものの, 開発着手に至っていない(alemutuzumab,clofarabine,decitabine,vorinostat)。
臨床的重要度が高い日本オリジンの薬剤3薬剤のうち2薬剤(tamibarotene,tocilizumab)は日本で世界初承認となっているが, 1薬剤(oxaliplatin)は海外での開発が先行し,日本での承認ラグが107.2ヵ月と大きくなった。 本薬は日本オリジンでありながら日本での承認が遅れた例として,2004年ごろ頻繁に報道されていた。 「未承認薬使用問題検討会議」で最初に取り上げられた薬剤でもあることから,IMS R&D Focus,審査報告書,申請資料概要により, 海外および日本での開発状況の詳細を調査した。
oxaliplatinは名古屋大学で創製されたことから日本オリジンとして扱ったが,本薬は医薬品候補化合物として創製された後, 日本企業を経ることなくスイス企業に導出された。海外での開発はフランスで1985年に開始され, スイス企業からサブライセンスを受けた日本企業が1992年に日本での開発を開始した。すなわち開発着手の遅れが約7年生じている。 その後,日本での開発権は別の日本企業に移ったが,最初に行われた治験データは使用できず, 臨床第I相試験から再実施された。また,フランスで結腸・直腸癌一次治療を適応に承認されたが米国では承認されず, 二次治療での開発を再実施したなど,日本での開発戦略に影響を及ぼしたと考えられる経緯もあった。 日本では2004年2月に承認申請が行われ,2005年3月に承認された。審査期間は12.7ヵ月と迅速な審査が行われたが, それまでの遅れは回収不能であり,最終的に承認ラグは9年近いものとなった。 すなわち,oxaliplatinの承認ラグの構成要素として主要なものは審査長期化による遅れではなく開発着手遅延であり,治験長期化による遅れもみられた。
(5)血液系
血液系の薬剤は21薬剤あり,うち臨床的重要度が高い薬剤は10薬剤(海外オリジン9薬剤,日本オリジン1薬剤), 臨床的重要度が低い薬剤は11薬剤(海外オリジン9薬剤,日本オリジン2薬剤)であった。 臨床的重要度が高い薬剤,低い薬剤ともに,本領域の主要な薬剤は血栓症予防薬,貧血治療薬であった。 バイオ医薬品が多いことも本領域の特徴であり,21薬剤のうち8薬剤が遺伝子組換え蛋白製剤であった。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤の日本における承認割合は33.3%(3/9)であり,承認ラグ中央値は64.4ヵ月であった。 世界初承認時に日本において開発が開始されていたものは9薬剤のうち4薬剤(44.4%)であり, 開発未着手であった5薬剤は現在も開発が行われていない。 うち1薬剤(eculizumab,発作性夜間血色素尿症)については「未承認薬使用問題検討会議」において開発促進が決定され,現在治験が行われている。
日本で承認されている3薬剤のうち,2薬剤は血栓症予防を目的とした薬剤(clopidogrel,虚血性脳血管障害の再発抑制;fondaparinux,術後血栓塞栓症発症抑制)である。これらは日本における開発段階において重要な薬剤であると認識され,学会から早期承認要望が提出されていた。clopidogrelについては,海外,日本とも1990年前後に臨床第II相試験が開始されており,日本における開発着手に遅れはなかったと考えられる。しかし,海外データとのブリッジングが認められなかったこと,旧GCP下で実施した試験の信頼性が問題とされたことなどから,国内での臨床開発が長期化し,開発開始から承認申請までに約14年を要しており,審査期間も約23ヵ月と長期であった(IMS R&D Focus,審査報告書,申請資料概要)。臨床開発期間は海外に比べ約7年長く,承認ラグ98.3ヵ月(7.9年)のおもな構成要素は臨床試験の長期化による遅れである。fondaparinuxは,世界初承認時に日本における開発が開始されていたが,海外から7年遅れている。また,ブリッジングによらず相当量の日本人データを収集して承認申請を行っており,臨床開発期間は約5.5年で海外と同程度であった。これら血栓症予防を目的とした薬剤は,重篤有害事象(出血)のリスクがあることから,リスク・ベネフィットを勘案し,日本人患者を対象とした注意深い段階的な臨床開発により相当量の症例数を集積することが求められている。本領域でブリッジング戦略に基づき,海外データを活用して申請を行った薬剤の例はない。また,海外と日本とで予防治療に対する認識が異なっており,日本において血栓症予防薬のニーズが高まってきた時期が遅かったという経緯がある(企業インタビュー)。
(6)神経系
神経系の薬剤は58薬剤あり,うち臨床的重要度が高い薬剤は12薬剤(海外オリジン11薬剤,日本オリジン7薬剤), 臨床的重要度が低い薬剤は46薬剤(海外オリジン39薬剤,日本オリジン7薬剤)であった。臨床的重要度が高い薬剤群にはてんかん治療薬が多く, 臨床的重要度が低い薬剤群(46薬剤)には,偏頭痛治療薬,統合失調症治療薬,アルツハイマー病治療薬が多数含まれていた。
臨床的重要度が高い海外オリジンの薬剤の日本での承認割合は18.2%(2/11)であり,重要治療領域6領域の中でもっとも低かった。 承認されている2薬剤のうち1薬剤(gabapentin,てんかん)の承認ラグは158.6ヵ月,審査期間は27.4ヵ月と大きかった。 もう1薬剤(piracetam, ミオクローヌス)は,欧米では40年前から臨床使用されている薬剤であり, 欧米での承認年月日不明のため承認ラグは算出不能であった。世界初承認時に日本において開発が開始されていたものは11薬剤のうち3薬剤(27.2%)であり, 開発未着手であった 9薬剤のうち6薬剤については現在も日本での開発が行われていない。 うち3薬剤(oxcarbazepine,stiripentol,rufinamide)は「未承認薬使用問題検討会議」で開発促進が決定したてんかん治療薬である。 oxcarbazepineとrufinamideについては企業への開発要請が行われたが,いまだ開発は開始されていない。 stiripentolはライセンサーの日本法人がないため,厚生省が日本での開発企業を募集しているが,現在まで開発を引き受ける企業は現れていない。
承認されているgabapentinについては,海外での開発着手から少なくとも8年遅れて日本での開発が開始された。 臨床第I相試験開始から承認申請までには約11年の長期を要しており,審査期間も27.4ヵ月と大きい。ブリッジングによらず, 評価資料はすべて日本で実施した治験である。海外での臨床開発期間や審査期間は明確ではないが, 本薬の承認ラグ158.6ヵ月(13.2年)の構成要素として主要なものは開発着手の遅れであり, 臨床試験長期化,審査期間長期化による遅れも追加的に発生していると考えられた。
上記のとおり,てんかん治療薬について顕著なドラッグラグが認められ,ラグの主要な構成要素は開発着手の遅れであることが明らかとなった。 その背景に関して臨床医インタビューより以下の情報が得られた。 てんかん治療薬は有効率(発作回数50%以上の減少)が30%程度であることが多く,実際に使用してみるまではその有用性について実感しにくい。 てんかん治療は満足されておらず選択肢が増えることは望ましいが,未承認の薬剤が治療上必須のものであると訴えることは困難である。 成人で承認取得すれば小児に適応外使用を行うことは可能であるため,小児での治験経験が蓄積されてこなかった。 そのため,おもに小児を対象とした薬剤(stiripentol,rufinamide)の治験は積極的に行われないと考えられる。 さらに,てんかんを含む神経科領域では,患者団体が組織的に活動することが少なく, 抗癌剤などのように患者団体が早期承認への働きかけを積極的に行い,メディアが取り上げて社会問題化することが少ない。 疾患に対する社会的認知など文化的背景も関係していると考えられる。
(7)バイオ医薬品
バイオ医薬品はさまざまな治療領域に存在しており,上述の重要領域6領域においていくつかのバイオ医薬品を取り上げた。 本項では,バイオ医薬品のみに着目して詳細を分析した。
バイオ医薬品は69薬剤あり,うち臨床的重要度が高い薬剤は35薬剤(海外オリジン34薬剤,日本オリジン1薬剤), 臨床的重要度が低い薬剤は34薬剤(海外オリジン33薬剤,日本オリジン1薬剤)であった。 臨床的重要度が高い薬剤群には抗癌剤・免疫調整剤が多く含まれる。 臨床的重要度が低い薬剤群には,糖尿病治療薬であるインスリンアナログ製剤(消化器・代謝系), 不妊症治療薬であるFSH製剤(内分泌系),貧血治療薬のエリスロポエチン製剤(血液系)など,さまざまな治療領域の薬剤が含まれていた。 ペグ化インターフェロン製剤やインスリンアナログ製剤など,新規の遺伝子組換え蛋白製剤に修飾を加えた薬剤は規制当局の審査優遇措置を受けておらず, 臨床的重要性の低い薬剤群に分類された。
バイオ医薬品全体では,承認割合は40.6%(28/69)と,新医薬品全体(220/398, 55.3%)と比較して低かったが, 臨床的重要度が高いバイオ医薬品の承認割合は51.4%(18/35),承認ラグは42.9ヵ月と新医薬品全体と同程度であった。 世界初承認時に日本において開発が開始されていたものは35薬剤のうち13薬剤(37.1%)と,全体に比べ低かった。 予測市場規模が100億円以上の薬剤は2薬剤(etanercept,bevacizumab)のみであったが, いずれも世界初承認時に開発未着手であった。開発未着手であった 22薬剤(22/35,62.9%)のうち8薬剤は現在も開発が行われていない。 これには「未承認薬使用問題検討会議」で開発促進が行われた前出のeculizumab,alemutuzumab,vorinostatが含まれる。