[1.アミオダロンによる陳旧性心筋梗塞, 心不全例の生命予後の改善] |
[2.植え込み型除細動器] | [3.心房細動の抑制] |
3.心房細動の抑制
既存の抗不整脈薬による心房細動の再発抑制効果は必ずしも高いものではなく,投薬を継続していても1年間で約半数の例で再発がみられる。心房細動の再発抑制に関してさまざまなIII群薬の効果が検討されており,臨床上の効果が期待できる成績が報告されるようになった。 1. アミオダロン アミオダロンは心室性不整脈ばかりではなく心房細動の抑制にも有効である。400例あまりを対象に心房細動の再発抑制効果をソタロールあるいはプロパフェノンと比較したところ,心房細動再発までの期間(中央値:>465日対98日,p<0.001),1年後の非再発率(69%対39%,p<0.001)ともアミオダロン投与群の方が優れていた16)。 心不全例を対象にアミオダロンとプラセボの生命予後改善効果を比較したCHF-STATの層別解析17)では,試験開始時に心房細動であった例ではアミオダロン投与群とプラセボ投与群で生命予後に差はなかった。しかし,アミオダロン投与例ではプラセボに比べ洞調律への復帰例が多く(31%対8%,p=0.002),心房細動の発生率は低かった(4%対8%,p=0.005)。しかもアミオダロン投与例のうち心房細動から洞調律になった例では心房細動のままの例に比べて生命予後が良いという結果が示された。 わが国の保険適応では心房細動は肥大型心筋症に合併するものに限られているのが現状である。他の抗不整脈薬に比べて心房細動の抑制効果が優れているアミオダロンの効能追加が待たれる。 2. ドフェチリド 遅延整流K電流の遮断薬であるドフェチリドは心機能を抑制する作用(陰性変力作用)がない。DIAMOND試験はこのドフェチリドの効果を症候性の心不全例(NYHA心機能分類III〜IV)についてプラセボと比較した18)。18ヵ月(中央値)の追跡期間中の死亡率には差はなかったが(41%対42%),試験開始時の心房細動の洞調律化が有意に多く(12%対1%,p<0.001),心不全による入院(30%対38%,p<0.001)や洞調律例での心房細動発生(2%対6.6%,p<0.001)は有意に少なかった。 急性心筋梗塞後の心不全例について同様の検討を行った結果19)でも,死亡率にドフェチリド群とプラセボ群で差はなかったが,ドフェチリド群で心房細動の洞調律化が有意に高率で(42%対13%,p=0.002),洞調律例の心房細動発生を抑制する傾向を示した(0.7%対2%,p=0.09)。 ドフェチリドは心筋梗塞の有無にかかわらず心不全例の死亡率には影響しないが,心房細動の発生や心不全による入院を抑制し,心房細動を洞調律化する効果が示された。しかし,上記のいずれの試験においてもtorsade de pointesの発生がドフェチリド群のみに認められたことは注意すべきであり,本薬剤のもつ限界と思われる。 この成績に基づいてACC/AHAのガイドライン20)はドフェチリドを心房細動の除細動に有効な薬剤(クラスI)として記載している。しかし,ドフェチリドの臨床開発はわが国においては中止されてしまった。 3. その他の薬剤 アジミリド(遅延整流K電流の活性化の速い成分と遅い成分の両方の抑制)もイブチリド(遅延整流K電流の抑制作用以外に遅い内向きNa電流の活性化)もIII群作用を有しており,心房細動・粗動に対して有効性が認められているが,ドフェチリドのような大規模な前向き試験はない21,22)。イブチリドは米国で適応が承認されており,ACC/AHAのガイドラインでもクラスIとして記載されている。 4. リズムコントロール(洞調律化)とレートコントロールの比較 心房細動では塞栓症の危険を伴い,また心機能の低下がみられるので,洞調律化が理想の治療である。しかし,洞調律化できない例や再発の抑制が困難な例も少なからず存在する。このような例に対しては心拍数をコントロールして,塞栓症の発生を予防する治療を行うこととなる。 リズムコントロールとレートコントロールの比較試験が現在進行中である(AFFIRM試験)23)。少数例を対象に両者の効果を比較した成績24)では,6分間歩行距離で評価した運動耐容能はリズムコントロール群(アミオダロンによる)で勝っていたが,QOLの指標は両者で差はなかった。入院や副作用による投薬の中断はリズムコントロール群(アミオダロンによる)で高率であった。 AFFIRM試験では両者の費用対効果についても比較される予定となっている。今後は医学的なエンドポイントに対する効果ばかりでなく,費用に見合う効果が期待できるか否かについての検討も必要となってくる。参考までに,われわれの後ろ向き研究での成績を紹介すると,抗不整脈薬による発作性心房細動治療に比べてジギタリスを中心とするレートコントロール+ワルファリンによる抗凝固療法の方が1例の塞栓症発生を抑制する上で費用対効果が優れていた25)。 |