臨床研究の動向2002_ONLINE JPT
不整脈臨床研究の動向
[1.アミオダロンによる陳旧性心筋梗塞,
心不全例の生命予後の改善
]
[2.植え込み型除細動器] [3.心房細動の抑制]


 不整脈の臨床研究は,1980年代後半のCAST1)においてIc群薬が心室期外収縮のある陳旧性心筋梗塞例の生命予後をかえって悪化するという結果により,大きく様相を変えた。I群薬に代わりIII群薬の有効性が期待されたが,d-ソタロールをプラセボと比較したSWORD試験2)では,実薬群で死亡率が有意に高いことが判明し,18ヵ月間追跡する予定が平均観察期間148日の時点で中止された。以上のように心室性不整脈の抑制によって生命予後の改善(多くの場合,陳旧性心筋梗塞例について)を図る目論見は,I群薬とIII群薬(Ikr遮断薬)については失敗に終わったといえる。

 この事実は,いわゆる重症の心室期外収縮(Lown分類の3以上)を合併した陳旧性心筋梗塞例ではこれらを合併しない例に比べて生命予後(突然死を含めた)が悪いが,心室期外収縮が生命予後に直接影響しているのではなくむしろ生命予後の悪いことのサインであることを示唆している。そして,心室期外収縮を抑制するために投与された抗不整脈薬の催不整脈作用によってかえって生命予後が悪化したと理解されている。

 最近の不整脈に関する臨床研究は,(1)アミオダロンによる陳旧性心筋梗塞例あるいは心不全例の生命予後改善,(2)植え込み型除細動器を用いた重症心室性不整脈例の生命予後改善,(3)アミオダロンや新しい抗不整脈薬による心房細動抑制,を中心に展開されてきている。

1.アミオダロンによる陳旧性心筋梗塞,心不全例の生命予後の改善

 アミオダロンは他のIII群薬とは異なり,K電流の遮断以外にNa電流やCa電流の遮断作用,β遮断効果を有しており,実際のところこれらのどの作用が以下に述べる有効性の原因となっているのかは必ずしも明らかではない。アミオダロンの効果をプラセボなどと比較した前向き試験を表1にまとめた。試験によって対象となった病態が異なり(表2),またエンドポイントも異なっており(表3),不整脈抑制試験ではなく心不全に対する試験といった性格のものもあり,結果の解釈に当たっては注意が必要である。

表1 アミオダロンを用いた大規模比較試験
試験名 症例数 対照の治療法
BASIS 4)
PAT*
CASCADE¶
CASH 8)
GESICA 6)
EPAMSA 7)
CHF-STAT 5)
CAMIAT†
EMIAT‡
312例
613例
228例
288例
516例
106例
674例
1202例
1486例
キニジン、メキシレチン、抗不整脈薬なし
プラセボ
電気生理検査などで有効な抗不整脈薬
メトプロロール、除細動器植え込み
抗不整脈薬なし
抗不整脈薬なし
プラセボ
プラセボ
プラセボ
*J Am Coll Cardiol 1992;20:1056-62.
¶Am J Cardiol 1993;72:280-7.
†Lancet 1997;349:675-82.
‡Lancet 1997;349:667-74.

 

表2 アミオダロンの大規模試験の対象
1) 心室性不整脈合併例(心停止からの蘇生例を含む)
BASIS,CASCADE,CASH,CAMIAT
2) 心機能低下例
GESICA,EMIAT
3) 心室性不整脈+心機能低下例
EPAMSA,CHF-STAT
4) 心筋梗塞後
  PAT
註:1),2),3)の対象には心筋梗塞以外の症例も含まれている。
表3 アミオダロンの大規模試験のエンドポイントと結果
1) 心臓死抑制
あり BASIS,PAT,CASCADE
なし CHF-STAT,GESICA,EMIAT,CAMIAT
2) 不整脈死抑制
あり CASCADE,EMIAT
なし BASIS,PAT,EPAMSA,CHF-STAT,GESICA,CAMIAT
3) 不整脈事故(死亡以外に蘇生例,心室細動・頻拍の再発を含む)
あり BASIS,CAMIAT
なし PAT,EPAMSA,CHF-STAT

 アミオダロンの効果を検討した試験をまとめて解析した成績(図13))では,全死亡,不整脈死ともアミオダロン投与群で有意に抑制された。ただし抑制効果はそれほど強いものではない。アミオダロンの効果について臨床背景による層別解析の結果では,(1)左室機能低下例(たとえば駆出分画<40%)では有効性が低く(BASIS4)),(2)虚血性心疾患に比べて非虚血性心疾患例で有効性が高い傾向があり(CHF-STAT5)),(3)投与前の安静時心拍数が多い(90/分以上)例で有効性が高く(GESICA6)),(4)経過中に心拍数が低下している例で有効性が高い(GESICA6))ことなどが示されている。非虚血性群でアミオダロンの効果が期待できることは,非虚血性心疾患が多く対象に含まれる試験(EPAMSA7),GESICA6))で,死亡率(全死亡,心臓死)がプラセボに比べて良かったことと関係している可能性がある。

図1 全死亡と不整脈死/突然死についての
アミオダロンと対照の比較
アミオダロンによっていずれの死亡率も低下するが,その程度は軽い。文献3より引用。

 

 これまでに報告されたアミオダロンの特徴は以下のようにまとめることができる。
(1)生命予後改善効果がある(しかし,それほど強力なものではない)。
(2)心機能改善効果が期待できる(しかし,この効果は生命予後改善効果に結びつかない)5)
(3)また心機能低下例では必ずしも生命予後改善効果が期待できない。
(4)臨床背景(基礎疾患,心拍数など)によって効果に差がみられる。
(5)催不整脈作用(torsade de pointes)はまれである。
(6)副作用で投与が中断される例が決して少なくはない3)

 

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