8.その他今後期待される治療

 心不全患者では血中あるいは心臓組織においてTNF-α等のサイトカインのレベルが上昇しており,心肥大やapoptosis等を介した心室リモデリングを含め,心不全の病態形成に大きく関与していることが示唆されている。たとえば,心不全患者では血管内皮機能障害が認められるが,これにはTNF-αによる血管内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現低下,apoptosis促進が関与することが示唆され14),また心不全患者に左室補助装置(LVAS)を装着し左室負荷を軽減すると左室TNF-αの産生が低下し,LVASの離脱が可能となり心移植を要しなかった症例ほど,その低下が大であることが示された15)。したがって,TNF-αの不活化が心不全治療として有効ではないかと考えられ,TNF-αに結合し不活化する作用を有する可溶性TNF受容体であるetanerceptの心不全治療における有効性が検討されている。Deswalらは,etanercept投与に副作用が認められず,QOLの改善,6分間歩行距離の増加,左室駆出率の改善等が認められたことを報告した16)。今回は単回投与で,観察期間も14日と短く,対象症例も少ないことから,より多くの症例における長期的な検討を行っているRENAISSANCE試験の結果が待たれる。

 近年注目されているのが,スーパーオキシド(O2)やヒドロキシラジカル(OH)等の活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)による酸化ストレスの亢進と心不全増悪の関連である。Ideらは,心不全モデルを用い,不全心筋細胞ではROS産生が亢進しており,ROSレベルが上昇するほど左室収縮能が低下していることを明らかとした17)。サイトカインやカテコラミンがROSの産生を亢進させることが報告されており,また,上述したβ遮断薬であるcarvedilolには抗酸化作用があり,これが心不全症例における予後改善効果をもたらしている可能性が示唆されている。酸化ストレス制御の心不全治療としての有用性について,これからの研究の進展が期待される。

 BNPは心不全患者では心室における産生が亢進し,血中レベルが上昇する。心不全患者の重症度,予後を反映する血液マーカーとしてのBNPの有用性については,これまでに多くの報告がなされているが,BNPのautocrine/paracrine factorとしての心臓内における病態生理的な役割は不明であった。われわれはBNPに左室拡張機能改善効果があることを示し18),Tamuraらは,BNPのノックアウトマウスを用いた実験から,圧負荷に反応して亢進する心室の線維化を,BNPが抑制することを示した19)。BNPの急性心不全治療への臨床応用が始まっており20),ナトリウム利尿ペプチド分解抑制作用を有するomapatrilatの慢性心不全治療効果を検討する大規模試験であるOVERTURE試験が進行中である。BNPは単なる心不全のマーカーから,心不全治療戦略のkey effectorへと,その重要性を増すものと考えられる。

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