この稿では初心者ユーザーを想定して,(1)臨床上の疑問・問題解決方法におけるコクランライブラリThe Cochrane Library(以下CL)の位置づけ,(2)実際の事例を通じてCLの構造及びその操作方法(特に検索),(3)代表的なデータの見方とその留意点について述べる。本稿の作成にあたっては,Users’ guide[1],CLトレーニング用資料(http://www.york.ac.uk/inst/crd/cochlib.htm),ワークショップ資料[2]及び参加者からの意見[3]と筆者の経験より作成した。誌面 の都合上,詳細な説明は不可能であるので上記資料を参考にされたい。
まずコンピュータ(Windows),CD-ROMドライブ付きが必要である。インターネットが利用できればなおよい。 それにCLである。CLはCD-ROM(2枚組みで約830MB),年4回発行で約30,000円である。1998年後半からインターネットでの利用も可能になった(年間契約)。 Macintoshユーザーには,Mac版CD-ROMがないためインターネット利用,Windowsを動かせるソフトまたは機器購入を勧めている。詳細は http://www.cochrane.org/cochrane/macuser.htmを参照されたい。
コクラン共同計画では臨床家(医師・歯科医など),薬剤師,製薬企業,統計学者・研究者,行政・政策立案者,患者,つまりヘルスケアの決断に関係するすべての人をユーザーとして考えている。日常業務の中での問題・疑問の解決には,人や紙媒体や電子媒体などのさまざまな情報源を使う。CLはその中のひとつにすぎない。しかしその内容の質・量 において他のデータベースより優れており,治療や予防といったヘルスケア上の介入行為の有効性に関する疑問の解決に最適である。表1に疑問の内容と利用者とエビデンスの研究デザインの一覧表を示したので,ガイドマップとして全体像を理解してほしい。
表2 疑問の定式化と各言語・用語への変換(例) | ||||
疑問3要素 | 日本語 | 医学英語 | 調査確認後 | MeSH |
Patient | 急性中耳炎 | Acute otitis media | Otitis media | Otitis media |
小児 | Child | Child | ||
Exposure | 抗生剤 | Antibiotics | Antibiotics | |
セフゾン | Cefzon | Cefdinir | Cephalosporins | |
Outcome | 鼓膜所見 | Tympanic membrane | Tympanic membrane | Tympanic membrane |
症状 | Symptom | |||
発熱 | Fever | Fever | ||
痛み | Pain,earache | earache | ||
浸出性中耳炎 | ? | OM with effusion | OM with effusionでOtitis mediaの下位 | |
穿孔 | Perforation | TM Perforation | ||
切開回避 | ? | 保留 | 保留 |
注)この表は筆者が作成したもので,当初分からなかった語句に は「?」とした。調査しても不明の語句は“保留”とした。
CLの中のデータのうち,Medline経由で収載されたものはMeSHが付けられている。しかし,それ以外のデータには付けられていない。実際の操作を図1に示す。「Search」を選択し「MeSH」を選択して語句(otitis)を入力し,右側の「Thesaurus」を押すと到達できる。中耳炎のMeSHはOTITIS-MEDIAでTreeは1つで,下位 には3つのMeSHがあった。この状態で画面下の「Explode in all trees」を選び「Search」を押す。
CLの基本画面 (図2)を紹介する。画面は左側にToolbar,上にIndex window,下にDocument windowの3つからなる。Toolbarは上から「Search」,「Clear」,「 Print+Save」,「Setup」,「Handbook」,「Glossary」,「Help」,「Exit」の各ボタンがある。Index windowには各データベース名とその所有データ数が表示されている。をダブルクリックすると詳細が表示される。Document windowではIndex windowで選択された文献が表示される。左上の3つのボタンで表示サイズが変更できる。また,右上の「Outline」ボタンを押すと選択されている文献の特定の場所へ移動可能であるし,「Find」ボタンにより文献内の語句検索が可能となる。
CLの特定のデータベースのサブセットだけの検索はできない。数字や3文字以内の語では検索できない。すべての文字情報が検索対象となる。「*」はワイルドカードと呼ばれ文字列の最後につけて前方一致検索が可能となる。AND、OR、NOTによる検索式作成が可能。2語以上の熟語の検索では“”またはNEXTを使用する。NEARで結んだ熟語では互いが6語以内にあるデータを検索することもできる。
CLには「Simple Search」と「Advanced Search」の2つの検索方法(図3)がある。
「Simple Search」では,textwordやANDなどの簡単な検索式を使った検索が可能で非常に迅速である。また「New」か「Updated」の限定も可能である。
「Advanced Search」では,キーワードのリストアップ機能やMeSHを利用した検索や出版年・タイトル・著者などを限定した複雑な検索が可能である。複数の検索式の論理式を使った検索も可能である。どちらを選択するか迷うところだが,私は後者をお勧めする。
(1)標準的な検索式は表2で調べた語句を基にして,論理和で組み合わせることが多い。
#1 | (Patientのtextword)OR“Patientの熟語”OR(PatientのMeSH) |
#2 | (Exposureのtextword)OR“Exposureの熟語”OR(ExposureのMeSH) |
#3 | (Outcomeのtextword)OR“Outcomeの熟語”OR(OutcomeのMeSH) |
#4 | #1 AND #2 AND #3 |
Evidence-based Medicineで重視する研究デザインの検索語句は,CLの検索では使わない。条件を細かく設定しすぎると手間もかかるしヒットする件数が少なくなるため#1 and #2にとどめておくことが多い。
(2)時間がなく,迅速に調べたい場合には「Simple Search」で中心となる語句を入れる方法をお勧めする。その際中心となる語句の見極めが重要で,この場合Otitisである
「Advanced Search」で(1)の検索式を利用した。注意事項として複数の検索式をAND、ORで結びたいときにはマウスで選択してボタンを押すが, 離れている検索式を選択するときには「Ctrl」キーを押しながら選択する必要がある。結果 を図4に示す。ヒットした件数が赤い数字で表示される。 The Cochrane Database of Systematic Reviews(CDSR)の中にコクランレビュー(Complete)が5件あり,タイトルで判断すると1999年3月に「Update」されたばかりのコクランレビュー [4]があった。ダブルクリックして本文を提示して確認した。
図5に示すように「Outline」またはマウスの右ボタンをDocument windowで押すと,本文の小項目が出てくるので便利である。抄録を簡単に読んだ後に,「Summary of analysis」を押して「MetaView : Tables and Figures」を押すと,オッズ比の図表(図6)が表示される(注:MetaViewの画面 は本文と一括して印刷ができない。その都度印刷指示が必要)。
左側にアウトカムが表示され,Pain, Abnormal TympanometryについてはSubgroup analysis onlyの表示で,ほかはオッズ比と95%信頼区間が図示されている。更にPainの箇所をアクティブにしてクリックすると詳細(図7)が見られる。24時間の痛みは4つの研究から結果 が,2〜7日目の痛みは8つの研究から解析されている。横棒(95%信頼区間)は,介入群及びコントロール群の例数が大きい研究では短く,また各研究のウエイトを示す。■も基本的には大きくなる。解析に用いられた研究の詳細は,右ボタンで「Characteristics of the studies」をクリックして,「Table: Characteristics of included studies」をクリックすると,詳細がメニュー形式で表示されている。各研究で用いられた抗生剤の種類・投与期間の詳細が判明する。アモキシリン,ペニシリン,エリスロマイシンがほとんどであった。本文には「抗生剤は確かに経過を短くする。しかし大多数は合併症もなく治癒する。治療必要数は約20人。ゆえに鎮痛剤に関する助言や抗生剤の限界について強調すべきである」と述べている。このようにCLでは結果 から言えることに忠実かつ中立に述べる姿勢をとる。臨床ガイドラインなどとの明確な相違点でもある。ユーザーに求められることは,本文と図表のどちらか一方のみをうのみにするのではなく,両方を必ずセットで見て判断する姿勢である。
今回のコクランレビューを自分なりに吟味してぜひとも意見を述べたいという人はDocument windowの上にある「Comments/Criticisms」ボタンを押してみよう。末端のユーザーからのフィードバックを受けるシステムで, 的を射ていれば次回更新されるときに引用される。 http://www.cochrane.de/cc/cochrane/currcrit.htm#219で閲覧できる。
「Save and Load」ボタンを押して,検索で使用した検索式及び検索結果の保存を行う。検索式の名称を英語で入力すると保存される。次回以降のCLで検索するときに再度検索式を呼び出して実行できる。またテキストファイルとして入・出力できる。実際の文字入力と保存された検索歴の表示とは一部異なる。
印刷したい文書をDocument windowに表示して「Print+Save」ボタンを押す。印刷する文書と長さを指定する。文書の中の印刷範囲指定はできない。全文印刷は非常に長い。Textfileとして保存したい場合は「Save」を選択してファイル名を8文字以内で入力しドライブを指定してOKをクリックする。コピー&ペースト機能を使い選択範囲のテキストデータの編集が可能である。また「Summary of analysis」の「MetaView」の画面と「Tables of characteristics」は別途印刷する必要がある。どうしても画像として保存したい場合には希望する画面 をアクティブにして,コンピュータの「Alt」キー+「Print Screen」キーを押すことでコピーができる。ワープロソフトでペーストして加工する。
検索を終了したいときにはtoolboxの「Clear」ボタンを押す。CLを終了したいときには「Exit」ボタンを押す。
コクランレビューの別刷り請求サービスが1999 Issue3より開始され,一部3ポンド(200部以上)である。インターネット上でCDSR(プロトコール含む)のアルファベット順の項目のガイドsubject guide( http://www.cochrane.org/cochrane/whatcdsr.htm)が利用できる。2000年Issue1より消費者向けのコクランレビューの要約一覧表SynopsisがCLに収載される予定[5]である。
EU各国ではインターネットでの利用が財政的援助を受けて団体・国レベルで急速に進みつつあるという[5]。我が国のユーザーは初めに述べたような幾つかの障壁を抱えて個人レベルでの努力を行っている。CDSRのabstractの日本語訳のプロジェクトは進行中であるが,公的な資金を用いるなどして,更に組織的に取り組むことにより,質の高いエビデンスの流布が進むことが望まれる。