>   >   >   >  コクラン共同計画の活動
■JPT ONLINE■
コクラン共同計画(1)
コクラン共同計画の活動

東京医科歯科大学難治疾患研究所 情報医学研究部門(臨床薬理学)助教授
Cochrane Collaboration)
代表 津谷喜一郎 Kiichiro Tsutani
JANCOC
廣瀬美智代 Michiyo Hirose

1 「コクランの夢」の実現へ向けて

 “エビデンスに基づく医療”(evidence-based medicine:EBM)を実践するための, 最も有用な情報源のひとつが,コクラン共同計画(The Cochrane Collaboration)のアウトカムであるThe Cochrane Libraryである。
 これは,英国の医師で疫学者であるアーチボルド・コクラン(Archiebald Cochrane, 1909〜1988)の提唱にこたえたものといえる。彼は著書『効果と効率』(1972) [1]の中で, 「ヘルスケアに関してより十分に説明されて決断したい人たちが,入手可能なエビデンスに基づく信頼できるレビューにアクセスできないでいる」と述べている。 さらに,「トピックごとに,すべてのRCTを,定期的にクリティカルにまとめ最新化していないことに関して, われわれ専門家は批判されるべきである」(1979) [2]とも書いている。これが達成されることを「コクランの夢」と呼んだりする。
 エビデンスのレビューがシステマティックに行われ,つねに更新されなければ,ヘルスケアの効果 は適切に知らされず,ヘルスサービスは誤って提供されるだろう。さらに,こうしたレビューがなされなければ, 新たな臨床試験は情報不足のために正しい方向を誤り, また,不必要に被験者が使われることになり,貴重なリソースが無駄使いされることになろう。
 コクラン共同計画は,こうしたニーズにこたえるThe Cochrane Libraryを作成している組織である(図1,2)。 世界中のボランタリな尽力により急速に発展している。

fig1_1 エビデンスを…
・つくる: 臨床試験
・つたえる: コクラン共同計画
・つかう: ユーザー
図1 コクラン共同計画のロゴ 図2 エビデンスにかかわる
3つの立場

 コクラン共同計画は,ヘルスケアの介入の有効性に関するシステマティック・レビューを“作り”(prepare),“手入れし”(maintain),“アクセス性を高める”(promote the accessibility)ことによって,人々がヘルスケアの情報を知り判断することに役立つことを目指す国際プロジェクトである。NPO(非営利団体)の形態をとる。

 コクラン共同計画は,1992年に英国政府が国民保健サービス(National Health Service:NHS)の支援のための研究調査機関としてUKコクランセンターを設立したのに始まる。 このプロジェクトの趣旨に賛同するものにより,世界13カ国15カ所にコクランセンターが設立されている。 各コクランセンターの設立の母体はさまざまであるが,コクラン共同計画全体の組織とその展開については,毎年開催されるコクランコロキアムなどで討議され運営されている(表1,図3)。

表1 コクラン共同計画の主な活動
1992年12月 UKコクランセンター(英国,オックスフォード)設立
1989-1992年 CCPC(The Cochrane Collaboration Pregnancy and Childbirth:FD版)が発刊され,周産期領域のシステマティック・レビューの結果 がデータベース化され,利用可能となった。
1993年10月15-16日 第1回コクランコロキアム開催(英国,オックスフォード) 
1994年10月1-4日 第2回コクランコロキアム開催(カナダ,ハミルトン)
1994年11月5日 日本におけるネットワークとしてJANCOC(The JApanese informal Network for the COchrane Collabo-ration)設立
1995年4月 CDSR(The Cochrane Database of Systematic Reviews:FD版)が発刊され,すべての医学領域が含まれたシステマティック・レビューの結果 が利用可能となった。
1995年10月4-8日 第3回コクランコロキアム開催(ノルウェー,オスロ)
1996年4月 The Cochrane Library(CD-ROM版とFD版)が発刊された。 これまでのCDSRを含む関連のデータベースと関連情報を収載
1996年10月19-23日 第4回コクランコロキアム開催(オーストラリア,アデレード)
1997年10月19-23日 第5回コクランコロキアム開催(オランダ,アムステルダム)
1998年10月22-26日 第6回コクランコロキアム開催(米国,ボルチモア)
1993年以降 コクランセンターは各地で設立された。設立年順で,英国,カナダ,ノルディック(デンマーク), オーストラリア,イタリア,オランダ,サンフランシスコ(米国),サンアントニオ(米国),フランス,ニューイングランド(米国), ブラジル,南アフリカ,ドイツ,スペイン,成都(中国)の15カ所にある。(1999年7月現在)

図3 コクラン共同計画のホームページ
(日本のミラーサイトのhttp://www.nihs.go.jp/acc/default.htmlから)

2 活 動

■The Cochrane Library

 コクラン共同計画の主たるアウトカムである。 The Cochrane Libraryには,システマティック・レビューのデータベース(CDSR)やランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)などのデータベース(CENTRAL)が含まれ,みずからが設定した疑問点に関するエビデンスの有無を手早く知ることができる。CD-ROMまたはインターネットを通 じて発行され,年4回更新されている(表2,3)。

The Cochrane Libraryはコクラン共同計画が行ったシステマティック・レビューの結果 を含め6種類のデータベース・サブセットを収載している(表1)。システマティック・レビューは,進行中を含めすでに1,000件を超えるが,レビューが終わったものはこの抄録部分が英語版,日本語版ともホームページで無料で公開されている(表4)。

 システマティック・レビューとは,ある医学的介入についてのエビデンスを明らかにするために,世界中からの臨床試験をあらかじめ定めた基準で網羅的に収集し,批判的吟味を加え,要約するための方法である[3]。RCTをメタアナリシスを用いて統合したシステマティック・レビューは,エビデンスの強さでは最上位 に位置づけられる。

表2 The Cochrane Libraryとそのデータベース
The Cochrane Libraryは年4回発行され,6種類のデータベースを収載している。
1999年issue 2収載のデータ件数を示す。
  1. コクランデータベース“システマティック・レビュー”
      The Cochrane Database of Systematic Reviews(CDSR)
      1,114件(進行中を含む)
  2. 有効性に関するレビュー抄録のデータベース
      Database of Abstracts of Reviews of Effectiveness(DARE)
       1,956件
  3. コクラン比較臨床試験登録データベース
      The Cochrane Controlled Trials Register(CENTRAL/CCTR)
       224,319件
  4. コクランレビューの方法論に関するデータベース
      The Cochrane Review Methodology Database
       956件
  5. コクラン共同計画について
      About the Cochrane Collaboration
       91件
  6. 関連情報
      Other sources of information
       1,441件
表3 The Cochrane Libraryのお求め,お問い合わせ先
Update Software Ltd.(英国)
 Summertown Pavilion, MiddleWay, Oxford OX2 7LG, UK
 tel : +44 1865 513902, fax : +44 1865 516918
 e-mail: info@update.co.uk
 URL: http://www.update-software.com
南江堂洋書部(日本) tel(03)3811-9950, fax(03)3811-5031
 e-mail: yoshohp@nankodo.co.jp

■ランダム化比較試験の国際登録

 The Cochrane Libraryには,RCTを中心とした臨床試験のデータベースであるCENTRALが含まれる。
 CENTRALは,RCTなどの論文の書誌事項を掲載したデータベースである。電子的データベースであるMEDLINE(米国国立医学図書館作成)あるいはEMBASE(エルゼビア社作成)から電子的に検索されたもの,さらにハンドサーチによって確認されたものなどを収載している。収載されている文献数は22万件余(The Cochrane Library 1999 issue 2)である。この書誌事項には,コクラン共同計画がハンドサーチによってRCTと確認した論文,CCTの論文,確認未実施(not assessed)の別が記載されている。電子的に検索された分については順次ハンドサーチによって確認作業が行われ,データが更新されている。
 コクラン共同計画では,ハンドサーチとは,RCTの論文をもれなく確認するために,論説記事,投稿文などを含めて,雑誌を1ページ1ページ手作業で,計画的に検索することを指す。
 コクラン共同計画は,英語文献に限らず,国際的にRCTなどの収集を行っているが,各国で電子的検索またはハンドサーチによって見つけだされた臨床試験の書誌情報がまず,CENTRALに掲載される。一定のquality controlのプロセスを経たものはCochrane Controlled Trials Register(CCTR)というデータベース・サブセットに入る。コクラン共同計画の国際的なRCTの検出作業によってRCTやCCTと判定されたもののうち,すでにMEDLINE収録の論文については,その書誌情報にRCTやCCTの情報を書き加える作業が,米国国立医学図書館との協定により1996年から行われている。
 このように,RCTなどを国際登録することにより,“エビデンス”を求める人やシステマティック・レビューを行う人がRCTを探しだす負担を 軽減することができる。

■活動方針

 コクラン共同計画の活動は9つの方針に基づいている。
(1)共同計画は,内部でも対外的にもコミュニケーションが良く,開かれた意志決定とチームワークに支えられている。
(2)個人の熱意に基づき,それぞれの技能や立場の人たちが動き,支えている。
(3)作業の重複を避けるために,成果を最も生かせるよう運営とコーディネートに努める。
(4)バイアスを最小にするために,科学的厳格さや,広範囲からの参加を保証し,利害の摩擦を避けるなど,さまざまな取り組みをする。
(5)つねに新しくあるために,コクランレビューは新しいエビデンスを探し,それを組み込み続けている。
(6)今日的課題に焦点をあてるために,人々がヘルスケアのあれこれを選ぶために重要なアウトカムを用いて,ヘルスケアの介入の評価を推進する。
(7)アクセスを確保するために,コクラン共同計画の成果を,既存の組織やシステムと提携し,世界中のユーザーに適正な価格,内容,媒体で届ける。
(8)確かな質のために,批判は受け入れ,またそれに答え,方法を進歩させ,質の改善のためにシステムを開発する。
(9)継続するために,レビュー,編集プロセス,重要な機能に関する責任は確実に維持し更新する。

3 コクラン共同計画の構成

 各国の人々は,共同レビューグループ,方法論作業グループ,フィールド,コンシューマー・ネットワークなどに参加し,各国内と管轄国のサポートはコクランセンターが,全般 の運営は運営委員会が行っている。

■共同レビューグループ(Collaborative Review Group:CRG)

 コクラン共同計画の主な作業は,約50の共同レビューグループが行い,コクランレビューが作られ,手入れされている。グループのメンバーは,研究者,ヘルスケア従事者,ヘルスサービスを受ける人(コンシューマー)などだが,予防,治療,リハビリに関する個別 ないし複数の問題について,信頼性のある,最新のエビデンスを作るために集まっている。
 共同レビューグループはコクラン共同計画の目的にどのように貢献するかを簡単に述べたプランを用意する。このプランには,グループ作業の計画,コーディネーション,モニタリング(編集コーディネータや,編集チームが補佐する)の責任者を記載する。また,グループが対象とする分野に関連する可能なかぎり多くの研究を検出し,特定のレジスタに収集する方法,また,そのレジスタにある研究を用いてレビューを作り,続ける責任者を記載する。グループごとにグループの日々の活動を組織し管理する,レビューグループコーディネータを任命する。
 共同レビューグループの作業は,方法論作業グループ,フィールド,コンシューマー・ネットワーク,各コクランセンターに支えられ,具体的なトピック(コクラン共同計画ではtitleと呼ぶ)について,それぞれレビューアーがレビューを行う。

■方法論作業グループ(Methods Working Group:MWG)

 コクラン共同計画が用いているような,研究を統合する科学はまだ揺籃期にあり,急速に発展している。方法論作業グループは方法論を開発し,コクラン共同計画に対しシステマティック・レビューの妥当性や精度を改善する方法を提言する。例えば,解析方法作業グループは各種データを統計的に統合する方法を評価し,適応と勧告の方法作業グループはレビューの結果 に基づいて診療への示唆に関する結論を引きだすという大切な課題を探求している。

■フィールド(Field)

 フィールドは,疾患などのヘルスの問題点ではなく,ケアの設定(例えば,プライマリケア),コンシューマーのタイプ(例えば,高齢者),介入のタイプ(例えば,代替医療)に焦点をあてたものである。フィールドのメンバーは,関連する研究の専門家の情報を検索し,そのフィールドでの優先度と見通 しが共同レビューグループの作業に反映されているのを確認する手助けをし,特別 なデータベースを編集し,外部の関連団体との活動を調整し,各領域に関連したシステマティック・レビューにコメントする。

■コンシューマー・ネットワーク(Consumer Network)

 コクラン コンシューマー・ネットワークは,コクラン共同計画に参加しているコンシューマーに情報とネットワークのフォーラムを提供し,世界中のコンシューマーグループの連絡係となっている。

■コクランセンター(Cochrane Center)

 各共同レビューグループ,方法論作業グループ,フィールド,コンシューマー・ネットワークの作業は,世界各地の15のコクランセンターの作業によって,さまざまに促進されている。コクランセンターは教育研修などの分野でコクラン共同計画のメンバーのコーディネートを助けたり,サポートをし,各国・地域においてコクラン共同計画の目的達成を推進する。

■運営委員会(Steering Committee:SC)

 登録された共同レビューグループ,方法論グループ,フィールド,コンシューマー・ネットワーク,各コクランセンターは,コクラン共同計画運営委員会のメンバーの選出と年次総会にあたり,投票の資格がある。運営委員会は12名で,年2回(例年10月のコクランコロキアム時と2月)会合する。この2回の会合のほかにも,各種の作業部会は電話会議で定例会を行う。運営委員会の決定は,コクラン共同計画企画書に計画された目標と目的にしたがって行われる。

■事務局

 運営委員会および各作業部会は,英国にある小さな事務局がサポートしている。

■支援者と支援団体

 コクラン共同計画の作業は,各国の各種団体や基金により支えられており,これについてはThe Cochrane Libraryに謝辞を掲載している。

4 JANCOC

 日本においてはコクランセンターの設立に至っていないが,The Japanese informal Network for the Cochrane Collaboration(JANCOC,代表津谷喜一郎)が1994年に設立されている[7]
 JANCOCは,緩やかな人的ネットワークであり,コクラン共同計画の日本への普及・啓発活動を主に行っている。
 インターネットで情報を発信しているので,ホームページをご覧いただきたい(表4)。また,2種類のメーリングリストで情報の交換と提供を行っている。

表4 インターネット上の情報
コクラン共同計画全体
 http://hiru.mcmaster.ca/cochrane/
Cochrane Review Abstract
 http://www.nihs.go.jp/acc/cochrane/revabstr/mainindex.htm
(日本のミラーサイト)
コクランレビュー抄録集(日本語版)
 http://www.nihs.go.jp/dig/cochrane/jp/revabstr/jp/abidx.htm
最新版は原文(英語)を参照

日本語で知るコクラン共同計画としては,
 http://cochrane.umin.ac.jp/
(JANCOCホームページ)

これまでの主な活動内容とこれからの展望は以下のようである。
(1)セミナーなどの開催
 関連したセミナーやワークショップを開催している。過去1年では,JANCOC/ユサコジョイントEBMRセミナー(ユサコ共催,大阪/東京),第2回Evidence-Based Medicineセミナー(自治医科大学地域医療学研究室共催),第2回システマティック・レビューワークショップ,などを行い,多くの参加者があった。
(2)出版
 コクラン共同計画に関する情報や記事をはじめとする日本語の資料集『コクラン共同計画資料集』[7]の刊行,“Systematic review”[3]と“Effectiveness and Efficiency”[1]の日本語版の発行,およびそれらの出版サポートがある。
(3)翻訳
 The Cochrane Libraryに収載されているコクランレビューの抄録を日本語に訳す作業を行い,公開している(図4)。当初,「平成9年度 難治疾患・稀少疾患に対する医薬品の適応外使用のエビデンスに関する調査研究」の予算が一部用いられた。主に薬剤師と医師が翻訳とチェック作業を行っている。このコクランレビューは医療関係者ばかりでなく,医療を受ける患者側にとっても重要な情報である。この抄録が日本語で読める利便性は計り知れない。どなたでも読めるようにインターネット上で無料で公開している(表4)。
 なお,The Cochrane Libraryは年4回発行されているので,内容についての最新情報は英語版で確認していただきたい。

コクランレビューの抄録(日本語訳)をインターネットで読む

図4 コクランレビューの抄録(日本語訳)をインターネットで読む
http://www.nihs.go.jp/dig/cochrane/jp/revabstr/jp/abidx.htmから)

(4)日本のRCTのCENTRALへの収載
 日本発行の医学系雑誌は英文のデータベースであるMEDLINEおよびEMBASEに収載されるが,その数に限りがある。JANCOCの調査によれば1999年3月現在でIndex Medicusに118誌,EMBASEに198誌であり,重複63誌を含むため,合わせても253雑誌である。MEDLINEには歯科,看護領域を含めて日本の医学雑誌約160誌が入っている。一方,日本語データベースであるJMEDICINEは約2,400誌を収載しており,先の英文のデータベースを電子的に検索しても,日本の医学雑誌に収載されるRCTなどの論文は一部しか検索されないこととなる。
 世界中で実施されたRCTの総数は50万件とも100万件ともいわれている。日本で実施されたRCTは約1万件と推定される[8]。日本のRCTの多くが世界から取り残されて埋もれ,システマティック・レビューの対象になっていない。そこで,1998年度より文部省科学研究費補助金「研究成果 公開促進費」を用いて,日本のRCTをCENTRALに収載するプロジェクトがスタートした。海外からもアクセスできるようになれば,世界的レベルのEBMの実践に役立つばかりでなく,日本における臨床研究の質的向上,さらに他の分野における研究の国際交流の可能性が高まることが考えられる。
(5)コクランレビューへの支援
 コクラン共同計画のコクランレビューにレビューアーとしての日本人の参加者がいる。協力者もおり,JANCOCのメンバーが多く,相互に連携をとっている。
 なお,コクランレビューにあたっての文献収集時にはコクラン共同レビューグループから論文の著者に問い合わせを行うことがあるが,こうした問い合わせがあった際にはぜひご協力をお願いしたい。

ランダム化比較試験(RCT) について

 EBMの実践にあたっては,エビデンス,すなわち研究をその研究デザインのタイプによって分類し,エビデンスとしての力が強いものを選択する。
 治療・予防に関するエビデンスのタイプとしては,ランダム化比較試験(ran-domized controlled trial:RCT)のメタアナリシス,RCT,比較臨床試験(controlled clinical trial:CCT)の順に強く,以下,RCTが実施されていないものや実施不可能な場合のエビデンスが挙げられる。
 RCTとは,被験者を,ランダム割付けにより医学的介入(薬,外科手術,検査,看護,教育,サービスなど)を行う群と比較対照群に分け, 評価を行う臨床試験である(図I)。医学的介入が最も適正に評価される臨床試験の方法である。RCTが複数実施されている場合には,メタアナリシスによって結果 を統合して検討する。
 従来,“randomized”は“無作為化”と訳されることが多かった。日米欧医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議(ICH)における合意に基づく 「臨床試験のための統計的原則」[4]が1998年11月に厚生省から通 知されるにあたり,“randomization”に“ランダム化”という用語があてられた。
 “ランダム割付け”とは被験者を試験のそれぞれの群に割付ける際に“chance mechanism”を用いる方法である。乱数表やコンピュータ発生させたランダムな順序を使用する5)。 被験者を作為なく複数群に分けた,というだけではランダムに割付けたとは言えない。生年月日,曜日,カルテ番号,被験者が研究に組み込まれた順番などは“準ランダム割付け” (quasi-randomization)として,これを用いたものは“比較臨床試験”(CCT)と定義される[5]
 日本で二重盲検法と称されるものは“二重盲検ランダム化比較試験”のことであり(図II),RCTとはっきり記載されていないことがあるが, CONSORT声明[6]にもあるように,論文中に明確にRCTと書くべきである。

図1_3
左の母集団から臨床試験の被験者に無作為に抽出されるプロセスが“無作為抽出(random sampling)”である。ついで,この被験者群を均等な2群にランダムに振り分けるプロセスが“ランダム割付け(random allocation, randomization)”であり,ランダム化比較試験のrandomizedはこの後者の“ランダム割付け”を指す。RNDはrandomizationの略
図I 無作為抽出とランダム割付け
fig1_4
図II 臨床試験のデザインの構造

文  献

  1. Cochrane AL:Effectiveness and efficiency―Random reflections on health services. The Nuffield Provincial Hospitals Trust, 1972[森 亨(訳):効果と効率−保健と医療の疫学−.サイエンティスト社,東京,1999]
  2. Cochrane AL:1931-1971:A critical review, with particular reference to the medical profession. In:Medicines for the year 2000, Office of Health Economics, London, 1979, p1-11
  3. Chalmers I, Altman DG:Systematic Reviews. BMJ Publishing Group, London, 1995[津谷喜一郎,別府宏圀,浜六郎(監訳):システマティックレビュー.サイエンティスト社(近刊)]
  4. 厚生省医薬安全局審査管理課長通知:「臨床試験のための統計的原則」について.1998. 11. 30; 医薬審第1047号
  5. The Cochrane Collaboration Handbook version 3.0.2(September 1997) Glossary.“The Cochrane Library”1999 Issue 1, Update Software, Oxford
  6. 津谷喜一郎,小島千枝(訳):無作為化比較試験の報告の質を改善する方法−CONSORT声明−. JAMA(日本語版)1997年7月号 : 74-79
  7. 別府宏圀,津谷喜一郎(編):コクラン共同計画資料集.サイエンティスト社,東京,1997
  8. 津谷喜一郎,山崎茂明,兼岩健二,中山健夫:日本にRCTはいくつあるか?.臨床薬理 30(1): 189-190, 1999